星降る夜の寓話

680万円なんて大金、すんなり受け入れてもらえるなんて思ってもみなかった。
でもそれで、杠葉さんの目的はストーカーの正体を暴くことじゃないってわかった。

だって、これまで警察が動くような深刻な被害がなかったから、放っておかれたんだよね?

ストーカーの正体がわかったところで、警察に突き出しても接近禁止命令が出されるくらいで、ずっと見張っていてくれるわけじゃない。
7年もストーカーを続けて来た人にとってはそんなの大したことじゃない。

だからと言って民間人が出来ることなんて限られている。
せいぜい厳重注意か、念書をかかせるくらい。

でも、被害があれば、警察は動く。

杠葉さんは、本当に「何か」あることを望んでいる。

こんな囮みたいなこと、大切に思う相手には頼めない。
だから、わたしなんだ。

『君がひとりだから』

杠葉さんの言葉の通り、わたしには家族もいないし、手を差し伸べてくれるような親戚も友人もいない。

ただ、律がいるだけ。
それも愛情からじゃない。


でも、お金をくれさえすれば、そんなことはどうでもいい。


律や飯島さんを騙すことになるのだけは心が痛むけれど。



話し合いを終えると、杠葉さんはわたしに先に店を出るように言った。

出る時も帰る時も別々で、店の中では個室。
他の客は年配の男性が圧倒的に多く、女性がいると悪目立ちする。

こんなところで杠葉さんを見張っていたらすぐにバレてしまう。
わたしが杠葉さんの提案を受け入れなかったことを考えて、この店を選んだのだと気が付いた。

冷たいようでそうではないような、容赦ないくせに、どこか気を使われているような……杠葉さんという人がよくわからなくなった。