外れスキル「ミニゲーム」の悪役モブ貴族、死にたくないので自ら辺境に追放される~スローライフ目指して自由に開拓した結果、居心地が良くなりすぎて僕を断罪する人たちに居候されています~

【第九章:実家の面々との再会】

 シリウスさんが終焉原野に来てから一週間も経たぬうちに、アストラ魔法大学から分校設立を手伝う人たちが訪れた。リーダーは魔法学教室の助教授でシリウスさんの弟子、ライナーさんという男性だった。僕は握手をして挨拶を交わす。
「初めまして、領主のティエリーです」
「こちらこそ初めまして。僕はライナーだ。シリウス先生には日頃からこき使われていてね。なんともはや、話に聞く以上に素晴らしい土地じゃないか。終焉原野がこれほど発展しようとは……。まさしく奇跡と言わざるを得ないな。教授陣が来たくてしょうがなかった気持ちもよくわかる」
 ライナーさんは領地を見渡しながら感嘆と呟き、スピカやピピといった珍しい仲間、ベテルギウスさんやプロキオンさんなどといった大物にも驚きの言葉を口にする。彼は終焉原野の分校設立について、アストラ魔法大学で行われた政争も教えてくれた。僕の知らないところで教授陣とのヒリヒリした牽制し合いがあったようで、聞いただけで背筋が凍ってしまった。
 前世でこのゲームを遊んだときちょろっとアストラ魔法大学に行く機会があったけど、シリウスさん以外の教授は恐ろしい人ばかりだった。ライナーさんが来てくれただけでもすごくありがたかったかもしれない。とても爽やかな人というのが第一印象だったのだけど、言わずもがなこの人もまた僕(ティエリー)の断罪に積極的に関わってくる。
 さらに彼の後ろには、何人もの魔法使い然とした若い人たちが控えていた。ざっと三十人ほどだろうか。まさかと思い、僕はライナーさんに尋ねる。
「そちらに控える方々はもしかして……」
「ああ、そうさ。魔法学教室の生徒諸君だよ」
「け、結構な大人数でいらっしゃったんですね」
 シリウスさんは訪問する学生については選抜するから少ないかも~、なんて言っていたのに。表情が硬くなってしまった僕を気遣ってか、ライナーさんは残念そうな顔で説明する。
「押しかけてしまって申し訳ない。選抜試験を行ったところ全員合格してしまい、みな連れてきた次第さ。みなこの土地に来てティエリーさんに会いたかったそうだ。大学の勉強もこれくらい頑張ってほしいと思うのだがね」
「「よろしくお願いします!」」
 学生たちは希望に満ち溢れた明るい笑顔で挨拶してくれるのだけど、あいにくと僕は引き攣った苦笑いを浮かべることしかできなかった。皆さんどこかで見たことがあると思ったら、〔サガオブ〕の断罪シーンで見たのだ。
 僕たちアンタレス伯爵家の面々は魔法によって一人ずつ空中に浮かばせられ、火の玉に閉じ込められ燃やされてしまう。そう、シリウスさんが何度も使った火球系統の魔法によって……。
『またお友達がいっぱいできて嬉しいの!』
「ティエリー様を慕う人がたくさん増えること、非常に喜ばしい限りでございます」
「……そうだね」
 満足げなピピとスピカに対して、僕はまたもや引き攣った苦笑いで答える。シリウスさんの元、魔法大学の面々は分校の建設について相談を始めた。
 ……どうにかして抵抗できないだろうか。
 そう思った僕は、頑張ってシリウスさんに話しかける。
「ところで、学生さんが全員集まってしまっていいんでしょうか。授業の関係とか……」
「それが問題ないんじゃよ。ゆくゆくは本校と魔法陣で繋げて、いつでも転送できるようにするつもりじゃて。そうしたら、もうここはアストラ魔法大学そのものじゃ」
「なるほど……それは素晴らしいことで……」
「じゃあ、さっそく分校の建設を始めるぞよー!」
「「おおおー!」」
 シリウスさんの掛け声で、あくせくと建設の準備が始まる。
 ああ、また僕を断罪する原作キャラの密度が濃くなっていく……。そう思ったとき。
 不意に、領地の一角が騒がしくなった。誰かがバリアの外から怒鳴っている? 遠目に、数人の小さな集団が見えたので近づいてみたら、それはもう驚いてしまった。
 僕と同じように、傍らのスピカも息を呑む。
「ティエリー様、あれは……!」
「う、うん。いったいどうしてあの人たちが……!」
『目が血走ってて魔物みたいなの』
