あのスキャンダル未遂から一年。
駿の人気は衰えるどころか、実力派俳優としてさらに強固なものになっていた。そして俺たちは、自分の狭いアパートを引き払い、駿の事務所が厳重にセキュリティを管理する都内の高級マンションで、ついに本格的な同棲生活を始めていた。
しかし、世間的にはまだ「仲のいい幼なじみ」という設定のままだ。
そんなある日、駿が神妙な面持ちで、我が家の広くなったリビングのソファに腰掛けた。
「千秋。俺、次の契約更新のタイミングで、事務所の社長と鬼頭さん(マネージャー)に全部話そうと思う」
「全部って……俺たちが付き合ってて、ここで一緒に住んでるってことか?」
「うん。それだけじゃなくて、俺が同性愛者だってことも。いつまでも千秋を『ただの友達』として隠しておくのは嫌なんだ」
駿の目は、かつてないほど真っ直ぐだった。
トップ俳優がゲイであることを公表し、同棲を認める――それがどれほどのリスクを伴うか、私にも痛いほど分かった。だが、駿の覚悟は決まっていた。
「……分かった。お前がそこまで言うなら、俺も一緒に怒られに行ってやるよ」
「千秋……! 大好き!ありがとう!」
シリアスな雰囲気が一瞬で吹き飛び、駿は巨大な大型犬となって私に飛びついてきた。
数日後。私たちは事務所の重役会議室にいた。
机を挟んで座るのは、強面の社長と、胃を押さえて青ざめているマネージャーの鬼頭さんだ。
「――以上が、俺と千秋の真実です。俺は千秋を愛してるし、彼なしでの俳優人生は考えられません」
駿が堂々と宣言すると、会議室に重苦しい沈黙が流れた。
鬼頭さんが「は?、駿、お前正気か……! 今がどれだけ大事な時期か……っ」と頭を抱える。
しかし、じっと私たちの話を聞いていた社長が、ふっと鼻で笑った。
「佐野。お前がそこまで惚れ込んでる相手なら、さぞ仕事のモチベーションも上がるんだろうな?」
「はい。千秋が家にいてくれるなら、アカデミー賞でもなんでも獲ってきます」
「よし、ならいい。ただし、公表の仕方はこちらに任せろ。中途半端に週刊誌に売られるくらいなら、お前の言葉で堂々と世間に叩きつけてやれ」
まさかの社長の男気あふれる快諾に、私たちは胸を撫で下ろした。こうして、前代未聞の「公式発表」へのプロジェクトが動き出したのだ。
そして迎えた、駿のデビュー記念日。
駿の公式SNS、および所属事務所からのプレスリリースが同時に発信された。それは、お決まりの芸能人の結婚報告のような堅苦しいものではなく、駿らしい直筆のメッセージだった。
『いつも応援してくださる皆様へ。
私、佐野駿は、かねてよりお付き合いをしておりました同性パートナーと同棲し、共に人生を歩んでおります。また、自身のセクシュアリティについても、ありのままの自分として表現の世界に向き合っていきたいと考えております。これからも一人の役者として、誠心誠意、作品を届けてまいります』
スマホの画面を見つめる私の横で、駿が私の手をぎゅっと握りしめていた。手のひらが少し汗ばんでいる。さすがの国宝級も、世間の反応は怖いらしい。
案の定、ネット上は大爆発を起こした。
「駿くんゲイだったの!?」「同棲相手ってまさかあの時の幼なじみ!?」という驚きの声から、一部の批判的な声。しかし、それ以上に多かったのは――
『あの伝説の映画の演技は、パートナーへの愛があったからこそなんだね』
『嘘をつかずに堂々と公表する駿くん、男前すぎてさらに惚れた』
『幼なじみと大恋愛の末に同棲とか、リアル少女漫画(BL)すぎて尊い』
という、圧倒的な祝福と支持の声だった。
「……よかったな、駿」
私が声をかけると、駿は張り詰めていた糸が切れたように、私の肩に頭を埋めてホロホロと涙を流した。
「よかった……っ。これでやっと、街で堂々と千秋の手を握れる……」
「いや、外ではまだ自重しろ。パパラッチが余計に群がるだろ」
数日後。
世間公認のカップル(?)になった俺たちの日常は、驚くほど何も変わっていなかった。
いや、一つだけ変わったことがある。
「千秋! 今日のWEBニュース見た!? 『佐野駿のハートを射止めた幼なじみ、実は有能Webデザイナー』って記事が出てたよ! 俺、千秋のホームページのリンク、自分のSNSに貼って宣伝しとくね!」
「絶対にやめろ!!! サーバーが爆発するだろ!!!」
事務所と世間を味方につけた国宝級イケメンの独占欲と暴走は、さらにスケールアップして私を困らせるのだった。
(アフターストーリー・公表編・完結)
