星降る夜の寓話

マンションのエントランスを入り、ポストの中を見る。
年末が近いせいか、家事代行やお掃除キャンペーンのチラシが入っていたけれど、それだけで他には何も入っていない。

大和さんには、本当にストーカーなんているのだろうか?
でもそんな嘘をつく理由も見つからない。

チラシをポストの近くに置いてあるゴミ箱に捨てて、いつものように3階まで階段を上がった。


玄関のドアを開けると、すぐに下駄箱の上に大きなシーザーの置物が目に飛び込んで来て驚いた。
マンションの廊下の明かりでもはっきりとわかるくらい大きい。
その大きさもだったけど、今まで何も置いていなかったから、やけに存在感を感じてしまう。

朝、家を出る時には何もなかったから、わたしが仕事に行っている間に飾ったことになる。

これも通販で買ったのかな……

でも、なんでシーザー?



律が実家の家を売って、わざわざ今まで住んでいた隣の県のこのマンションを購入した後、家の中に置く家具やソファを買いに行くのについて来て欲しいと言われ、一緒に出掛けた。

「実家で使っていたものを持ってくればいいのに」と言ったのに、律はそうしなかった。

それで、何かこだわりでもあるのかと思ったら、そういうわけでもないみたいで、「どれがいいと思う?」と聞かれ、答えているうちに、気が付くとわたしの好みのものばかりになっていた。

「ねぇ、わたしの好みばっかり聞いて、律はいいの?」
「いいよ。俺はどうせあんまり家にはいないから」
「でも、カーテンの色くらい律が好きな色にしたら?」
「そーだなぁ……環は何色が好き?」
「わたし? グリーン」
「じゃあ、グリーンで」
「ねぇ、それだとわたしの好きな色になっちゃってるから……」
「グリーンがいい」
「知らないよ?」
「だから、いいって言ってるだろ?」



全てがそんな感じだったから、このシーザーは初めて律の意思で置いたものになる。
だから、怖い顔をしているのに、何だか愛おしく感じてしまい、シーザーに向かって声をかけた。

「ただいま」


真っ暗なリビングに電気をつけて、すぐにエアコンも入れた。
部屋の中が温まるまでにはしばらく時間がかかるだろうから、その間にお風呂に入ってしまうことにした。


律は、部屋の中が寒いのは嫌いらしく、今日みたいにわたしが先に家に帰った時なんかは、「帰った時に暖かいのがいいから、一番にエアコンを入れて」と言う。

まだ家族がいた頃住んでいた家は、自分の部屋にエアコンなんてなかったから、寒い時は毛布を被ってた。
祖母と住んでいたアパートではコタツを使っていて、朝だけストーブをつけた。

だから、ずっとエアコンがついている生活は贅沢に感じてしまう。
電気代だって高いのに。


律はわたしに毎月5万円の返済しか求めない。
だから、ずっと貯金をしている。
少しでも早く律にお金を返せるように。