アストラ王国の宮殿三階、その最奥に王女の部屋はある。白を基調とした中で、適度に散りばめられた赤が上品かつ豪奢な空間だった。天蓋付きのベッドには、うつ伏せになってくつろぐ少女が一人。
彼女が両足をぶらぶらと動かすたび、銀色の長い髪が楽しそうに揺れた。
「アンタレス伯爵家の諸問題はほとんど解決したみたいね、クララ?」
少女が発した声は、ソプラノの高さとアルトの力強さを持つ不思議な声音だった。独り言ではない。
室内にはもう一人、黒髪をひっつめにした女性――専属メイドのクララがやや離れた場所に立っていた。
「ええ、以前の三人とは真反対の性格になったという話です。本当に真反対という言葉がふさわしいほどに……」
「終焉原野でティエリー君に会ってから変わったみたいじゃない。ますます、私は彼のことが気になってしまったわ」
「まさか、現地に行きたいなどとは仰いませんよね……ベガ様?」
クララが怪訝な表情で尋ねると、ベッドの上の少女はくるりと振り向いた。銀色の長い髪から覗く瞳は金色に輝き、一度それを見た万物は二度とその美しさを忘れることがないだろう。まさに、絶世の美女と呼ばれるに値するであろう美少女だった。
――ベガ・アストラ。
彼女こそ〔サーガ・オブ・アストラ〕の最大のメインヒロインにして、アストラ王国の王女だ。ベガはベッドに腰掛けると、いたずら心に溢れた笑顔で何枚もの文書を見せる。
「残念ながら、あなたのお察しの通りよ。こう何度もティエリー君の功績を読まされちゃ、興味を抱くなという方が無理な話でしょう」
彼女が持つ文書は、全てあのティエリー新聞であった。終焉原野を訪れてからの発展の日々が事細かく記されているため、いったいどんなに優秀な人物なのだろうか、ベガは気になってしょうがない。伝説の聖女ですら浄化できなかった瘴気に汚染された土地の、今の状態もまた確認したかった。
クララはやはりそうか、と大きなため息を吐く。
「残念ながら私の予想は当たってしまったようですね。だいたい、ベガ様は好奇心が強すぎます。様々な事象にご興味をもたれるのは素晴らしいことですが節度というものがあります。当然、終焉原野への訪問を認めることはできません」
「えええ~」
「私が悪者みたいな声を出さないでください。ベガ様は王女なのですよ」
「小言多~」
「お小言ではありません。全て、あなた様のためを思い私は憎まれ役を……」
くどくどと小言を述べられ始め、ベガは耳を塞ぐ。彼女にとっては苦痛な毎度の日常であった。
しばらく愛のある小言が続いた後、ベガは勢いをつけて立ち上がった。
「よし、決めた! 私は終焉原野に行くわ! こんなの王国一の領地よ! 新聞だけじゃ全てはわからないし、もっとティエリー君のことを知りたいもの!」
「ベガ様!」
「考えてもみなさい、クララ。歴史上、誰も浄化できなかった瘴気を浄化して、王国で一番とも言えるほどまで発展させた本人に会ったら、王国の運営にもメリットがあると思わない?」
「……言われてみればそうですね」
いつものようにクララを丸め込んだベガは、嬉々として終焉原野行きの準備を進める。ティエリーが彼女たちと会うのは、そう遠くない未来の話であった。
彼女が両足をぶらぶらと動かすたび、銀色の長い髪が楽しそうに揺れた。
「アンタレス伯爵家の諸問題はほとんど解決したみたいね、クララ?」
少女が発した声は、ソプラノの高さとアルトの力強さを持つ不思議な声音だった。独り言ではない。
室内にはもう一人、黒髪をひっつめにした女性――専属メイドのクララがやや離れた場所に立っていた。
「ええ、以前の三人とは真反対の性格になったという話です。本当に真反対という言葉がふさわしいほどに……」
「終焉原野でティエリー君に会ってから変わったみたいじゃない。ますます、私は彼のことが気になってしまったわ」
「まさか、現地に行きたいなどとは仰いませんよね……ベガ様?」
クララが怪訝な表情で尋ねると、ベッドの上の少女はくるりと振り向いた。銀色の長い髪から覗く瞳は金色に輝き、一度それを見た万物は二度とその美しさを忘れることがないだろう。まさに、絶世の美女と呼ばれるに値するであろう美少女だった。
――ベガ・アストラ。
彼女こそ〔サーガ・オブ・アストラ〕の最大のメインヒロインにして、アストラ王国の王女だ。ベガはベッドに腰掛けると、いたずら心に溢れた笑顔で何枚もの文書を見せる。
「残念ながら、あなたのお察しの通りよ。こう何度もティエリー君の功績を読まされちゃ、興味を抱くなという方が無理な話でしょう」
彼女が持つ文書は、全てあのティエリー新聞であった。終焉原野を訪れてからの発展の日々が事細かく記されているため、いったいどんなに優秀な人物なのだろうか、ベガは気になってしょうがない。伝説の聖女ですら浄化できなかった瘴気に汚染された土地の、今の状態もまた確認したかった。
クララはやはりそうか、と大きなため息を吐く。
「残念ながら私の予想は当たってしまったようですね。だいたい、ベガ様は好奇心が強すぎます。様々な事象にご興味をもたれるのは素晴らしいことですが節度というものがあります。当然、終焉原野への訪問を認めることはできません」
「えええ~」
「私が悪者みたいな声を出さないでください。ベガ様は王女なのですよ」
「小言多~」
「お小言ではありません。全て、あなた様のためを思い私は憎まれ役を……」
くどくどと小言を述べられ始め、ベガは耳を塞ぐ。彼女にとっては苦痛な毎度の日常であった。
しばらく愛のある小言が続いた後、ベガは勢いをつけて立ち上がった。
「よし、決めた! 私は終焉原野に行くわ! こんなの王国一の領地よ! 新聞だけじゃ全てはわからないし、もっとティエリー君のことを知りたいもの!」
「ベガ様!」
「考えてもみなさい、クララ。歴史上、誰も浄化できなかった瘴気を浄化して、王国で一番とも言えるほどまで発展させた本人に会ったら、王国の運営にもメリットがあると思わない?」
「……言われてみればそうですね」
いつものようにクララを丸め込んだベガは、嬉々として終焉原野行きの準備を進める。ティエリーが彼女たちと会うのは、そう遠くない未来の話であった。



