星降る夜の寓話

ホテルへ着いた時には、もう夜の9時を過ぎていた。

部屋は、当たり前だけどシングルで、律はわたしを部屋の前まで送り届けると、そのまま、さっき乗って来たエレベーターの方へ戻ろうとした。

「どこ行くの?」
「俺はちょっとやることあるから戻らないと行けない。何か食べれそうならルームサービスでも頼めよ」
「……わかった。ありがとう」

渡されたカードキーを差して、ドアを開けると部屋に入った。

部屋の中があまりにも静かで、ぽろぽろと涙がこぼれてきた。

誰もいないから声に出した。


「行かないで……」


その瞬間、ドアがノックされた。

誰かも確かめずに、すぐにドアを開けると律が困ったような顔をして立っていた。

「相手を確認してからドアを開けろよ。いつも言ってるだろ?」

そう言って、部屋に入って来るなり、わたしを抱きしめた。

わたしの首元に顔を埋めて、律が言った。

「怖い思いをさせてごめん。痛い思いをさせてごめん。守ってやれなくてごめん」
「律の……せいじゃない」
「俺のせいだ。俺が隠したりせず、ちゃんと警告していたらこんなことにはならなかった」
「律は、わたしを助けてくれたよ? いつもわたしを助けてくれてるよ?」
「環、俺はずっと……」

律がわたしを間近で見つめる。

律の手がわたしの涙を自分の手でぬぐった。

そして、もっと律の顔が近づいて……

その唇がわたしの唇にふれようとした瞬間、スマホの着信音が鳴った。

律は、わたしにふれていた手を離した。

「電話に出ろ。きっとあいつからだ」

律はそれだけ言うと部屋を出て行った。


着信音は鳴り続けたままだったけれど、出ることもできずそのままでいた。
そのうち一度切れて、またすぐに鳴り始めた。

ずっと鳴り続く着信音に、ようやくカバンの中からスマホ出して見ると、画面に表示されていたのは律の言った通り、大和さんの名前だった。

通話のアイコンをタップすると、すぐに大和さんの動揺した声が聞こえた。

「環、何があった? 今どこ?」
「ホテル」
「五條さんから連絡があった」

その一言で、泣き崩れてしまった。


律は……わたしが大和さんといる方がいいと思ってる……


「環? 環?」

電話の向こうで大和さんのわたしを呼ぶ声が何度も聞こえたけれど、返事をすることができなかった。