星降る夜の寓話

夕方、マンションの前に立っていると、大和さんは約束の時間より20分も早く来た。
早く出ておいて良かった。


「乗って」

そう言われて助手席に乗ってシートベルトをする。

大和さんは前を向いたまま、何も言わずに運転を続ける。

そう言えばどこに向かっているのか聞いていない。

でも、なんだか大和さんがいつもと違っているように感じて黙っていた。

無言のまま随分車を走らせて、大和さんはようやく小さな公園のそばに車をとめた。


この場所を覚えている。

青葉店の近くにある、海沿いの公園。

あの時、公園には誰もいなかった。
でも、今は夕方だからか、小学生くらいの男の子がキャッチボールをしていた。
公園の隅にある木製のテーブルとベンチには、寒いことなんて気にも留めてないのか、中学生だか高校生だかの女の子が座っていて、おしゃべりをしている。



「環、こっちを向いて顔を見せて」

運転席にいる大和さんの方を見た。

大和さんがわたしの紫色の頬にそっとふれた。

「……ごめん。こんなことになったのは全部僕のせいだ」
「悪いのは犯人で、大和さんじゃないです」
「僕が彼女のフリを頼んだばっかりに、こんな目に合わせてしまった」
「大和さんのせいではありません。この怪我を負わせたのは犯人だから。悪いのは全部、犯人です。他の誰でもありません。」
「環、どうか許して欲しい。ここから始まった嘘を許して欲しい」
「前にも言いましたけど、わたしは大和さんのこと許すとか許さないとか、そんなふうに思ったことはありません。一緒に過ごした時間はとても楽しかったです。初めてのことばかりで、戸惑うことばかりだったけど。わたしのことをかばってくださったことも嬉しかったです」
「また敬語に戻ってる」
「それは、もう終わったからです。ストーカーの正体もわかって、わたしを襲った人は逮捕されました。直接手をくだしていない渡瀬千鶴も、殺人未遂教唆で罪に問われると聞きました」

わたしの頬にずっとふれていた手を離すと、大和さんはぎゅっとにぎりしめて、ハンドルの上に置いた。

「無理を承知で言わせてほしい