「飯島さん、今からパンケーキ頼むので、奢ってください。あと、飲み物の追加も。わたしは簡単に食べ物で釣られる人間ですから、それで全部チャラです」
「そんなんじゃ……割に合わない……」
「フルーツいっぱいのった高いやつを頼みます」
「いいよ、何でも奢る」
「それで飯島さんも忘れてください。わたしのことは全部。本当に、何もかも、忘れてください」
飯島さんは優しい先輩だった。
ゆずり葉に入社して間もない頃、お昼当番でひとりだった時にかかってきた電話で、理不尽なクレームを言われた。
13時になって、みんなが帰って来た時もまだそのクレームは続いていて、わたしは何度も謝り続けていた。
それに気がついた飯島さんが、すぐにわたしから電話を取り上げ、対応を代わってくれた。
後でお礼を言うと、飯島さんは驚いた。
「何でそこでお礼なの? そこは客の悪口でしょ! あんなのこっちのせいじゃないのに。いくら客だってね、言いがかりみたいなこと言われたら腹が立って当たり前なの!」
「そうですね」
「環ちゃん、何で怒んないの? こんなの我慢しなくていいんだからね!」
そんなふうに言われて、つい口に出てしまった。
「言われ慣れてますから」
「何に?」
「悪く言われることに」
「どうして? そんなのに慣れる人なんていないよ。言われて悲しくならないわけないんだから」
「いつも、言われてたんです……わたしの母は……殺人犯だから」
言ってしまってすぐに後悔した。
どんな顔をされるか、どんな反応をされるか怖かった。
でも、飯島さんは表情ひとつ変えなかった。
「だから?」
「だから……って?」
「だって、それ環ちゃんに関係ないでしょ? あ、関係はあるのか、お母さんだから……でも、それと環ちゃんとは別問題でしょ。わたしは環ちゃんが好き。可愛くて仕方ない。だから環ちゃんを傷つけるやつは許さない」
涙が、止まらなくなってしまった。
「わたしが泣かせちゃった? ごめんね、泣かないで」
あの事件以来、そんなふうに言ってくれた人は、飯島さんが初めてだった。
「そんなんじゃ……割に合わない……」
「フルーツいっぱいのった高いやつを頼みます」
「いいよ、何でも奢る」
「それで飯島さんも忘れてください。わたしのことは全部。本当に、何もかも、忘れてください」
飯島さんは優しい先輩だった。
ゆずり葉に入社して間もない頃、お昼当番でひとりだった時にかかってきた電話で、理不尽なクレームを言われた。
13時になって、みんなが帰って来た時もまだそのクレームは続いていて、わたしは何度も謝り続けていた。
それに気がついた飯島さんが、すぐにわたしから電話を取り上げ、対応を代わってくれた。
後でお礼を言うと、飯島さんは驚いた。
「何でそこでお礼なの? そこは客の悪口でしょ! あんなのこっちのせいじゃないのに。いくら客だってね、言いがかりみたいなこと言われたら腹が立って当たり前なの!」
「そうですね」
「環ちゃん、何で怒んないの? こんなの我慢しなくていいんだからね!」
そんなふうに言われて、つい口に出てしまった。
「言われ慣れてますから」
「何に?」
「悪く言われることに」
「どうして? そんなのに慣れる人なんていないよ。言われて悲しくならないわけないんだから」
「いつも、言われてたんです……わたしの母は……殺人犯だから」
言ってしまってすぐに後悔した。
どんな顔をされるか、どんな反応をされるか怖かった。
でも、飯島さんは表情ひとつ変えなかった。
「だから?」
「だから……って?」
「だって、それ環ちゃんに関係ないでしょ? あ、関係はあるのか、お母さんだから……でも、それと環ちゃんとは別問題でしょ。わたしは環ちゃんが好き。可愛くて仕方ない。だから環ちゃんを傷つけるやつは許さない」
涙が、止まらなくなってしまった。
「わたしが泣かせちゃった? ごめんね、泣かないで」
あの事件以来、そんなふうに言ってくれた人は、飯島さんが初めてだった。



