星降る夜の寓話

『犯罪者の娘』

あの派手な女は小さな声で言ったつもりだったかもしれないけれど、その言葉ははっきりと耳に届いた。

その前に、女が環を呼び止めた時の環の態度で、何かあると気になって注視していたからというのもあったけれど。


口にこそ出さなかったものの、その言葉はそのまま、自分が過去、環に対して思っていたことだった。

それを何もなかったかのように、環に接していた。

その言葉をあの女に言われた時の環の様子で、自分がどんなに彼女を傷つけてきたのかを思い知った。

何かあったとしても、誰も心配するような人間なんていないだろう。
そう考えて、ストーカーの囮にするために、環を選んだ。
あの女と何ら変わりがない。


今頃になって飯島に言われたことを理解した。

「大和、環ちゃんのこと知らないわけないよね? あんたのことだから履歴書もチェックしたんだろうし」
「全部知ってるよ」
「その上で、環ちゃんと知り合うきっかけが欲しいってわたしに頼むんだよね?」
「そうだよ」
「いい加減な気持ちだったら許さないよ。あの子は、怒らないから。どんなに理不尽な目にあっても怒ったりしないで、耐えるから」
「飯島はなんでそんなに肩持つわけ?」
「笑ってるとこ見たからかな。作り笑いじゃないやつ」
「何だよそれ」
「じゃあ、大和はどうして環ちゃんと話すきっかけが欲しいと思ったの?」


どうでもいい女だから。

あの時はそう思っていた。


「同じだよ。偶然、彼女の笑顔を見て気になり始めたんだ」
「環ちゃんのこと泣かしたら許さないからね」

そう言われて、何の感情もなく、思ってもいないことを答えた。

「彼女を泣かす人間がいたら自分が許さない」

その嘘を飯島は信じたようだった。


嘘のはずだった。


いつの間にか、環に脅迫状が届けられていないことにほっとしている。
彼女を傷つけたくないと思っている。
このまま環の所にストーカーが現れないことを望んでる。

あの女を、「許せない」と思った。

それで、はっきりと自覚した。
自分が環をどう思っているのか。


けれども、環に「大丈夫」と言わせてしまった……
飯島に言われていたのに。


「大和、環ちゃんに『大丈夫』って言わせないでよ。環ちゃんがそういう時は、『大丈夫』じゃない時なんだから」