星降る夜の寓話

「お酒、弱いの?」
「え?」

気づかないうちに、斜め前に座っていた人は、さっきわたしに話しかけた人とは別の人になっていた。

「飲んでないから」
「お酒は飲まないんです」
「飲めないんじゃなくて?」
「はい」
「鴎外さん、面白いね。見たところ他の人達より若いみたいだけど、何歳?」
「21です」
「妹と同じ年だ。もしかして知り合いだったりして。高校どこ?」
「恥ずかしいので聞かないでください……わたし頭が良くないから」
「そうなの?」
「あの、この料理の名前ご存知ですか?」
「ああ、それはポルケッタだよ。豚肉でハーブとニンニクを巻いたもの」
「よくご存知なんですね」
「イタリアンは結構好きなんだ」

しばらくの間、彼のウンチクをニコニコしながら聞き続けた。
ふと間ができた瞬間に、「ちょっと、失礼します」と言って席を立ち、化粧室へ逃げた。

「ふぅ」と、ため息をついたところで飯島さんがやって来た。

「今、8時過ぎだから、門限が9時ってことにしよう」
「え?」
「門限厳しいから、途中抜け。ね?」
「でも……」
「わたしがうまく言うから、環ちゃんは話合わせて」
「……ごめんなさい」
「どうして謝るの? 無理やり連れて来たのはわたしの方だよ?」

飯島さんが笑いかけてくれたので、ほっとした。


2人で席に戻ると、さっきわたしに話しかけてきた男性が言った。

「ここはもう出て2次会に行こうって話してたところなんだけど、いい?」

それを聞いて、飯島さんがわたしに小さな声で言った。

「ちょうど良かったね」