駿の人気は衰えるどころか、実力派俳優としてさらに強固なものになっていた。そして俺たちは、自分の狭いアパートを引き払い、駿の事務所が厳重にセキュリティを管理する都内の高級マンションで、ついに本格的な同棲生活を始めていた。
しかし、世間的にはまだ「仲のいい幼なじみ」という設定のままだ。
そんなある日、駿が神妙な面持ちで、我が家の広くなったリビングのソファに腰掛けた。
「千秋。俺、次の契約更新のタイミングで、事務所の社長と鬼頭さん(マネージャー)に全部話そうと思う」
「全部って……俺たちが付き合ってて、ここで一緒に住んでるってことか?」
「うん。それだけじゃなくて、俺が同性愛者だってことも。いつまでも千秋を『ただの友達』として隠しておくのは嫌なんだ」
駿の目は、かつてないほど真っ直ぐだった。
トップ俳優がゲイであることを公表し、同棲を認める――それがどれほどのリスクを伴うか、私にも痛いほど分かった。だが、駿の覚悟は決まっていた。
「……分かった。お前がそこまで言うなら、俺も一緒に怒られに行ってやるよ」
「千秋……! 大好き!ありがとう!」
シリアスな雰囲気が一瞬で吹き飛び、駿は巨大な大型犬となって私に飛びついてきた。
数日後。私たちは事務所の重役会議室にいた。
机を挟んで座るのは、強面の社長と、胃を押さえて青ざめているマネージャーの鬼頭さんだ。
「――以上が、俺と千秋の真実です。俺は千秋を愛してるし、彼なしでの俳優人生は考えられません」
駿が堂々と宣言すると、会議室に重苦しい沈黙が流れた。
鬼頭さんが「は?、駿、お前正気か……! 今がどれだけ大事な時期か……っ」と頭を抱える。
しかし、じっと私たちの話を聞いていた社長が、ふっと鼻で笑った。
「佐野。お前がそこまで惚れ込んでる相手なら、さぞ仕事のモチベーションも上がるんだろうな?」
「はい。千秋が家にいてくれるなら、アカデミー賞でもなんでも獲ってきます」
「よし、ならいい。ただし、公表の仕方はこちらに任せろ。中途半端に週刊誌に売られるくらいなら、お前の言葉で堂々と世間に叩きつけてやれ」
まさかの社長の男気あふれる快諾に、私たちは胸を撫で下ろした。こうして、前代未聞の「公式発表」へのプロジェクトが動き出したのだ。
そして迎えた、駿のデビュー記念日。
駿の公式SNS、および所属事務所からのプレスリリースが同時に発信された。それは、お決まりの芸能人の結婚報告のような堅苦しいものではなく、駿らしい直筆のメッセージだった。
『いつも応援してくださる皆様へ。
私、佐野駿は、かねてよりお付き合いをしておりました同性パートナーと同棲し、共に人生を歩んでおります。また、自身のセクシュアリティについても、ありのままの自分として表現の世界に向き合っていきたいと考えております。これからも一人の役者として、誠心誠意、作品を届けてまいります』
スマホの画面を見つめる私の横で、駿が私の手をぎゅっと握りしめていた。手のひらが少し汗ばんでいる。さすがの国宝級も、世間の反応は怖いらしい。
案の定、ネット上は大爆発を起こした。
「駿くんゲイだったの!?」「同棲相手ってまさかあの時の幼なじみ!?」という驚きの声から、一部の批判的な声。しかし、それ以上に多かったのは――
『あの伝説の映画の演技は、パートナーへの愛があったからこそなんだね』
『嘘をつかずに堂々と公表する駿くん、男前すぎてさらに惚れた』
『幼なじみと大恋愛の末に同棲とか、リアル少女漫画(BL)すぎて尊い』
という、圧倒的な祝福と支持の声だった。
「……よかったな、駿」
私が声をかけると、駿は張り詰めていた糸が切れたように、私の肩に頭を埋めてホロホロと涙を流した。
「よかった……っ。これでやっと、街で堂々と千秋の手を握れる……」
「いや、外ではまだ自重しろ。パパラッチが余計に群がるだろ」
数日後。
世間公認のカップル(?)になった俺たちの日常は、驚くほど何も変わっていなかった。
いや、一つだけ変わったことがある。
「千秋! 今日のWEBニュース見た!? 『佐野駿のハートを射止めた幼なじみ、実は有能Webデザイナー』って記事が出てたよ! 俺、千秋のホームページのリンク、自分のSNSに貼って宣伝しとくね!」
「絶対にやめろ!!! サーバーが爆発するだろ!!!」
事務所と世間を味方につけた国宝級イケメンの独占欲と暴走は、さらにスケールアップして私を困らせるのだった。
(アフターストーリー・公表編・完結)
