星降る夜の寓話


「大和さん、こんな個室で食事って、意味があるの?」
「意味って?」
「彼女のフリをしても見る人がいない」
「そのことだけど、環のところには何も届いていないんだよね?」
「毎日ポストを見てるけど、まだ何も送られてきてません」
「それを聞いて、もう僕ではない別の誰かにターゲットが移ったんじゃないかと思い始めてる」
「もしそうなら、わたしは美味しいものを食べさせてもらうばっかりで、なんのお役にも立ててない」
「役には、立ってるよ。仕事がうまくいかない時でも、環と会うと元気が出る」
「ここには2人しかいないから、そういう演技なんて必要ないのに」
「演技、か……」
「もし、本当にストーカーが他の人にターゲットを変えたのだとしたら、いつまでこの関係を続けたらいいの?」
「そのことだけど、このまま――」

話の途中で「失礼します」という声と共に、料理が運ばれてきた。

見た目も鮮やかな料理が少しづつ盛られたお皿が目の前に置かれた。


お出汁で炊いたお野菜は、お野菜の持つ甘みが生きて本当に美味しい。
高級な食材じゃなくても、丁寧に作られたお料理とその味は比例するんじゃないかと思う。

お野菜は、お祖母ちゃんが農家をやってた頃、新鮮なものをいつももらっていた。
白菜は甘い物だとずっと思っていたから、スーパーで買った白菜を食べた時、味の違いに驚いた。小松菜も、どうしてスーパーで買うものは苦味みたいなものがきつくなってるんだろう? もっと甘みがあるはずなのに。

明日は、早起きして、お出汁をちゃんととったお味噌汁を作ろう。
それからだし巻き卵。律が好きな甘い味付けにして。


「環は、本当に五條さんとは男女の関係ではないんだよね?」

律のことを考えていたら、大和さんからその名前が出てきて、顔を上げた。

「律とは、本当にそういうんじゃない」
「五條さんはどう思ってるんだろう?」
「律は……ひとりになったわたしを見捨てられないだけ」
「それなら、僕に考えがある」
「考えって?」
「出張から帰ってきたらゆっくり話そう。今後のことについて」
「今日じゃなくて?」
「今日は、あまり時間がないんだ。明日の朝始発の新幹線だから、早めに帰って資料にももう一度目を通しておきたいし」

そう言ってお茶を飲む。


いつから?
大和さんはわたしといる時、お酒を飲まなくなった。


「車で来たの?」
「違うよ」
「お酒、飲まないの?」
「環は飲む?」
「……わたしは、飲まない」
「だったら僕も飲まない」


最初の頃は飲んでたから、飲めないわけじゃない。飯島さんとも飲みに行っていた話を聞いたばかり。


「何か言いたそうな顔してる」
「冬の東北って寒そうだな、って思って。暖かくして行ってね」
「環は明日から3連休だったよね? ついて来る?」
「どうしてわたしのお休みを知ってるの?」
「飯島に聞かれたから。『環ちゃん、3連休とってるけど2人でどこか行くの?』って。そうしよう。すぐに手配をするから、環は帰ったら旅行の準備をするんだ」
「そんな急に言われても無理……あ、これ、冗談? 大和さんは仕事で行くのに、遊びに行くみたいな言い方して。からかわれるのには慣れてないのでやめて。お料理、美味しそうだから早く食べたい。食べてもいい?」
「僕の最大のライバルは食べ物か」

大和さんはあきれたように笑って、箸を手にした。