星降る夜の寓話

2Fに戻って、午後から下で梱包を手伝うことを飯島さんに伝えたところで丁度12時になった。

前の日に12時から休憩をとらせてもらったので、今日は電話番だから、休憩は13時からとることになる。

人のいなくなった事務所で、何件かFAXの注文を処理して、問い合わせの電話対応をした。


13時少し前になって、休憩から戻って来た越野さんが話しかけてきた。

「ねぇ、店舗の方に副社長が来てるらしいよ。販売の子が教えてくれた。抜き打ちで見回りかなぁ?」

副社長……

「ここに来るの初めてじゃない? わたし見たことないんだよね」

杠葉さんは1週間前にも事務所に来ていたけれど、越野さんは気が付いていないようだった。
合コンの時も女性は4人ともゆずり葉の社員だったけれど、誰も杠葉さんに気が付いていないようだった。

杠葉さんと2人で会った時、「店舗の従業員は本社の会議に出る人間くらいしか僕のことを知らないと思う」と言っていたけれど、どうやら本当にそうらしい。

「鴎外さん、休憩入っていいよ」

そう言われてお弁当の入った小さなカバンを持って席を立った時だった。
出入口のドアから飯島さんが誰かと親しそうに話しながら入って来た。

「店長との食事は済んだんでしょ? 何でついて来るの?」
「用があるから」
「用って何よ?」
「彼女に会いに来たんだよ」
「彼女って……さっき言ってたこと本当なの? ついこの間、彼氏はいらないって言う話を聞いたばかりなんだけど?」
「疑い深いなぁ」
「何かあくどい手でも使ったんじゃないでしょうね?」
「僕の誠意が伝わったんだよ」
「どうだか」

誰と話しているのかと思ってドアの方を向くと、わたしが見ていることに気がついた杠葉さんが、こちらを向いて微笑んだ。