星降る夜の寓話

大和さん?
どうして大和さんの名前が出てくるの?

「ここにはいませんけど?」
「隠しても無駄!」

女性が1歩前に近づいて来る。

「隠してなんかないです」
「もう2日もこの部屋にいる」

また1歩近づく。
それで、わたしは1歩下がる。

「何を……言ってるんですか?」
「母親が犯罪者だとその娘も図太い神経してる」

女性は靴を履いたまま廊下に足を踏み入れた。

わたしは女性の方を向いたまま、後ろに、数歩下がった。

女性はわたしを見据えたまま言い放った。

「忠告を聞かないから」


忠告?
忠告って何?


腕をつかまれそうになって、背を向けて逃げようとしたのが失敗だった。
強い力で髪の毛を引っ張られ、バランスを崩し倒れ込んでしまった。

女性は倒れ込んだわたしの腕を掴んで無理やり立たせると、そのまま腕を引っ張って、部屋の奥に引きずるようにしてつれて行こうとした。

「やめて!」

腕を振り払おうともがいていると、紙袋を持ったままの手を大きく振り上げられた。


殴られる!


その瞬間浮かんだのは父の顔。

体が、硬直して動けなくなってしまった。
ぎゅっと目を閉じて「その時」を待った。
でも、何も起こらなかった。

とん、と音がした。

それで、閉じていた目をゆっくりと開けると、女性はさっきまで持っていた紙袋を持っていなかった。
下を向くと、紙袋は床に置かれていた。

どうして床に置いたんだろう?

女性を見上げた瞬間、殴られた。

それでもう抵抗できなくなってしまった。
こぼれてくる涙をぬぐうこともできないまま、女性に腕を掴まれ、部屋中を引きまわされた。

女性は全ての部屋を見て回った後、またリビングまでわたしをつれて戻った。
態度からイラついているのがわかる。

「杠葉大和はどこっ!」

マスク越しの声はくぐもっていたけれど、違和感を覚える。

「ここには……いません」
「どうして!」

そんなこと言われても、どうしてここに大和さんがいると思ったのか、わからない。

「ここには……来ていません」

女性はわたしの腕を強い力で振り払った。
そのせいでダイニングテーブルの椅子に思いっきりぶつかってしまい、椅子が倒れて大きな音がした。
座り込んでしまったわたしに向かって、女性はずっと持っていた紙袋を投げつけてきた。

わたしの目の前に、たくさんの写真が散乱した。

それらは、初めて見るものだった。

全部、わたしと大和さんを撮った写真。