国宝級イケメンは、鍵を返してくれない

それから半年後。
都内のプレミアムシアターで、私は一番後ろの席に座っていた。
スクリーンに映し出されているのは、駿の主演映画だ。
映画の中の駿は、愛する人を失い、雨の中で慟哭していた。その圧倒的な演技力と美しさに、劇場内からはすすり泣く声が聞こえる。スキャンダルを跳ね返し、彼は本物の「大俳優」へと脱皮を遂げたのだ。
映画が終わり、盛大な拍手の中、エンドロールが流れ始める。
画面に流れるスタッフロールを見つめながら、私はそっと劇場をあとにした。
スマホを取り出すと、駿からのメッセージが入っている。
『上映終わった? 今、裏口から車が出る。いつもの場所で待ってて』
私はクスッと笑って、足早に歩き出した。
いつもの狭いアパートに戻り、ジャージに着替えてお湯を沸かす。
しばらくすると、ガチャリと鍵が開く音がした。もう、彼が合鍵を返すことは二度とない。
「千秋! 映画どうだった!?」
ドアを開けるなり、日本中の憧れの的が、犬のように駆け寄ってきて私を抱きしめる。
「最高だったよ、天才俳優さん。はい、ご褒美の麦茶」
「やった! ……ねえ千秋、映画のインタビューで『今一番感謝したい人は?』って聞かれてさ」
「おい、また変なこと言ってないだろうな」
「『俺のすべてのインスピレーションの源であり、世界で一番愛している幼なじみです』って答えた」
「バカ!!! またSNSが爆発するだろ!!!」
怒る私を、駿は嬉しそうに笑って、そのまま押し倒すようにキスをした。
世間がどれだけ彼に熱狂しようとも、私の前で見せるこの甘ったれた笑顔と、激しい情熱は私だけのものだ。
テレビの中の国宝級イケメンは、今日も我が家のリビングで、私の愛を独り占めしている。