星降る夜の寓話

大和さんと映画に行った日は帰るのが遅くなってしまったけれど、律はマンションに帰っていなかった。
こんなことはよくあることで、めずらしくない。

夜遅くにメッセージが届いた。

<元気 今日は帰れない>

たったそれだけだったけど、怪我をしてどこかの病院にいるんじゃないかという想像だけはしなくて済む。

返信はいつも送らない。送れない。送る勇気がない……



朝早く起きると、クローゼットの奥にしまっていた登山用ザックを取り出した。
中には既に荷物が入っている。
今回はちゃんと帰って来るつもりだから、忘れ物がないように持ち物を入念にチェックして、ザックのポケットには500mlのペットボトルのお水2本と、充電済みのバッテリーを入れた。


家を出る時、写真はどんなふうに送られて来るのだろうと思った。
「送られてくる」と言われて、気にもとめてなかったけれど、ポストの中に写真だけが入れてあるわけではないだろうから、封筒に入っているんだろうけど、どんな封筒なんだろう?

わたしがいない間に届いたとしても、わたし宛の物を律が勝手に見ることはないから大丈夫だとは思うけど、「それ何?」と聞かれたら何て答えよう……

念のため、マンションを出る前にポストを覗いてみた。
でも中は空っぽだった。



律には「温泉へ行く」と言ってあり、実際に旅館も予約している。
旅行っぽくみせるために、帰りにはお饅頭を買って帰るつもりでいる。
律は甘いものが好きで、一番好きなのは、ゆずり葉の栗饅頭だった。


律は今晩はマンションへ戻って来るだろうか?
冷蔵庫に、昨日帰ってから用意した夜ご飯がそのまま入っている。
お腹を空かせて帰って来るかと思い、急いで簡単なものを作ったのだけれど、12時を過ぎるくらいにメッセージが届いて、帰って来ないことがわかった。
今日も戻って来なかったら食材が無駄になってしまうので、祖母が生きていたら、きっと怒られただろうな……