。ここからやり直せないだろうか?」
「僕とのことを考えてくれないか?」
大和さんの言っている意味がわからなくて、返事に困った。
それに……わたしには、未来なんてない。
「全部なかったことにするのは無理かもしれないけれど、それでも、過去のことは忘れて、僕とのことを考えてくれないか?」
「大和さんとのこと?」
「環のことを大切に想っている。環を幸せにしたいんだ。これからの時間を僕と一緒に過ごしてくれないか?」
大和さんは真剣な顔をしていて、からかってるんじゃないってわかる。
自分のことをそんなふうに想ってくれる人がいるなんて夢みたいな話。
だからこそ、正直に言わなくてはいけない。
「ごめんなさい。大和さんが思ってくださっているような感情は……わたしにはないです」
「それは、五條さんのことを想っているから?」
「律のことは……関係ないです」
「……環の中では『彼女のフリ』でしかなかったってこと?」
「ごめんなさい。大和さんもずっとそうなんだと思ってました」
カバンの中から、あのボールペンを取り出して大和さんに差し出した。
「これ、預かってたからお返しします」
「あげるよ」
「いいえ。わたしが持っているわけにはいかないから」
「せめてそれくらいは持っててよ。最初で最後だから」
「最後」と言われて、返せなくなった。
「ありがとうございます」
大和さんはわたしがボールペンをカバンにしまうのを黙って見ていたけれど、やがて静かに話し始めた。
「約束のお金はちゃんと払うから安心して。ストーカーの正体を暴くという目的は達成されたから。お願いがあるって言ってたよね? それは何?」
「このまま、会社を辞めさせてください」
「今後のことを気にしているんだったら何も問題はないから。僕が店舗の方に顔を出すことはないし、青葉店にも居ずらくならないように、そこは上手くやるよ。飯島にも環が困らないような理由を考える」
「違うんです。そうじゃないんです。勝手を言ってごめんなさい。でも、どうかわがままをきいてもらえませんか? 本当なら飯島さんに言って、青葉店の店長に辞表を出さなければいけないのはわかってるんです。でも、それを全部通り越して、辞めたいんです。こんなこと、大和さんにしか頼めないから」
「……わかった。僕に出来ることだね」
「ここに220万円あります。これと約束の680万円を合わせて、900万円を今からお渡しするメモに書かれた口座に一緒に振り込んでいただけませんか?」
「いいよ」
「お願いします」
律の口座番号が書かれたメモを大和さんに渡した。
「五條さんの口座?」
「はい。900万円は、わたしが律に借りていたお金です」
「借りたって、どうして?」
「わたしの父があちこちの金融機関からしていた借金を律が一括で立替えて払ってくれたんです。それでわたしは今まで律に少しづつ返していました。でも毎月5万円ずつしか受取ってくれないから、なかなか返し終わらなくて。それで一度で返せるように貯金をしてたんですけど、大和さんのおかげで全額返せます」
「それでずっと五條さんと一緒に暮らしてたってこと?」
「決めてたんです。律にお金を返して、遠くに行こうって」
「遠く?」
「はい。ずっと遠くに」
「戻って来た時に、もう一度会えないだろうか?」
「ごめんなさい」
「どうしても?」
「はい。大和さん、今までありがとうございました。わたしのことは全部。本当に、何もかも、忘れてください。ここで、失礼します」
「待って。こんなところで降りてどうやって帰るつもり?」
「駅まで歩きます」
「遠いから。もう外は暗いし、ちゃんとマンションまで送らせて。そのくらいさせてくれてもいいでしょ? 元カレに」
「元カレ……」
「正確には、彼氏のフリをしていたやつに、だけど」
大和さんは、来た時と同じように、黙ったまま運転を続け、マンションまで送ってくれた。
車を降りて、大和さんに頭を下げた。
そして一度も振り返らず、マンションのエントランスへ向かった。
「僕とのことを考えてくれないか?」
大和さんの言っている意味がわからなくて、返事に困った。
それに……わたしには、未来なんてない。
「全部なかったことにするのは無理かもしれないけれど、それでも、過去のことは忘れて、僕とのことを考えてくれないか?」
「大和さんとのこと?」
「環のことを大切に想っている。環を幸せにしたいんだ。これからの時間を僕と一緒に過ごしてくれないか?」
大和さんは真剣な顔をしていて、からかってるんじゃないってわかる。
自分のことをそんなふうに想ってくれる人がいるなんて夢みたいな話。
だからこそ、正直に言わなくてはいけない。
「ごめんなさい。大和さんが思ってくださっているような感情は……わたしにはないです」
「それは、五條さんのことを想っているから?」
「律のことは……関係ないです」
「……環の中では『彼女のフリ』でしかなかったってこと?」
「ごめんなさい。大和さんもずっとそうなんだと思ってました」
カバンの中から、あのボールペンを取り出して大和さんに差し出した。
「これ、預かってたからお返しします」
「あげるよ」
「いいえ。わたしが持っているわけにはいかないから」
「せめてそれくらいは持っててよ。最初で最後だから」
「最後」と言われて、返せなくなった。
「ありがとうございます」
大和さんはわたしがボールペンをカバンにしまうのを黙って見ていたけれど、やがて静かに話し始めた。
「約束のお金はちゃんと払うから安心して。ストーカーの正体を暴くという目的は達成されたから。お願いがあるって言ってたよね? それは何?」
「このまま、会社を辞めさせてください」
「今後のことを気にしているんだったら何も問題はないから。僕が店舗の方に顔を出すことはないし、青葉店にも居ずらくならないように、そこは上手くやるよ。飯島にも環が困らないような理由を考える」
「違うんです。そうじゃないんです。勝手を言ってごめんなさい。でも、どうかわがままをきいてもらえませんか? 本当なら飯島さんに言って、青葉店の店長に辞表を出さなければいけないのはわかってるんです。でも、それを全部通り越して、辞めたいんです。こんなこと、大和さんにしか頼めないから」
「……わかった。僕に出来ることだね」
「ここに220万円あります。これと約束の680万円を合わせて、900万円を今からお渡しするメモに書かれた口座に一緒に振り込んでいただけませんか?」
「いいよ」
「お願いします」
律の口座番号が書かれたメモを大和さんに渡した。
「五條さんの口座?」
「はい。900万円は、わたしが律に借りていたお金です」
「借りたって、どうして?」
「わたしの父があちこちの金融機関からしていた借金を律が一括で立替えて払ってくれたんです。それでわたしは今まで律に少しづつ返していました。でも毎月5万円ずつしか受取ってくれないから、なかなか返し終わらなくて。それで一度で返せるように貯金をしてたんですけど、大和さんのおかげで全額返せます」
「それでずっと五條さんと一緒に暮らしてたってこと?」
「決めてたんです。律にお金を返して、遠くに行こうって」
「遠く?」
「はい。ずっと遠くに」
「戻って来た時に、もう一度会えないだろうか?」
「ごめんなさい」
「どうしても?」
「はい。大和さん、今までありがとうございました。わたしのことは全部。本当に、何もかも、忘れてください。ここで、失礼します」
「待って。こんなところで降りてどうやって帰るつもり?」
「駅まで歩きます」
「遠いから。もう外は暗いし、ちゃんとマンションまで送らせて。そのくらいさせてくれてもいいでしょ? 元カレに」
「元カレ……」
「正確には、彼氏のフリをしていたやつに、だけど」
大和さんは、来た時と同じように、黙ったまま運転を続け、マンションまで送ってくれた。
車を降りて、大和さんに頭を下げた。
そして一度も振り返らず、マンションのエントランスへ向かった。



