星降る夜の寓話

「ええよ」

そう言って、環のばあちゃんはテーブルの上に熱いお茶の入った湯呑みを置いた。

「何がですか?」
「私はそんなに長生きはできないから、先に伝えておく」
「すみません、全然わからないんですけど?」
「はっ! そんなんでよく捜査一課の敏腕刑事とか名乗って」

『敏腕』とか言ってない。
そもそも自分で言うような言葉でもないし。

「何で環のいる時に顔を出さない? いない時に来て様子だけ覗って帰るとか、情けない」
「たまたまです」

ばあちゃんは自分の分のお茶を一口飲むと言った。

「あんたも、ひどいばぁさんだと思っとるか? 学校であの子がどんな思いをしとるか知ってて毎日送り出しとる。滅多に会わない者ですら、聞こえるようにわざと色々言ってくるのに、それが学校のように一日中限られた人間に囲まれて過ごさないといけないんだから、どれだけのことか……わかってて環が休めないように、弁当を作っとる」
「でも、過去は変えようがありませんから」
「うん。自分で乗り越えるしかない。あの子は強い。それができる。でも、間違った方向へ進まないようにしてやらないといけない。律は、いつまで待てる?」

真っ直ぐに俺の顔を見て聞いてきた。

「いつまでも」
「そう言うと思った。だから、ええよ。あんたがいつか環をもらいたいと言ってきた時の返事。先に言っておく。ただ……環を選んだら、あんたは将来を棒に振ることになるけど、それでええの?」
「何の話ですか、それ」
「そこが人を選ぶ組織だと言うことを私はわかっててあんたに言っとるんだから、正直に聞かせてくれてもええでしょ」

ばあちゃんは誤魔化せないか……

表向きには「もうそんな時代じゃない」と言われているけれど、捜査一課に配属されてすぐに上司に言われた。
「3親等以内に犯罪者がいる相手と結婚した場合、出世はできないから気をつけろと」と。
そういうところはきっとこれからも変わらない。

「出世なんかどうでもいいです」
「これで安心してあの世に行ける」
「バカなこと言わないでください」

苦笑いしながら、目の前のお茶を飲んだ。

「母親の話を、ほんの少しでも自分からできるようになったらええんだけどね……」

時計を見たばあちゃんの目が少し雲った。

「いつもより帰りが随分遅い。律、迎えに行ってやってくれんか? どうせ教えなくても環のバイト先は知っとるんだろ? 捜査一課のエースを名乗っとるくらいだから」

エースって……名乗ってないし。

「今日はクリスマスだから、あんたに会えたら環も喜ぶよ」

会えたら嬉しいのは俺の方だ。

「ちゃんと言葉にしてやって」

そう言われて、俺の考えてることがわかったのかと、一瞬どきりとした。



アパートを出ると、外は雪が降っていた。

寒いはずなのに、環に会えると思うと心の中が温かくなる。

ポケットの中のスマホを無意識に握りしめた。