星降る夜の寓話

殺人犯や強盗犯を追いかけていた律は、夜中のスイカ泥棒を捕まえるために、もう何日も畑で張り込んでいる。

わたしは、もうすぐ帰って来る律のために、朝ご飯の支度をする。

駐在所の外に自転車を停める音が聞こえた。

小さな駐在所は、すぐ奥がもう自宅になっている。

「ただいま」

その声に、急いで迎えに出た。

「お帰りなさい」
「美味しそうな香りがする」

律の手が、わたしの頬にかかった髪の毛をすくった。

「朝っぱらから仲いいねぇ」

いつからいたのか、近所(と言っても随分離れているけど)に住む吉井さんが立っていた。

「吉井さん、何でいるんですか! って、いつからそこにいたんですか!」
「駐在さんが奥さんにチューしたところから」
「してませんよ! 何の用ですか!」
「何って、キュウリがとれすぎたから、あっちから順番に配って回ってて、最後がここだったのよ」

吉井さんから、新聞紙で包まれたキュウリの入ったビニール袋を受け取った。
いったいいくつあるのか、ずっしりと重い。

「わぁ、ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
「続きをどうぞ」

吉井さんが行ってしまうのを2人で見送った。

「朝ご飯出来てるよ」
「食べる。腹減った」
「スイカ泥棒捕まった?」
「まだ……今日一日休んで、また明日から張り込む」
「キュウリ、すぐに食べる?」
「キュウリ……今は見たくない」

不貞腐れたような顔を見せる律は、とても10歳年上には見えない。

「この箱何?」
「あ、それ? 大和さんから。新商品が出たからって送ってくれたの。栗饅頭と一緒に。後でキュウリのお礼に吉井さんにお裾分けに行こうかな」

お味噌汁をお椀によそっていると、律が言った。

「全部持ってけ」
「栗饅頭、好きだって言ってなかった?」
「いいから持って行け」
「うん? わかった」

朝ご飯をのせたお盆をテーブルに運ぼうとしたところで、律が紙をくしゃくしゃと丸めてゴミ箱に捨てようとしたのが見えた。

「何それ?」

お盆をテーブルの上に置いて、律が隠そうとしたものを奪い取って読んだ。


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環へ

元気ですか?

ゆずり葉では今、インバウンド向けに様々な抹茶商品を開発中です。
まずは来週発売の抹茶モナカを送ります。
他社との差別化を図かり、抹茶餡の中に大きな栗の渋皮煮が入っています。


そちらの生活は慣れましたか?

五條さんと喧嘩でもして、僕のところに帰って来るのをずっと待っています。

杠葉大和

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「これ読んで、律は栗饅頭いらないって言ったの?」
「悪いか?」
「こんなの冗談だよ」
「いーや、これは冗談じゃない。俺にはわかる。サツの勘だ。大体、人の嫁を呼び捨てにしてるところも気に食わない」
「何? 何でキョロキョロするの?」
「吉井さんがいないか確かめたんだよ。環……」

その時駐在所の入り口から大きな声が聞こえた。

「駐在さーん! トマトー!」

入り口に向かうと、ビニールいっぱいのトマトを持った橋本さんが立っていた。

「トマト持って来たから、食べて」
「ありがとうございます」
「じゃあね」

橋本さんを見送ってから、律に聞いた。

「トマト、すぐに食べる?」
「キュウリもトマトも今は見たくない。シーザーを置く場所も変える。こいつら邪魔者をちっとも追い払えてない」