星降る夜の寓話

「あの、ご用件は何でしょうか?」

受付にいた女が止めようとするのを無視して、中へ進んだ。

「け、警察呼びますよ?」

お決まりのセリフを聞いて、自分の警察手帳を見せた。

「あ……」
「杠葉大和は?」
「突き当りの部屋です」


ノックもなしに、いきなりドアを開けると、杠葉は机から目を上げた。

「いきなり失礼じゃないか? それとも日本の警察はそんなふうなのか?」
「俺の口座に、環へ貸していた金が全額振り込まれた。お前が環に金を貸したのか?」
「貸したんじゃない。あげたんだよ」
「環は、お前の所にいるんだよな?」
「僕のところにはいない」
「環はどこへ行った?」
「お金を返したんだから、それはもう君には関係ないことだろう?」
「環と付き合ってるんだよな? 環はお前のことが好きなんだよな? お前も環が好きなんだよな?」
「答える義務はない」
「頼む。大事なことなんだ。教えてくれ」

頭をさげた。
いくらでも頭くらい下げられる。
土下座だって構わない。

杠葉は答えない。

「環を、捨てたのか?」

そう言うと、杠葉があからさまに不愉快そうな表情をした。

「環を傷つけるようなことをするわけがない。望みを叶えただけだ」

杠葉の表情から、その言葉に嘘はないとわかった。
わかったからこそ、こいつの間違いに腹がたった。
冷静なその態度を許せなかった。

「ふざけんな……クソっ! 俺が……あいつをこっち側にひきとめていたのに……お前のせいで……全部お前のせいだ!」

デスクの上の物を力任せに払った。

「何を言ってるのかわからない。君は環に借金をさせることで、自分に縛り付けて自由をずっと奪ってきたんだろ? 環には自由になる権利がある」
「……自由にさせたらいけないんだ。あいつはお前に何て言った?」
「『遠くに行く』」
「……その意味がわかってるのか?」
「君の束縛がなくなったんだから、旅行が好きだって言ってたし、これまでは国内旅行ばっかりだったみたいだから、今度は海外にでも――」
「環が好きなら『遠く』の意味が何でわからない!」
「遠くの……意味?」

杠葉が眉を顰めた。