国宝級イケメンは、鍵を返してくれない

数日後、雨が激しく降る夜だった。
インターホンも鳴らさず、突如として我が家のドアが荒々しく開いた。
「千秋……っ!」
そこに立っていたのは、びしょ濡れの駿だった。変装もせず、息を切らし、狂ったような目で私を見つめている。
「駿!? なんで……事務所に止められてるんじゃ」
「マネージャーの目を盗んで走ってきた。……千秋、これ何」
駿の手には、私が彼の事務所宛てに郵送したはずの『合鍵』が握られていた。
「何って……返したんだよ。もうここには来ない方がいい。お前のキャリアが終わっちゃうだろ」
私がなるべく冷静に言うと、駿は私の肩を強く掴み、壁に押し付けた。その目は、今までに見たことがないほど真剣で、怒りと悲しみに満ちていた。
「ふざけるな! 俺のキャリアなんて、千秋がいないなら何の意味もない!」
「駿……」
「演技じゃない……! ずっと、ずっと前から、俺が好きなのは千秋だけだ! 初めてテレビに出た時も、賞をもらった時も、一番に見てほしかったのは千秋なんだよ! 頼むから、俺を遠ざけないでくれ……!」
駿の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
国宝級イケメンが、私の前でプライドも全て捨てて泣いている。
その姿を見た瞬間、私の理性の堤防が決壊した。
「……バカ。大バカ者だ、お前は」
私は駿の首に手を回し、その濡れた唇に、自分からキスをした。
驚きに目を見開いた駿だったが、すぐに私を壊れ物を扱うように優しく、だけど深く抱きしめ返してきた。雨の音だけが響く部屋で、私たちは何度も何度も、これまでの時間を埋めるように唇を重ねた。