「愛奈、ちょっといい」
「いいよ~私のハグをご所望かな」
「ち、違うって。選挙の話の続きがしたいの」
授業の合間の十分休憩、僕がトランプを切っている時に桐野は星川に話しかけに来る。彼女たちの最近の話題は生徒会選挙だった。十月頃に行われるのだが、どうやら桐野は生徒会長に立候補したいらしく、投票数を稼ぐための戦略を星川と練っているらしい。
そして気になるのがとある噂だった。
――星川さんって、いつも生徒会の桐野といるよね。ワンちゃん立候補とかないのかな?
――ありえる。星川は何でもできるし、先生からも評価高いし。推薦とかありそう
――もし生徒会長志望だったら、頂上対決じゃん。実績の桐野VS人気者の星川って感じ?
これまでの様子を見る限りでは、なしではない方向性ではある。星川は青春への憧れが強いみたいだし、生徒会長になって、あれこれ学校を動かしたい、と思っても不思議ではない。
だが、彼女は帰宅部で、部活に入るのを諦めた背景がある。その点を踏まえれば可能性としては低いとみるのが妥当だろう。
……とはいえ、星川も生徒会選挙の話はノリノリで相談に乗っているのは事実としてある。アイデアを次々に出す姿勢は桐野以上にあった。何か、次に当てるトランプのヒントになればいいのだが……。
「……だからさ。私が選挙で当選したら、愛奈にも生徒会に入ってほしいんだ」
「えっ私?!」
「うん、愛奈と一緒ならすごく心強いし、楽しい学校にできると思う」
桐野は星川の手をぎゅっと握り、彼女を一心に見つめる。
「お願い」
「ちょっと……考えさせて。でもあまり期待しないでね」
「うん、考えてくれるだけで嬉しいよ。じゃ」
桐野は自分の席へ戻っていく。普段であれば、星川は彼女の頼みをすんなり受け入れることが多いのだが、否定的な意味を含ませた回答なのは珍しい。
もしかして、噂が本当の可能性も……あるのか?
そんなことを考えながら、次に当てるトランプの候補に目をつけた。
放課後、裏門にいくと、近くの階段で座り、ももに両肘をつき、溜息を吐く星川を見つけた。
「何してるの?」
「うわ、驚かせないでよ」
「え、いつものように声かけたつもりだけど。むしろ驚いたことにびっくりだ」
「乙女には色々あるんですー」
そうブーブー言いながら、彼女はトランプを取り出す。残り十二枚。まだ一枚しか当てられてないのもあり、星川の手にはたくさんのトランプがあった。
僕はその中でもあるトランプが目に留まる。
【星川5 🤫】
この絵文字を見る限りでは、何か口では言いづらい秘密を抱えているリストな気がする。それが何なのかは、情報が少ない段階では判断出来そうにない。
ただ、今日の授業の合間に桐野と話していた内容とも関わってくるかもしれない。もし全然違っていたとしても、きっかけにはなるかもしれないな。
僕はそう思って探りを入れることにした。
「生徒会選挙のことで悩んでいるのか?」
「……聞いてたの?」
「そりゃ、後ろの席だからな、嫌でも聞こえてくる」
「だよね~うん、どうしようかなって」
星川は空を見上げる。僕も顔を上げると、空は薄っすらと全体に雲が広がっていた。太陽は隠れていないものの、何だかぼんやりとしていて煮え切らない印象を受ける。
「星川にしてはらしくないな。いつもなら即決して動くのに」
「今回ばかりは言いづらいよ。友達を、裏切ることになるから」
「そんなに悩むことなのか? まぁ選挙となるとことが大きいとは思うけど」
「うん……」
彼女は言葉に詰まるようで、唇を噛み、スカートの袖をギュッと握っている。相当悩んでいるらしい。だが、ここにいつまでもいることは出来なかった。
「あんまり時間もないし、今日も始めようか」
「分かった。それで、次に当てるものは決まったのかな?」
「これにしようと思う。口に人差し指を置いてるやつ」
僕は彼女の手にある五番目のカードを指差し、星川はむっと顔をしかめながらそれ以外のカードをしまった。
「ふーん、今このトランプにするなんて、君はいじわるだね」
「まぁ……何かしら関係しそうな気もするから。戦略の内だ」
「あっそ、君が私に優しくないことがよ~く分かりました。んで質問はあるの?」
「いや、今は質問しなくていいや。まずは方向性のチェックからだし。最初に探るよりも回答を言ってから探った方が効率いいんだ」
彼女は僕を見つめ、両眉を上げる。
「へ~頼もしくなってきたじゃん。何々、言ってみなさいな」
僕は改めて思考を整理する。星川には青春に憧れがあり、それがトランプにも影響していそうな節がある。まだ仮説にすぎないが、生徒会選挙については青春が絡まる要素として考えることもできるだろう。
