久しぶりに映画館で観る映画は迫力があって面白かった。
「彼女」を演じていなければいけないのに、つい本当に楽しんでしまった。
大和さんのチョイスがコメディというのも意外だった。
サンタクロース……
幼稚園の頃、まだサンタクロースを信じていたわたしに、同じつくし組の男の子が言った。
「サンタクロースなんかいねーんだよ。プレゼントはなぁ、父さんが寝てる間に枕の上に置いてるだけなんだ」
家に帰ってそのことを言うと、お母さんに言われた。
「サンタクロースはちゃんといるよ。プレゼントをあげたいという気持ち、相手に喜んで欲しいという思いが、サンタクロースなの」
律は、わたしのサンタクロースだった。
祖母とアパートで暮らしていたわたしが律と再会したのは、高3のクリスマスの日。
その日は朝から降ったりやんだり、雪がちらついていた。
商店街のアーケードに飾られたイルミネーションはキラキラ光っていて、その下を歩く人たちは、いつもより足取りが軽く見える。
アルバイトを終え、控え室のロッカーからカバンを出したところで、同じシフトの男子大学生たちが入ってきた。
「お疲れさん」
「お疲れ様です」
大学生たちはお互いに目配せをし、からかうように言った。
「鴎外さん、クリスマスだし、寂しいんじゃないの?」
「慰めてあげよっか?」
「……大丈夫です」
「面白いとこ連れてってあげるよ?」
「……遠慮します」
「何様? 誘ってやってんだけど?」
急にバンっと大きな音を立てて、ロッカーを足で蹴られ、コートを取ることができなくなった。
ロッカーを塞ぐ足を退けてくれそうにもなくて、そのまま急いで控え室を出た。
「お前の母親、人殺しなんだって?」
後ろの方から叫ぶ声が聞こえたけれど、そんな言葉聞き飽きてる。
これまで何度も何度も言われ続けてきた。
無視して従業員出入り口から外へ出た。
12月の夜の空気は思ってた以上に冷たくて、小さな雪ですら身体中を凍らせる。
もう一度あそこにコートを取りに戻る勇気がなくて、また明日、昼間にでも取りに来ようと思い、帰り道を急いだ。
「先に帰んなよ」
いつの間に追いつかれたのか、耳のすぐそばで声がした。
「お前なんか、生きててもしようがなくね?」
そんなの、自分が一番よくわかってる。
「クリスマスだからさぁ、ちょっとはいい思いさせてやろうか?」
意味が、わからなかった。
それで、立ち止まって声の方を向いてしまった。
「やっぱ顔はタイプだわ」
「確かに、かわいい顔してる。あっちの方はどうかな」
うすら笑いを浮かべるその顔を見て、怖くなって走った。
走って、逃げた。
追いかけて来るのは男2人。
こっちは一生懸命走っているのに、笑いながら追いかけて来る。
わざとゆっくり追いかけてるんだ。
もう嫌だ。
どうしてこんな目に合うの?
降っている雪が目の中に入る。
そのたびに視界がぼやけたけれど、それでも走った。
街灯の薄明りの下、助けてくれる人もいない道を、一生懸命走った。
大きな道路を渡った向こう側に交番があることを思い出して、陸橋に向かった。
こけそうになりながら必死に階段を駆け上がった。
下りの階段まで来たところで、追いかけて来ていたひとりが言った。
「逃げらんねーよ」
わたしは、逃げられない……
逃げるとこなんて、最初からないんだった。
大学生たちに向かい合った。
「大人しくついてくればいいんだよ」
「お前なんか誰も心配なんかしねーんだから」
彼らが、1歩前に近づいて来たから、無意識に後ろへ1歩下がった。
あると思ったところに地面はなくて、足を踏み外したわたしが思ったのは、「これで終わりにできる」だった。
「彼女」を演じていなければいけないのに、つい本当に楽しんでしまった。
大和さんのチョイスがコメディというのも意外だった。
サンタクロース……
幼稚園の頃、まだサンタクロースを信じていたわたしに、同じつくし組の男の子が言った。
「サンタクロースなんかいねーんだよ。プレゼントはなぁ、父さんが寝てる間に枕の上に置いてるだけなんだ」
家に帰ってそのことを言うと、お母さんに言われた。
「サンタクロースはちゃんといるよ。プレゼントをあげたいという気持ち、相手に喜んで欲しいという思いが、サンタクロースなの」
律は、わたしのサンタクロースだった。
祖母とアパートで暮らしていたわたしが律と再会したのは、高3のクリスマスの日。
その日は朝から降ったりやんだり、雪がちらついていた。
商店街のアーケードに飾られたイルミネーションはキラキラ光っていて、その下を歩く人たちは、いつもより足取りが軽く見える。
アルバイトを終え、控え室のロッカーからカバンを出したところで、同じシフトの男子大学生たちが入ってきた。
「お疲れさん」
「お疲れ様です」
大学生たちはお互いに目配せをし、からかうように言った。
「鴎外さん、クリスマスだし、寂しいんじゃないの?」
「慰めてあげよっか?」
「……大丈夫です」
「面白いとこ連れてってあげるよ?」
「……遠慮します」
「何様? 誘ってやってんだけど?」
急にバンっと大きな音を立てて、ロッカーを足で蹴られ、コートを取ることができなくなった。
ロッカーを塞ぐ足を退けてくれそうにもなくて、そのまま急いで控え室を出た。
「お前の母親、人殺しなんだって?」
後ろの方から叫ぶ声が聞こえたけれど、そんな言葉聞き飽きてる。
これまで何度も何度も言われ続けてきた。
無視して従業員出入り口から外へ出た。
12月の夜の空気は思ってた以上に冷たくて、小さな雪ですら身体中を凍らせる。
もう一度あそこにコートを取りに戻る勇気がなくて、また明日、昼間にでも取りに来ようと思い、帰り道を急いだ。
「先に帰んなよ」
いつの間に追いつかれたのか、耳のすぐそばで声がした。
「お前なんか、生きててもしようがなくね?」
そんなの、自分が一番よくわかってる。
「クリスマスだからさぁ、ちょっとはいい思いさせてやろうか?」
意味が、わからなかった。
それで、立ち止まって声の方を向いてしまった。
「やっぱ顔はタイプだわ」
「確かに、かわいい顔してる。あっちの方はどうかな」
うすら笑いを浮かべるその顔を見て、怖くなって走った。
走って、逃げた。
追いかけて来るのは男2人。
こっちは一生懸命走っているのに、笑いながら追いかけて来る。
わざとゆっくり追いかけてるんだ。
もう嫌だ。
どうしてこんな目に合うの?
降っている雪が目の中に入る。
そのたびに視界がぼやけたけれど、それでも走った。
街灯の薄明りの下、助けてくれる人もいない道を、一生懸命走った。
大きな道路を渡った向こう側に交番があることを思い出して、陸橋に向かった。
こけそうになりながら必死に階段を駆け上がった。
下りの階段まで来たところで、追いかけて来ていたひとりが言った。
「逃げらんねーよ」
わたしは、逃げられない……
逃げるとこなんて、最初からないんだった。
大学生たちに向かい合った。
「大人しくついてくればいいんだよ」
「お前なんか誰も心配なんかしねーんだから」
彼らが、1歩前に近づいて来たから、無意識に後ろへ1歩下がった。
あると思ったところに地面はなくて、足を踏み外したわたしが思ったのは、「これで終わりにできる」だった。



