星降る夜の寓話

環を探したあのクリスマスの日は、雪が降っていたけれど……



管轄外の事件に首を突っ込み、適当な理由をでっち上げて、渡瀬千鶴のPCとスマホを解析させた。
杠葉の言った通り、スマホに追跡アプリが入っていた。


けれども、GPSのさす場所はあまりにも予想外で――


バカみたいに、心の中で何度も環を呼んだ。

環
環
環

全てを放って、走った。

途中かかってきた上司からの電話も無視した。

GPSの指す場所に、環がいることを願いながら、走った。


走りながら、昔、環のばあちゃんに言われたことを思い出した。
ばあちゃん、あんたが正しかったよ。

俺は、もっと早く言葉で伝えるべきだった。


その時だった。スマホが鳴ったのは。

スマホの画面に初めて表示される名前。

『環』

「鴎外環」ではなく、ただ、「環」とだけ登録していた名前が表示されている。

初めて、環が俺に電話をかけてきた。

環が一番最初に口にした言葉を聞いて、俺は答えた。


「待ってろ、必ず見つける」


消え入りそうな声で、環が何度も言う。

「ごめんなさい……」

謝るな。
環は、もう謝らなくていい。

わがままを言え。


「環は何も気にしなくていいんだ。環はずっと俺に遠慮してただろ? もうそれも終わりだ。もっと早くそうするべきだった」
「律……わたしは……律の未来を奪うようなことをしたくない……」


気づけ。


「違う。俺が自分で選ぶんだ」


気づけよ。


「あきらめろ。俺は環のそばから離れない。環が逃げても、どこまでも追いかけて見つけてやる」

環が電話の向こうで泣いているのがわかった。

「わたし、律に迷惑かけてばかり」
「迷惑だなんて思ったことはない」
「すごく自分勝手だってわかってる。でも、聞いて欲しいの」
「俺も環にどうしても言いたいことがある」
「律に、伝えたいことがあるの」


星の綺麗な夜だった。


あの日とは違う。


あの日は雪の降る中、環を探して走った。

クリスマスの日だった。

あの時、環は大学生のガキどもに追いかけられていて、ようやくもう少しで環に手が届くと思った瞬間、上から、俺の腕の中に降ってきた。



あの時と同じ陸橋の上に、環はいた。

星空の下に。

もう少し。

もう少しで手が届く。


階段を一番上まで上がって、環と向かい合った。


「愛してる」
「愛してる」


2人で同じことを伝えあった。