星川の友人の桐野は生徒会長になるべく、立候補する予定だ。彼女が桐野に頼まれた手伝いの申し出に対して、星川がここまで悩む場合、単なる忙しさというだけでは足りないはずだ。
もっと重要な理由があるはず……それを考えるとすれば、ある一つの可能性に辿り着いた。個人的には方向性としてないとは思うが、確認の意も込めて半分冗談で言ってみることにした。
――生徒会長になって、学校を私色に染めてみたい。
星川は、目を丸くし、口をぽかーんと開けたかと思いきや、すぐに腹を抱えて笑い始めた。
「くくくく、バ、バカだ、バカがいる」
「おい、そこまで笑わなくてもよくない?」
「だって、はははは。君、最高だよ」
彼女は足をバタバタさせ、僕の肩を叩いて笑い続けていた。数分してようやく落ち着きを取り戻す星川。
「はー笑った笑った。君、将来お笑い芸人になりなよ」
「絶対イヤ。それで、どうなの?」
「えー全然違うよ。私がそんなタイプに見えた?」
「ワンちゃんやりかねない」
「うわーそんな壮大にはやらないよ。やれたらきっと、面白いんだろうけどさ」
星川はそうボソッと呟き、自身の手に目を向ける。
「私ができるとしたら、ちょっとしたズル位だよ。覚えてる? 席替えのこと」
「あぁ、よく覚えてる。忘れられないよ」
彼女は席替えの時に裏読みトランプの願い――窓際一番後ろの席に座りたい――を実行に移すため、くじ引きに細工を加えた。星川は基本的にそういうズルをしない性格だと思っていたので、印象に残っている。
「あれくらいが私にとっては丁度良いスパイスなんだよ。品行方正でもないし」
「なるほど、参考にさせてもらう」
「どうぞ~。何だか君のせいであほらしくなっちゃった。うん決めた。私、断るよ」
「いいのか?」
「うん、申し訳ないけどね。ただ、言うのはまだ怖いかな……時間かかっちゃいそう」
「そっか」
僕らはぼんやりとした空を眺めながら、裏読みトランプを続けた。
数日後の放課後、次第に日差しが強くなり、外の石階段がひんやりと感じられるこの頃。
周囲から色んな部活動の声が聞こえる中、裏門付近は閑散としていた。
「桐野には言えた?」
「言わなくても分かるでしょ。すぐに人は変わらないの。それより、今日は何にするの?」
「もちろん、あのトランプだよ」
彼女は【星川5 🤫】を僕に差し出してくる。手に取って見ると、少しこちらをいじってきているような目線が星川っぽく感じた。
「やっぱりこれは、清く正しい人の顔には見えないな」
「でしょ~絵文字の種類によっては真面目な人になるけどね」
星川は僕の話を肯定した。まだ推測の域を出ないが、ちょっとズルをするようなお願いの可能性もある。彼女自身も品行方正ではないと言っていたし。
学校でできるズル……か。以前の話では制服の改造も話題に上がったけどそれは違ったし、流石にカンニングはしないだろう。そんなことを考えている内に、素朴な疑問が湧いた。
「そういえば、星川って学校休んだことってあったっけ?」
「殆どないよ。片手で数えられる位じゃないかな」
「その中で学校をサボったことは?」
「ふふふ、ないよ。一度も」
星川は立ち上がり、手を後ろに組んでからこちらに顔を向けてニヤッと笑う。どうやら、彼女の勘所にヒットしたようだ。
「了解。最後に一つだけ質問。学校をサボってみたいと思ったことは?」
「ある! めっちゃある」
もうこれは確定に違いない。僕は彼女から借りた【星川5 🤫】を返して、当てることにした。
【星川5 学校をサボってみたい 🤫】
「正解! いや~楽しみだな。今からワクワクしちゃう」
「そんなに?」
「当たり前だよ~中学校も小学校でもサボったことないんだもん」
彼女の頬は赤く染まり、右手で髪を撫でる。彼女は何だかんだ優等生だったようだ。
「君はどうなの? サボったこと、あるの?」
「僕もないよ」
「ほんと! 一緒に学校、サボっちゃおっか。共犯者さん?」
ニシシと、悪だくみの笑みを浮かべる星川。
「あ~あ、ちょっと前までは探偵だったのに」
「本当だよ。君のせい、だからね」
僕に押し付けないでほしい、とも正直思ったが彼女の楽しそうな様子を見て、言うのは野暮だと思い、頭の中で留めておくことにした。
「いいよ~私のハグをご所望かな」
「ち、違うって。選挙の話の続きがしたいの」
授業の合間の十分休憩、僕がトランプを切っている時に桐野は星川に話しかけに来る。彼女たちの最近の話題は生徒会選挙だった。十月頃に行われるのだが、どうやら桐野は生徒会長に立候補したいらしく、投票数を稼ぐための戦略を星川と練っているらしい。
そして気になるのがとある噂だった。
――星川さんって、いつも生徒会の桐野といるよね。ワンちゃん立候補とかないのかな?
