「鴎外?」
声をかけてきた女性の影になっていてわからなかったけれど、もうひとり知っている顔がそこにあった。
「やだ、鴎外さんじゃない」
「私のこと覚えてる?」
忘れるわけない。
忘れたいのに。
最初に話しかけてきたのが谷井真実。もう1人が河原凪。
2人ともクラスで目立った存在で、率先していつもわたしを……
隣の県に住んでいるからって会わないとは限らない。
JRで30分もかからない距離から、簡単に行き来する。
今までだって数回すれ違ったことがある。
でも、これまで一度も声をかけられたことなんてなかった。
立ち止まるなんてことされたことなかった。
わたしなんて見えていないみたいに通り過ぎるだけ。
だから、嵐が去って行くみたいに、じっと耐えていれば済むことだった。
わたしに近づいてきた谷井真実が、小さな声でささやいた。
「まだ生きてたんだ。犯罪者の娘のくせに」
彼女たちがどうして声をかけてきたのかわからない。
どうしたらいいのかわからない。
「誰? 知り合い?」
すぐ側にいた2人組の男性のうちのひとりが聞いた。
「この子は、高校の同級生で――ねぇ、知ってますか?」
わたしを通り越して、彼女は大和さんに向けて話しかけた。
それでわかった。
大和さんがいたから立ち止まったんだ。
「知ってるって、何を?」
「この子って――」
大和さんが谷井真実の言葉を遮って、2人組の男性に向けて声をかけた。
「小笠原に、山下、久しぶり」
「杠葉? 何が『久しぶり』だよ。2カ月前に会ってるだろ」
「忘れてた」
「よく言うよ」
「その子、彼女?」
「そう彼女。とても大切な子。そっちの2人は?」
「最近知り合った子たち。会うのは2回目かな」
大和さんがわたしの手を強く握った。
大和さんがそんなことをしてきたのは初めてで、思わず大和さんの顔を見た。
「趣味が悪いな」
「何だよそれ?」
「さっき、そっちの派手な方が僕の彼女に向かって聞くに耐えないことを言った。あの様子だと以前から散々なことをやってくれてたみたいだし、そんな女がいいとか、落ちたな」
大和さんの言葉を聞いて、彼女たちは焦りを見せた。
「う、嘘よ。この人何か勘違いしてる」
「そうよ、この人何言ってるのかわからない」
「攻撃は最大の防御って言うけれど、罪悪感があればなおさらだ」
小さな声で大和さんに「やめて」と言ったつもりだったけれど、それが声になっていたかわからない。
谷井真実はわたしを睨みつけると、大和さんに向かって言った。
「ねぇ、知らないみたいだから教えてあげる。あなたが『彼女』って言ったその子、殺人犯の娘なのよ」
それを聞いて、小笠原さんと山下さんはお互いに顔を見合わせた。
「へぇ、そうなんだ」
「ふうん」
この後に続く言葉をわたしは知っている。
何度も言われてきたから。
だから、本当は彼女じゃないって言わないと。
大和さんが誤解される。
でも、彼らが言ったのは予想外の言葉だった。
声をかけてきた女性の影になっていてわからなかったけれど、もうひとり知っている顔がそこにあった。
「やだ、鴎外さんじゃない」
「私のこと覚えてる?」
忘れるわけない。
忘れたいのに。
最初に話しかけてきたのが谷井真実。もう1人が河原凪。
2人ともクラスで目立った存在で、率先していつもわたしを……
隣の県に住んでいるからって会わないとは限らない。
JRで30分もかからない距離から、簡単に行き来する。
今までだって数回すれ違ったことがある。
でも、これまで一度も声をかけられたことなんてなかった。
立ち止まるなんてことされたことなかった。
わたしなんて見えていないみたいに通り過ぎるだけ。
だから、嵐が去って行くみたいに、じっと耐えていれば済むことだった。
わたしに近づいてきた谷井真実が、小さな声でささやいた。
「まだ生きてたんだ。犯罪者の娘のくせに」
彼女たちがどうして声をかけてきたのかわからない。
どうしたらいいのかわからない。
「誰? 知り合い?」
すぐ側にいた2人組の男性のうちのひとりが聞いた。
「この子は、高校の同級生で――ねぇ、知ってますか?」
わたしを通り越して、彼女は大和さんに向けて話しかけた。
それでわかった。
大和さんがいたから立ち止まったんだ。
「知ってるって、何を?」
「この子って――」
大和さんが谷井真実の言葉を遮って、2人組の男性に向けて声をかけた。
「小笠原に、山下、久しぶり」
「杠葉? 何が『久しぶり』だよ。2カ月前に会ってるだろ」
「忘れてた」
「よく言うよ」
「その子、彼女?」
「そう彼女。とても大切な子。そっちの2人は?」
「最近知り合った子たち。会うのは2回目かな」
大和さんがわたしの手を強く握った。
大和さんがそんなことをしてきたのは初めてで、思わず大和さんの顔を見た。
「趣味が悪いな」
「何だよそれ?」
「さっき、そっちの派手な方が僕の彼女に向かって聞くに耐えないことを言った。あの様子だと以前から散々なことをやってくれてたみたいだし、そんな女がいいとか、落ちたな」
大和さんの言葉を聞いて、彼女たちは焦りを見せた。
「う、嘘よ。この人何か勘違いしてる」
「そうよ、この人何言ってるのかわからない」
「攻撃は最大の防御って言うけれど、罪悪感があればなおさらだ」
小さな声で大和さんに「やめて」と言ったつもりだったけれど、それが声になっていたかわからない。
谷井真実はわたしを睨みつけると、大和さんに向かって言った。
「ねぇ、知らないみたいだから教えてあげる。あなたが『彼女』って言ったその子、殺人犯の娘なのよ」
それを聞いて、小笠原さんと山下さんはお互いに顔を見合わせた。
「へぇ、そうなんだ」
「ふうん」
この後に続く言葉をわたしは知っている。
何度も言われてきたから。
だから、本当は彼女じゃないって言わないと。
大和さんが誤解される。
でも、彼らが言ったのは予想外の言葉だった。



