「隣の家に頼んでベランダから入った」
律は何でもないことのようにそう言うと、コーヒーに口をつける。
「やっぱこの豆買って正解だった」
「隣って……そんな危ないことしたの?」
「たかが3階だろ? あいつが家の中に入るのを見たから」
「見たって、どこで?」
「インターホンが鳴るとその映像がスマホに届くようにしていた。それから、玄関のシーザー」
「シーザーって、風水がどうとかって言ってたやつ? 何の関係があるの?」
「あれにカメラを仕込んでて、動くものがある度に録画させて、同時にスマホに届くようにしていた」
「どうしてそんなこと……」
「……最初は、写真だった」
写真……
「環がいない時に、集合ポストに送り主のない封筒が入ってた。時々、捕まえたやつが家を探し出して嫌がらせをしてきてたから、またその類かと思って封を開けた。そうしたら、中には環が杠葉と一緒にいる写真と、ちょっとした手紙が入っていた。宛先が書かれていなかったから、直接ポストに入れたんだということがわかった」
「それは、いつ?」
「環の帰りがちょくちょく遅くなり始めた頃かな。何度も届いたけど、しばらくは様子を見てた。環が帰る前にポストをチェックして、朝は俺の方が早く出るからその時も見てた」
「でも、律はいつもわたしより遅く帰ってたのに」
「途中で仕事を抜けて見に帰ってた。ポストの中身を全部抜くと環があやしむから、封筒だけ抜いてた」
「わたしが休みの日はどうしてたの?」
「マンションの管理会社に言って、監視カメラの映像を確認したんだ。上手くカメラに顔を映さないようにしていたけれど、ポストに入れる時間帯はいつも同じだったから、環が見る前に抜くようにした。それがある日、少し厚みのある箱に変わった。中を開けると、写真と虫の死骸が大量に入っていた」
大和さんの言った通りだった。
写真の次は虫の死骸……
「それがしばらく続いた後、今度は宅急便が届いた。今度ははっきりと環宛で。1回目を運よく俺が受け取った。嫌な予感がして、送り主を調べたらそんな会社は存在しなかった。だから悪いと思ったけど開封した」
大和さんの言ってた通りなら……中身は……
考えるのも怖い。
「中を見て、これはちょっとヤバいと思った。それで2回目からは触らないようにして鑑識に運んだ。前に偶然会った西藤は鑑識で、個人的に調査を頼んでた。ご飯を度々奢る羽目になったけど」
それで律は西藤さんと一緒にいたってこと?
あれはデートじゃなかったってこと?
「でも指紋一つ出なかった。だからドアフォンと置物に細工した」
だから……わたしが宅急便を受け取ろうとしたタイミングで電話がかかってきたんだ……
律は、鶏の黒酢あんかけが食べたかったわけじゃない。
あの時の律の態度の意味がようやくわかった。
「どうして言ってくれなかったの?」
「環を怖がらせたくなかったんだ。それに警察相手になめたことしてくれると思って、すぐに捕まえられると高を括ってた。でも、俺のその驕りがこんな結果を招いてしまった。本当にごめん」
「謝るのはわたしの方。ごめんなさい。わたしのせいで顔に傷ができてしまった」
「こんなのすぐ治る。環の方がひどい」
律の傷は、既に瘡蓋になっていて盛り上がっている。
律の頬の傷にそっと手でふれたとたん、律はいきなり立ち上がるとキッチンへ向かった。
「犯人が捕まって良かった。これでもう何も心配しなくていい」
一瞬だけ律にふれた手は、宙ぶらりんになってしまった。
律は何でもないことのようにそう言うと、コーヒーに口をつける。
「やっぱこの豆買って正解だった」
「隣って……そんな危ないことしたの?」
「たかが3階だろ? あいつが家の中に入るのを見たから」
「見たって、どこで?」
「インターホンが鳴るとその映像がスマホに届くようにしていた。それから、玄関のシーザー」
「シーザーって、風水がどうとかって言ってたやつ? 何の関係があるの?」
「あれにカメラを仕込んでて、動くものがある度に録画させて、同時にスマホに届くようにしていた」
「どうしてそんなこと……」
「……最初は、写真だった」
写真……
「環がいない時に、集合ポストに送り主のない封筒が入ってた。時々、捕まえたやつが家を探し出して嫌がらせをしてきてたから、またその類かと思って封を開けた。そうしたら、中には環が杠葉と一緒にいる写真と、ちょっとした手紙が入っていた。宛先が書かれていなかったから、直接ポストに入れたんだということがわかった」
「それは、いつ?」
「環の帰りがちょくちょく遅くなり始めた頃かな。何度も届いたけど、しばらくは様子を見てた。環が帰る前にポストをチェックして、朝は俺の方が早く出るからその時も見てた」
「でも、律はいつもわたしより遅く帰ってたのに」
「途中で仕事を抜けて見に帰ってた。ポストの中身を全部抜くと環があやしむから、封筒だけ抜いてた」
「わたしが休みの日はどうしてたの?」
「マンションの管理会社に言って、監視カメラの映像を確認したんだ。上手くカメラに顔を映さないようにしていたけれど、ポストに入れる時間帯はいつも同じだったから、環が見る前に抜くようにした。それがある日、少し厚みのある箱に変わった。中を開けると、写真と虫の死骸が大量に入っていた」
大和さんの言った通りだった。
写真の次は虫の死骸……
「それがしばらく続いた後、今度は宅急便が届いた。今度ははっきりと環宛で。1回目を運よく俺が受け取った。嫌な予感がして、送り主を調べたらそんな会社は存在しなかった。だから悪いと思ったけど開封した」
大和さんの言ってた通りなら……中身は……
考えるのも怖い。
「中を見て、これはちょっとヤバいと思った。それで2回目からは触らないようにして鑑識に運んだ。前に偶然会った西藤は鑑識で、個人的に調査を頼んでた。ご飯を度々奢る羽目になったけど」
それで律は西藤さんと一緒にいたってこと?
あれはデートじゃなかったってこと?
「でも指紋一つ出なかった。だからドアフォンと置物に細工した」
だから……わたしが宅急便を受け取ろうとしたタイミングで電話がかかってきたんだ……
律は、鶏の黒酢あんかけが食べたかったわけじゃない。
あの時の律の態度の意味がようやくわかった。
「どうして言ってくれなかったの?」
「環を怖がらせたくなかったんだ。それに警察相手になめたことしてくれると思って、すぐに捕まえられると高を括ってた。でも、俺のその驕りがこんな結果を招いてしまった。本当にごめん」
「謝るのはわたしの方。ごめんなさい。わたしのせいで顔に傷ができてしまった」
「こんなのすぐ治る。環の方がひどい」
律の傷は、既に瘡蓋になっていて盛り上がっている。
律の頬の傷にそっと手でふれたとたん、律はいきなり立ち上がるとキッチンへ向かった。
「犯人が捕まって良かった。これでもう何も心配しなくていい」
一瞬だけ律にふれた手は、宙ぶらりんになってしまった。