――ありえる。星川は何でもできるし、先生からも評価高いし。推薦とかありそう
――もし生徒会長志望だったら、頂上対決じゃん。実績の桐野VS人気者の星川って感じ?
これまでの様子を見る限りでは、なしではない方向性ではある。星川は青春への憧れが強いみたいだし、生徒会長になって、あれこれ学校を動かしたい、と思っても不思議ではない。
だが、彼女は帰宅部で、部活に入るのを諦めた背景がある。その点を踏まえれば可能性としては低いとみるのが妥当だろう。
……とはいえ、星川も生徒会選挙の話はノリノリで相談に乗っているのは事実としてある。アイデアを次々に出す姿勢は桐野以上にあった。何か、次に当てるトランプのヒントになればいいのだが……。
「……だからさ。私が選挙で当選したら、愛奈にも生徒会に入ってほしいんだ」
「えっ私?!」
「うん、愛奈と一緒ならすごく心強いし、楽しい学校にできると思う」
桐野は星川の手をぎゅっと握り、彼女を一心に見つめる。
「お願い」
「ちょっと……考えさせて。でもあまり期待しないでね」
「うん、考えてくれるだけで嬉しいよ。じゃ」
桐野は自分の席へ戻っていく。普段であれば、星川は彼女の頼みをすんなり受け入れることが多いのだが、否定的な意味を含ませた回答なのは珍しい。
もしかして、噂が本当の可能性も……あるのか?
そんなことを考えながら、次に当てるトランプの候補に目をつけた。
放課後、裏門にいくと、近くの階段で座り、ももに両肘をつき、溜息を吐く星川を見つけた。
「何してるの?」
「うわ、驚かせないでよ」
「え、いつものように声かけたつもりだけど。むしろ驚いたことにびっくりだ」
「乙女には色々あるんですー」
そうブーブー言いながら、彼女はトランプを取り出す。残り十二枚。まだ一枚しか当てられてないのもあり、星川の手にはたくさんのトランプがあった。
僕はその中でもあるトランプが目に留まる。
【星川5 🤫】
この絵文字を見る限りでは、何か口では言いづらい秘密を抱えているリストな気がする。それが何なのかは、情報が少ない段階では判断出来そうにない。
ただ、今日の授業の合間に桐野と話していた内容とも関わってくるかもしれない。もし全然違っていたとしても、きっかけにはなるかもしれないな。
僕はそう思って探りを入れることにした。
「生徒会選挙のことで悩んでいるのか?」
「……聞いてたの?」
「そりゃ、後ろの席だからな、嫌でも聞こえてくる」
「だよね~うん、どうしようかなって」
星川は空を見上げる。僕も顔を上げると、空は薄っすらと全体に雲が広がっていた。太陽は隠れていないものの、何だかぼんやりとしていて煮え切らない印象を受ける。
「星川にしてはらしくないな。いつもなら即決して動くのに」
「今回ばかりは言いづらいよ。友達を、裏切ることになるから」
「そんなに悩むことなのか? まぁ選挙となるとことが大きいとは思うけど」
「うん……」
彼女は言葉に詰まるようで、唇を噛み、スカートの袖をギュッと握っている。相当悩んでいるらしい。だが、ここにいつまでもいることは出来なかった。
「あんまり時間もないし、今日も始めようか」
「分かった。それで、次に当てるものは決まったのかな?」
「これにしようと思う。口に人差し指を置いてるやつ」
僕は彼女の手にある五番目のカードを指差し、星川はむっと顔をしかめながらそれ以外のカードをしまった。
「ふーん、今このトランプにするなんて、君はいじわるだね」
「まぁ……何かしら関係しそうな気もするから。戦略の内だ」
「あっそ、君が私に優しくないことがよ~く分かりました。んで質問はあるの?」
「いや、今は質問しなくていいや。まずは方向性のチェックからだし。最初に探るよりも回答を言ってから探った方が効率いいんだ」
彼女は僕を見つめ、両眉を上げる。
「へ~頼もしくなってきたじゃん。何々、言ってみなさいな」
僕は改めて思考を整理する。星川には青春に憧れがあり、それがトランプにも影響していそうな節がある。まだ仮説にすぎないが、生徒会選挙については青春が絡まる要素として考えることもできるだろう。
