2日後、律から電話がかかってきた。
「環、悪いけど、適当に着替え持って来て。1Fの警務課にいる誰かに預けてくれればいいから」
「うん、わかった」
律がわたしに警察署まで来て欲しいと言うことはめずらしい。
初めてかもしれない。
だから、何か大きな事件が起きてよっぽど困ってるんだと容易に推測できた。
急いで着替えをカバンに詰めて、青葉署に向かった。
言われた通り警務課の人に預けて、警察署を出たところで女性に呼び止められた。
「鴎外環さん?」
知らない女性だった。
腕に「鑑識」と黄色の文字で書かれた紺色の上下の服を着ていたので、警察の人だと言うことはわかった。
「さっき、警務課でお名前言われてるのが聞こえたから。五條さんのお知り合いよね?」
「はい」
「初めまして。私、西藤架純と言います。五條さんの上司にあたる者の娘です。少し、お時間いただけますか?」
「はい」
「良かった。すぐに戻って来ますから少し待っててください」
「同僚」ではなく、わざわざ律の上司の娘だと名乗るのには、何か意味があるんだろうか?
しばらく待っていると、上にダウンを羽織った西藤さんが戻って来た。
「行きましょう」
そう言われると、先に歩いて警察署を出て行く。
それを慌ててついて行った。
西藤さんは急ぎ足で、警察署からだいぶ離れた喫茶店に入った。
お店に入るまで、西藤さんは一言も話さなかったし、わたしの方を見向きもしなかった。
向かい合って座り、改めて真正面から見た西藤さんはきれいな人で、わたしより年上だった。
頼んだ飲み物がテーブルに置かれて、西藤さんはようやく口を開いた。
「大変な思いをされてきたことは知っていますし、気の毒に思います。でも今は学校も卒業してお仕事にも就かれているんですよね?」
同情しているようなことを言いながらも、淡々とした口調で、冷たい目だった。
「時間がないので用件だけ言わせてもらいますけど、いつまで五條さんのところにいらっしゃるんですか?」
律は、この女に話してるんだ……
「本来なら、あなたが社会人になったところで五條さんの家は出るべきだと思いませんか? 彼が何も言わないのは、負わなくてもいい責任を感じてるからなんだから」
律とこの女は親しいんだ……
「五條さんはご自分の仕事をされただけなのに、あなたはそのことを利用して彼を縛り付けている」
目の前にいるこの女は、警察官の父親を持ち、何の曇りもない。
「ずっと黙っていらっしゃるけど、私の話、聞かれてますか?」
「ごめんなさい。ちゃんと聞いています」
西藤さんは大きなため息をついた。
「私、勘違いしているかしら?」
「何をですか?」
「おふたりが既に関係をお持ちなんだとしたら、ごめんなさい。でも、これだけはお伝えしておきます。警察の人間が3親等以内に犯罪者がいる相手と結婚した場合、一生出世の道は閉ざされます。もし私があなたなら、彼の将来のことを考えて身を引きます」
「わたしは……り……五條さんとはそういう関係ではないです」
「だったらどうして、まだ一緒に住んでるんですか?」
「それは……五條さんは昔から妹みたいにわたしのことを思ってくれていて……」
「あなた、甘えてるのよ。でも、その相手を間違えてませんか? 五條さんと関係がないなら、他人のあなたがいつまで彼の善意につけ込むつもり?」
西藤さんは再び、今度はあからさまに不愉快そうなため息をついた。
「着替えを持って来るとか、何アピール? あなたが彼のために出来ることは、彼の家を早く出て行くことじゃない? これ以上彼に迷惑をかけないで」
それだけ言うと、西藤さんは飲み物には手もつけず、伝票をぐしゃっと握って席を立った。
「あの――」
「あなたと一緒にいるところを見られたくないの。理由はわかるでしょ?」
レジでわたしの分まで支払って、西藤さんが店を出て行くのを見ながら、小さな声で言った。
「ご馳走様です」
「環、悪いけど、適当に着替え持って来て。1Fの警務課にいる誰かに預けてくれればいいから」
「うん、わかった」
律がわたしに警察署まで来て欲しいと言うことはめずらしい。
初めてかもしれない。
だから、何か大きな事件が起きてよっぽど困ってるんだと容易に推測できた。
急いで着替えをカバンに詰めて、青葉署に向かった。
言われた通り警務課の人に預けて、警察署を出たところで女性に呼び止められた。
「鴎外環さん?」
知らない女性だった。
腕に「鑑識」と黄色の文字で書かれた紺色の上下の服を着ていたので、警察の人だと言うことはわかった。
「さっき、警務課でお名前言われてるのが聞こえたから。五條さんのお知り合いよね?」
「はい」
「初めまして。私、西藤架純と言います。五條さんの上司にあたる者の娘です。少し、お時間いただけますか?」
「はい」
「良かった。すぐに戻って来ますから少し待っててください」
「同僚」ではなく、わざわざ律の上司の娘だと名乗るのには、何か意味があるんだろうか?
