星降る夜の寓話

待ち合わせは6時半だった。

仕事先から直接来たので、着いたのは20分も前。
けれども、「相手を待つ」という行為もストーカーをイラつかせるだろうと思い、このまま待つことにした。

約束の10分前に環は現れた。
しかも走って。

そして会うなり「ごめんなさい。お待たせしました」と謝ってきた。
遅れてもいないのに。

待ち合わせに走って来られたのは初めてだった。


映画は小学生の時以来だと言うのを聞いて、そんな子もいるんだと思いながら、半歩後ろを歩く彼女にもう少し近くに寄るよう言った。

今まで誰とも付き合ったことがないというのを聞き、思わず「嘘だろ」と聞き返してしまった。
環は言いにくそうに、母親の事件のせいで、誰にも相手にされていなかったことを告げた。
余計な詮索をしすぎたことに何となくその場にいづらくなり、誤魔化すため、ポップコーンを買いに行った。


映画を観ている最中、環はポップコーンを食べろといわんばかりに、いきなり口元に押し付けてきた。
驚いて思わず環を見たけれど、どうやら無意識の行為だったようで、本人はそのことに気が付いていない。
それを3回ほど繰り返して、ようやく自分のしたことに気が付いたようだった。
けれども素知らぬフリを決め込んだようで、前を向いてスクリーンを凝視している。
その姿がどうにもかわいくて、我慢していたのだけれど、思わず笑ってしまった。
運良く、劇場内に笑いが起こったため、環は僕は映画を観て笑ったと思ったようでバレていない。

映画館の中が暗いせいで無防備になっているのか、環は映画の中で悲しいシーンになると悲しそうな表情を見せ、楽しいシーンになると嬉しそうな顔をする。
そんなに表情が変わる子だとは思ってもいなかったので、気がつくと環ばかり見ていた。

だから映画が終わった後、「オーストラリアのサンタクロースはサーフィンに乗って現れるんですね」と言われ、そんなシーンがあったことも知らない自分に苦笑いした。
映画を全く見ていなかった。



環は「誰とも付き合ったことがない」と言いながら、五條という男と一緒に住んでいる。
つまり、そういうことだろう?

本当は全て計算ずくの演技なのか?
でもとてもそんなふうには見えない。


ますます彼女のことがわからない。


環には、ストーカーを捕まえるための囮として「彼女のフリ」を頼んだ。
そして、その代償にお金を渡す。

お互いに都合のいい関係……それだけでしかない……