星降る夜の寓話

飯島さんが変なことを言うから、待ち合わせに現れた大和さんがわたしに微笑んだのを見て、すぐに下を向いてしまった。

でも、これは失礼だったと思い、すぐに顔を上げたのだけれど、大和さんは機嫌を悪くしたふうでもなく、普通だった。

仕事上のトラブルが原因とはいえ、ついこの間も会ったばかりだから、本当に頻繁に会っている。


「今日は、寒くなってきたから、カニでも食べに行こうかと思って予約したんだ」
「カニ……」
「嫌いだった? ごめん、先に聞いておけばよかった。すぐにキャンセルして別の店に――」
「嫌いとかじゃなくて、カニってあまり……というかほとんど食べたことがなくて、あのカニの身を出すものも使ったことがないから」
「カニフォークのこと?」
「はい」
「いいよ。僕が全部身を出すから。環は食べてるだけでいい」
「そんな、教えてもらえたら自分でできるから」
「教えるほどのものじゃないよ」

大和さんは笑ったけれど、バカにした感じではなくて、律みたいに優しい表情。

「環が食べたことのない物をたくさん食べさせてあげるし、行ったっことのない所へも連れて行きたい」

そんなふうに言われて、わたしももっと頑張らないといけない。
今のところ全然ストーカー探しの役に立っていないことに申し訳なくなってしまう。



他に食べたことがないものは何か聞かれて、いろいろ答えながら大和さんの予約したお店に向かっていると、前から来た男女のグループとすれ違いざまに声をかけられた。

「鴎外さん?」

間近でその女性の顔を見て、身体中がこわばるのを感じた。