今回はショッピングモールのインフォーメーションで待ち合わせだった。
2人で映画を観に行った後、数日しても脅迫状が届いていないことで、「平日の昼間」会うことを提案された。
わたしはお休みがシフト制だったから問題なかったけれど、大和さんはそれに合わせてくれた形になる。
「平日にお休みって大丈夫なんですか?」
「休日出勤がたまっていて、どこかで代休をとる必要があったから丁度良かった。それに、いろんな時間帯も試してみたい」
大和さんはわたしに何も届かないことを不審に思っているようだった。
でも、こんなこと嘘をついてもしようがない。
「五條さんが抜き取ったということは考えられない?」
「それはないと思います。わたしが帰った時、ポストの中にはチラシがいっぱい入っていたし、冷蔵庫の中には作っておいたご飯がそのまま残っていたから。わたしがいない間、家に帰って来ていないと思います」
「……ご飯、作ってるんだ」
「え? はい。マンションは律の持ち家で、光熱費も彼が払ってるんです。わたしも買い物には行ってるけど、それとは別に週に1回買い物に行って食料品とか日用品を買ってくれてて。払うって言っても絶対にだめだって言われるんです。だからせめて、ご飯くらいはと思って作ってます。でもそれもいつもじゃないから」
「彼は、どうして環にそこまでするんだろう?」
「罪滅ぼしなんだと思います」
「罪滅ぼし?」
「わたしの母を……逮捕したのは律だから。それで、そんなこと思わなくてもいいのに、きっと責任を感じてるんです。だからお金も――」
「お金?」
「何でもないです。ごめんなさい、こんな関係ない話を聞かせてしまって」
「いや、いいよ。環のことをもっと知りたいから」
「大和さんは、経験値が高いから、言うことがそれっぽいですね」
「それっぽい?」
「ドラマとかで聞くようなセリフを普通に言う」
「ドラマ、か。それなら、こういうのはどうだろう? この先にあるジュエリーショップで、環に何かプレゼントするよ。ドラマでよくあるように」
「それはお断りします」
「どうして?」
「もらう理由がないからです」
「彼女へのプレゼントだよ。彼女が『かわいい』というやつを彼氏がプレゼントするシーンと同じ」
「それでも、です」
形に残る物をもらうわけにはいかない。
「プレゼントを断られたのは初めてだ」
「それは、これまでは本当の彼女だからですよ」
「それなら、食べ物で釣ろうかな。ケーキでもどう? そのくらいはさせてもらわないと困る。実は和菓子より洋菓子の方が好きなんだ」
「律も甘いものが好きなんです。甘いものを好きな男の人って多いんでしょうか?」
「そこで他の男と比べるのはルール違反。敬語もそろそろやめてくれないか」
「それは難しいです。勤めている会社の副社長に敬語を使わないなんて」
「付き合っている相手に敬語はおかしい。これは義務だよ」
「義務……」
「そう。わかった?」
「努力します」
「ん?」
「気を付けま……る。違う。気を付ける」
わたしの言い間違いに大和さんが笑いをこらえているのを見て、恥ずかしくなるばかりだった。
お茶をして、ぶらぶらとウィンドウショッピングをして、夜ご飯も一緒に食べた。
おまけに大和さんは、「車で来ているから」と、マンションの前まで送ってくれた。
別れ際に、先週出かけた時に買っておいたお土産を渡すと、「ありがとう」と言いながらも困惑した表情をされた。
それで気が付いた。
「そういう関係」ではなかった。
友達ではないし、職場の先輩でも、同僚でもない。
同じ会社ではあるし、上司であることには変わりないけれど、飯島さんや越野さんとの関係とは全く違う。
大和さんとわたしはただの「契約関係」だった。
「やっぱり返してください」とは言えず、心の中で「ごめんなさい」と謝りながらお別れを言った。
2人で映画を観に行った後、数日しても脅迫状が届いていないことで、「平日の昼間」会うことを提案された。
わたしはお休みがシフト制だったから問題なかったけれど、大和さんはそれに合わせてくれた形になる。
「平日にお休みって大丈夫なんですか?」
「休日出勤がたまっていて、どこかで代休をとる必要があったから丁度良かった。それに、いろんな時間帯も試してみたい」
大和さんはわたしに何も届かないことを不審に思っているようだった。
でも、こんなこと嘘をついてもしようがない。
「五條さんが抜き取ったということは考えられない?」
「それはないと思います。わたしが帰った時、ポストの中にはチラシがいっぱい入っていたし、冷蔵庫の中には作っておいたご飯がそのまま残っていたから。わたしがいない間、家に帰って来ていないと思います」
「……ご飯、作ってるんだ」
「え? はい。マンションは律の持ち家で、光熱費も彼が払ってるんです。わたしも買い物には行ってるけど、それとは別に週に1回買い物に行って食料品とか日用品を買ってくれてて。払うって言っても絶対にだめだって言われるんです。だからせめて、ご飯くらいはと思って作ってます。でもそれもいつもじゃないから」
「彼は、どうして環にそこまでするんだろう?」
「罪滅ぼしなんだと思います」
「罪滅ぼし?」
「わたしの母を……逮捕したのは律だから。それで、そんなこと思わなくてもいいのに、きっと責任を感じてるんです。だからお金も――」
「お金?」
「何でもないです。ごめんなさい、こんな関係ない話を聞かせてしまって」
「いや、いいよ。環のことをもっと知りたいから」
「大和さんは、経験値が高いから、言うことがそれっぽいですね」
「それっぽい?」
「ドラマとかで聞くようなセリフを普通に言う」
「ドラマ、か。それなら、こういうのはどうだろう? この先にあるジュエリーショップで、環に何かプレゼントするよ。ドラマでよくあるように」
「それはお断りします」
「どうして?」
「もらう理由がないからです」
「彼女へのプレゼントだよ。彼女が『かわいい』というやつを彼氏がプレゼントするシーンと同じ」
「それでも、です」
形に残る物をもらうわけにはいかない。
「プレゼントを断られたのは初めてだ」
「それは、これまでは本当の彼女だからですよ」
「それなら、食べ物で釣ろうかな。ケーキでもどう? そのくらいはさせてもらわないと困る。実は和菓子より洋菓子の方が好きなんだ」
「律も甘いものが好きなんです。甘いものを好きな男の人って多いんでしょうか?」
「そこで他の男と比べるのはルール違反。敬語もそろそろやめてくれないか」
「それは難しいです。勤めている会社の副社長に敬語を使わないなんて」
「付き合っている相手に敬語はおかしい。これは義務だよ」
「義務……」
「そう。わかった?」
「努力します」
「ん?」
「気を付けま……る。違う。気を付ける」
わたしの言い間違いに大和さんが笑いをこらえているのを見て、恥ずかしくなるばかりだった。
お茶をして、ぶらぶらとウィンドウショッピングをして、夜ご飯も一緒に食べた。
おまけに大和さんは、「車で来ているから」と、マンションの前まで送ってくれた。
別れ際に、先週出かけた時に買っておいたお土産を渡すと、「ありがとう」と言いながらも困惑した表情をされた。
それで気が付いた。
「そういう関係」ではなかった。
友達ではないし、職場の先輩でも、同僚でもない。
同じ会社ではあるし、上司であることには変わりないけれど、飯島さんや越野さんとの関係とは全く違う。
大和さんとわたしはただの「契約関係」だった。
「やっぱり返してください」とは言えず、心の中で「ごめんなさい」と謝りながらお別れを言った。



