星降る夜の寓話

スポンジに洗剤をつけてお皿を洗っていると、律が黙って隣に来て、ゆすぐのを手伝ってくれた。

「環、変なやつにつけられたりしてないか?」
「どういうこと?」
「最近この辺りで不審者を見たって情報が上がってきてる」

もしそうなら、マンションの1階にある掲示板に書いてあるはずだけど、掲示板にはもう長い間、ゴミの分別について書かれた貼り紙しかない。
それとも、警察の間だけで共有されている情報?

「最近、帰りが遅いだろ? つけられてる気配があったり、少しでも妙なやつを見かけたら、どこかの店に入って電話しろ。それから、知らない男がドアフォンを押しても出るな」
「子供じゃないんだから、気をつけるよ」
「絶対にドアを開けるなよ」
「宗教の勧誘とか時々来るけど、出たことないから安心して」
「ずっとついててやれるわけじゃないから」
「心配性だね」


もしかしたら、律は大和さんが雇った人をどこかで見たのかもしれない。
少し離れたところからいつもわたしを見張ってると言ってたから。
でも、そのことを律に言うわけにはいかないので、ただ「心配しないで」としか言いようがない。


「牛乳寒天作ったから食べる? 昔、お母さんがよく作ってくれてたのを思い出して作ってみた。本当はココナツミルクで作るおやつみたいなんだけど、お店で食べたらココナツミルクのクセが苦手だったから。わたしは牛乳で作る方が好き」
「うちの親も、俺が子供の頃作ってくれてたけど、必ずみつ豆入れるんだ。あれが嫌いだった」
「うち、みかんの缶詰しか入ってなかった」
「それだけでいい。絶対みつ豆は余計なんだ」
「律は豆が嫌いだよね。ひじきに大豆入れたらよけてるもん」
「ひじきに大豆は余計だろ。大豆は節分の時に食べれば十分だよ」
「好き嫌い多いよねぇ」
「いいんだよ。もうこんだけ成長したんだから、これからは好きなもんだけ食べて生きていくんだ」
「それで、お昼はおにぎりしか食べてないの?」
「環が弁当作ってくれないからだろ?」
「律のまで作るとか面倒くさい」
「いーよ、俺はおにぎりが好きだから」
「もういいよ。牛乳寒天持って行くから座ってて」

律は拭き終えたお皿を片付けると、ソファに座って、テレビのニュース番組をつけた。


本当はお弁当作りたいんだけどね……
そう思いながら、パットの牛乳寒天を切り分けた。