しばらく待っていると、上にダウンを羽織った西藤さんが戻って来た。
「行きましょう」
そう言われると、先に歩いて警察署を出て行く。
それを慌ててついて行った。
西藤さんは急ぎ足で、警察署からだいぶ離れた喫茶店に入った。
お店に入るまで、西藤さんは一言も話さなかったし、わたしの方を見向きもしなかった。
向かい合って座り、改めて真正面から見た西藤さんはきれいな人で、わたしより年上だった。
頼んだ飲み物がテーブルに置かれて、西藤さんはようやく口を開いた。
「大変な思いをされてきたことは知っていますし、気の毒に思います。でも今は学校も卒業してお仕事にも就かれているんですよね?」
同情しているようなことを言いながらも、淡々とした口調で、冷たい目だった。
「時間がないので用件だけ言わせてもらいますけど、いつまで五條さんのところにいらっしゃるんですか?」
律は、この女に話してるんだ……
「本来なら、あなたが社会人になったところで五條さんの家は出るべきだと思いませんか? 彼が何も言わないのは、負わなくてもいい責任を感じてるからなんだから」
律とこの女は親しいんだ……
「五條さんはご自分の仕事をされただけなのに、あなたはそのことを利用して彼を縛り付けている」
目の前にいるこの女は、警察官の父親を持ち、何の曇りもない。
「ずっと黙っていらっしゃるけど、私の話、聞かれてますか?」
「ごめんなさい。ちゃんと聞いています」
西藤さんは大きなため息をついた。
「私、勘違いしているかしら?」
「何をですか?」
「おふたりが既に関係をお持ちなんだとしたら、ごめんなさい。でも、これだけはお伝えしておきます。警察の人間が3親等以内に犯罪者がいる相手と結婚した場合、一生出世の道は閉ざされます。もし私があなたなら、彼の将来のことを考えて身を引きます」
「わたしは……り……五條さんとはそういう関係ではないです」
「だったらどうして、まだ一緒に住んでるんですか?」
「それは……五條さんは昔から妹みたいにわたしのことを思ってくれていて……」
「あなた、甘えてるのよ。でも、その相手を間違えてませんか? 五條さんと関係がないなら、他人のあなたがいつまで彼の善意につけ込むつもり?」
西藤さんは再び、今度はあからさまに不愉快そうなため息をついた。
「着替えを持って来るとか、何アピール? あなたが彼のために出来ることは、彼の家を早く出て行くことじゃない? これ以上彼に迷惑をかけないで」
それだけ言うと、西藤さんは飲み物には手もつけず、伝票をぐしゃっと握って席を立った。
「あの――」
「あなたと一緒にいるところを見られたくないの。理由はわかるでしょ?」
レジでわたしの分まで支払って、西藤さんが店を出て行くのを見ながら、小さな声で言った。
「ご馳走様です」