星川の友人の桐野は生徒会長になるべく、立候補する予定だ。彼女が桐野に頼まれた手伝いの申し出に対して、星川がここまで悩む場合、単なる忙しさというだけでは足りないはずだ。
もっと重要な理由があるはず……それを考えるとすれば、ある一つの可能性に辿り着いた。個人的には方向性としてないとは思うが、確認の意も込めて半分冗談で言ってみることにした。
――生徒会長になって、学校を私色に染めてみたい。
星川は、目を丸くし、口をぽかーんと開けたかと思いきや、すぐに腹を抱えて笑い始めた。
「くくくく、バ、バカだ、バカがいる」
「おい、そこまで笑わなくてもよくない?」
「だって、はははは。君、最高だよ」
彼女は足をバタバタさせ、僕の肩を叩いて笑い続けていた。数分してようやく落ち着きを取り戻す星川。
「はー笑った笑った。君、将来お笑い芸人になりなよ」
「絶対イヤ。それで、どうなの?」
「えー全然違うよ。私がそんなタイプに見えた?」
「ワンちゃんやりかねない」
「うわーそんな壮大にはやらないよ。やれたらきっと、面白いんだろうけどさ」
星川はそうボソッと呟き、自身の手に目を向ける。
「私ができるとしたら、ちょっとしたズル位だよ。覚えてる? 席替えのこと」
「あぁ、よく覚えてる。忘れられないよ」
彼女は席替えの時に裏読みトランプの願い――窓際一番後ろの席に座りたい――を実行に移すため、くじ引きに細工を加えた。星川は基本的にそういうズルをしない性格だと思っていたので、印象に残っている。
「あれくらいが私にとっては丁度良いスパイスなんだよ。品行方正でもないし」
「なるほど、参考にさせてもらう」
「どうぞ~。何だか君のせいであほらしくなっちゃった。うん決めた。私、断るよ」
「いいのか?」
「うん、申し訳ないけどね。ただ、言うのはまだ怖いかな……時間かかっちゃいそう」
「そっか」
僕らはぼんやりとした空を眺めながら、裏読みトランプを続けた。
数日後の放課後、次第に日差しが強くなり、外の石階段がひんやりと感じられるこの頃。
周囲から色んな部活動の声が聞こえる中、裏門付近は閑散としていた。
「桐野には言えた?」
「言わなくても分かるでしょ。すぐに人は変わらないの。それより、今日は何にするの?」
「もちろん、あのトランプだよ」
彼女は【星川5 🤫】を僕に差し出してくる。手に取って見ると、少しこちらをいじってきているような目線が星川っぽく感じた。
「やっぱりこれは、清く正しい人の顔には見えないな」
「でしょ~絵文字の種類によっては真面目な人になるけどね」
星川は僕の話を肯定した。まだ推測の域を出ないが、ちょっとズルをするようなお願いの可能性もある。彼女自身も品行方正ではないと言っていたし。
学校でできるズル……か。以前の話では制服の改造も話題に上がったけどそれは違ったし、流石にカンニングはしないだろう。そんなことを考えている内に、素朴な疑問が湧いた。
「そういえば、星川って学校休んだことってあったっけ?」
「殆どないよ。片手で数えられる位じゃないかな」
「その中で学校をサボったことは?」
「ふふふ、ないよ。一度も」
星川は立ち上がり、手を後ろに組んでからこちらに顔を向けてニヤッと笑う。どうやら、彼女の勘所にヒットしたようだ。
「了解。最後に一つだけ質問。学校をサボってみたいと思ったことは?」
「ある! めっちゃある」
もうこれは確定に違いない。僕は彼女から借りた【星川5 🤫】を返して、当てることにした。
【星川5 学校をサボってみたい 🤫】
「正解! いや~楽しみだな。今からワクワクしちゃう」
「そんなに?」
「当たり前だよ~中学校も小学校でもサボったことないんだもん」
彼女の頬は赤く染まり、右手で髪を撫でる。彼女は何だかんだ優等生だったようだ。
「君はどうなの? サボったこと、あるの?」
「僕もないよ」
「ほんと! 一緒に学校、サボっちゃおっか。共犯者さん?」
ニシシと、悪だくみの笑みを浮かべる星川。
「あ~あ、ちょっと前までは探偵だったのに」
「本当だよ。君のせい、だからね」
僕に押し付けないでほしい、とも正直思ったが彼女の楽しそうな様子を見て、言うのは野暮だと思い、頭の中で留めておくことにした。

