星降る夜の寓話

律の言った通り、大和さんと頻繁に会っているけれど、その理由を律は知らない。

大和さんと取引をして、デートのようなものを始めてからもう随分と経つ。
でも、まだ写真すら送られてきていない。
大和さんの元へは、最初数回、2人の写った写真と「浮気なんかしないで」「わたしがいるのに」という内容の手紙が送られてきてから止まっているという。
だからターゲットはわたしに移っているはずなのに。



「SMかぁ」

その声に「えっ!」と声をあげてしまった。
わたしの声に驚いた飯島さんがスマホを手にわたしを見ている。

「ごめんなさい。何でもないです。ちょっとSMっていきなり聞こえたから、びっくりしたんです」
「あー、ごめんね。かわいいパンツ見つけてサイズ展開見たら、SとMだけだったから。パンツだしサイズ的に無理だなぁ、って思って」


飯島さんは細い人だから、サイズだけで見たらSなんだと思う。
でも、背が高くて、170cmはゆうに超えている。だから、Sサイズのパンツだと丈が足らないらしく、パンツはいつもLサイズを買ってウエストを詰めていると聞いた。
最近はトールサイズを展開しているショップも多いけれど、残念ながら今見ているサイトのショップにはトールサイズはおろか、Lサイズもなかったらしい。


「環ちゃんが大和とよく会ってるのと同じくらい、わたしも最近、女友達とご飯に行く回数が増えた気がする」
「そうなんですか?」
「よく誘われる。暇だからいいんだけど。この間、環ちゃんのことを聞かれたから、『超仲良し』って答えちゃった」
「そんなこと言わないでください」
「前に言った仲のいい同期の子に話しただけだから許して。あの合コンで大和と環ちゃんが1次会で抜けた話になって、『あの後どうなったのかな』って言ってたから、『うまくいってるよ』って言っちゃった」
「ダメです。もう言わないでください」

本当に付き合ってるわけではないから。

「でも、今日だってこれから会うんでしょ?」
「それは……そうなんですけど……」
「ほらぁ、仲良し。あいつに『環ちゃんのこと泣かしたら許さないからね』って釘刺したら、『彼女を泣かす人間がいたら自分が許さない』って、言ってたよ」
「そんなこと言ってたんですか……」
「休みのとこを呼び出した時だって、文句も言わず笑顔をふりまいちゃってたし」

そこまで笑顔を振りまいてはいなかったと思うけど……

「だから、友達に『環さんから告白したの?』って聞かれて、『あいつの方が夢中なのよ!』って言っちゃった。だって実際そうじゃない。あいつさぁ、わたしに会うと環ちゃんのことばかり聞いてくるのよ? 聞かれたって、『真面目に仕事してるよ』くらいしか答えてないのに、ヘラっと笑って『そっか』って、嬉しそうな顔して。それ見て、え? 何? バカなの? て思っちゃう」


そんな大和さんは、律のSMグッズくらい想像できないし、信じられない。

わたしもそんなふうにもっと誰かにアピールしないといけないのかもしれないけれど、わたしには律くらいしか話す相手がいない。


あの日見た、律と西藤さんの「距離」は近かった。

きっとあれは恋人同士の距離だ。
もしもっと前に見たならわからなかったかもしれない。でもいつも大和さんに「もっと近くを歩いて」って言われて、何となくわかるようになった。

西藤さんなら、律の斜めになったネクタイにもすぐに気がつくはず。

だから、これで良かったんだって思う。


「大和があんなにデレなやつだとは思わなかった」
「そういうの、言わなくていいです」
「ケチ〜」
「お願いします」
「はぁーい」


律を想う人がいて、その人と律の間には何の障害もない。