帝の犬の契約嫁による健康管理帖~紫鬼編~

 
 らしくなくしくしくしている矢守秋人とどうにか一旦離れたくてお風呂に押し入れた。
 そして、ぎくしゃくしながら食事をした。
 
「芹……えっと、さっきの……いや、いい」
「……ふふ」

 未だにしおらしい矢守秋人を見ていて、どこかもう心は軽くなっていた私はいつもの雰囲気で問い詰めていった。

「真帆路くんに私を見張らせて旦那様はここ数日何をなさっていたんです?」 
「連日、君の事を調べていた」
「探られて痛い腹はないですが……何かでてきました?」

 君の事、というよりはと矢守秋人は前置きをして語り出した。

「何故、紫鬼(しき)は君を迎えにくるといったのか……本来鬼ならば、新月を待たずに攫って食えばいい。それなのに、やけに丁寧だったのが引っかかっていた」
「たしかに、そうですね」
「それで、なんとなく察しが付いたのが三日前」
「私が倒れた日、ですか?」
「そう」

 矢守秋人はまだぎくしゃくしながら眼鏡を外した。
 
 怖くないと言ったのに彼は私が怖がっていると思っているようだった。 

 緑色の炎が揺らめく瞳が現れ、恐る恐るではあるものの私を真っすぐ見つめていた。

「その目、どうなっているんです? 眼鏡をしているとわからないものですね。細工がしてあるとか」
「……大丈夫なのか」
「怖くないっていったじゃないですか」
「そ、そうか……近い、寄らないでほしい」

 あの矢守秋人がおどおど照れている。
 明日は槍が降るかもしれない。

「額から血を流していた君の血を袖で押さえた時に、蓮華の花みたいな香が漂っていた。おそらく紫鬼も同じく感じたのだろう」
「血から花の香りなんてそんな、あるわけ」

 蓮華の花……。血……。

「何か関連した過去の記録がないかを帝都御所の記録書庫で探して、今朝ようやく見つけた」
「何が書いて」
「鬼と蓮華の花の神子の話だった」
「蓮華の花の神子?」
「実際、御伽噺なのか、実話なのかは定かじゃない」

 どこかのおとぎ話とか言い伝えとかだろうか。
 私は全く聞いたことがない。

「記載によると元々、色鬼は蓮華の花の神子を守る存在だったらしい」
「悪い存在じゃないってことですか?」
「と言っても、蓮華の花の神子は守られるばかりじゃない。生まれ変わりが現れるほど、色鬼に何度も喰われたり、殺されてる」

 神子を守る存在が色鬼だったのに……神子を喰ったり、殺す?
 なにか理由があるのかな。

「旦那様も何か湧き上がってくるものがあったりすんですか? こう、本能的な……」
「いや、俺には全くない。混血だからかもしれないが、芹の血から蓮華の花の香りを感じたくらいで……」

 ……旦那様は色鬼の因縁関係なく、蓮華の花の神子とか置いておいて私がいいって思ったってこと……
それはとてもむず痒い気がする。

「確信できたのは、色鬼が君を狙う理由が本能的にか、因縁なのか、あるってことだ」