 現れたのは……なんとアンタレス伯爵家のあの三人だったから。
 なんで父上たちが終焉原野に……? 俄には信じられなかったけど、間違いなくあの三人だ。急いで近づくにつれ、言い争う声が聞こえてくる。
「……おい、今すぐこのバリアを解除しろ! 無礼にも我が輩を阻む無礼な貴様らは無礼にもほどがあるほど無礼だ!」
「だから、何を言っているのか全然わからんでありんす!」
 父上たちはバリアを開けろと騒ぎ立て、面倒だろうにミアさんが対応してくれていた。彼らの服装はなぜかボロボロで汚れているなこともあってか、もはや完全な不審者だ。
 ……いったい何しに来たの? 黒針死団の襲撃を詫びに来たってこと? 
 父上たちは僕に気づくや否や、魔物の咆哮にも負けないくらい大きな声で騒ぐ。
「とうとう見つけたぞ、ティエリー! よくこんな辺境でのうのうと暮らせていたな!」
「あんたのせいでわたくしたちは酷い目に遭ったのよ! 責任を取りなさい!」
「無能なお前のせいで俺たちは王国騎士団に目をつけられたんだ! どうしてくれる! 逃げてくるのだってめちゃくちゃ大変だったんだぞ!」
 違ったらしい。訴えることは支離滅裂だし、逆恨みもいいところだ。というか……。
「父上たちは王国騎士団から逃げてきたのですか!? 罪が増えますよ!」
「我が輩に罪などあるわけないだろう! そもそも、貴様が愚息ですらない愚息なせいで……」
 いつもの通り罵倒が始まるけど、僕はもうそれどころではない。宮殿の報告通り、アンタレス伯爵家に調査が入ることは確実だろう。逃げてくるなんて大変なことだ。しかも、よりによって僕の避難先に逃げてくるとは。
 同罪だと認識されちゃったらどうしよ~! 断罪フラグが復活してしまうのでは!?
「……先ほどから聞いていたが、貴殿らはティエリー氏に対して言葉が過ぎるな。さすがの我も看過できんぞ」
 ベテルギウスさんと騎士の面々が現れたら、さすがに罵倒の勢いが弱まった。《神閃の刃》の噂はもちろんのこと知っているようで、父上たちは一斉に押し黙る。
 僕との関係について領民たちがどよめいているので、この機会にとみんなに説明した。
「えーっと、皆さん聞いてください。こちらの三人はアンタレス伯爵家――要するに、僕の実家の人たちです。父上のエッグハルト、母上のヨアンナ、兄上のゲンリッヒです、はは」
「「!?」」
 紹介したら、領地はたちまちざわめきに包まれた。みな、驚きの顔で互いに相談し合う。
「ティエリー様のご家族だって……? あんなに凶悪な顔つきをしているのに?」
「性格も非常に悪そうだ。ご子息はこんなにも温かいお人柄なのにどうして……」
 領民たちは、僕が性悪なアンタレス伯爵家の一員であることが信じられないようだ。そう思ってくれてありがとう。
 ……と思いきや、領民たちから少しずつ怒気が上がり始めた。
「「ティエリー様を傷つけようとするなんて……」」
「あの、僕の家族がすみません。ちょっと話してきますので、みなさんは待っててください」
 争い事はなるべく避けておきたいところ。バリア儀に魔力を登録した人は自由に通過できるので、僕はスピカと一緒に外に出た。父上たちは相変わらずのテンションで僕を責める。どうにか穏便に済まないものだろうか。
【ミニゲーム】スキルを調べてみようとゲーム機を操作したら、メッセージBOXに通知が入った。

〔重要な連絡:『サービス開放について』 平素より【ミニゲーム】スキルをお使いいただきありがとうございます。日頃の感謝の気持ちを込め、サービス開放の権利をお送りします。どんな進化BOXでも一つだけ、ミニゲームをクリアしなくとも開放することができます〕

 ありがとう! 何か解決策がないか進化BOXを開くと、今まで見たことない人型のアイコンが一番上に現れた。

 隠しアイコン1:〝人間〟 ※一度に三人まで進化可能。一度使用すると、隠し開放条件を達成するまで使用不可となる。

 へぇー、こんなアイコンがあったんだ! 対応するミニゲームの難易度は★5とのこと。説明を見る限り、連続では使えないらしい。
 つまり、良い性格になるってこと? だったらすごいじゃないか。凶悪な父上たちも善人になってくれるかも。しばらく使えなくなっても、ここは父上たちに行使するのがベストな判断だろう。
 ……いやしかし、人間を進化させるなんて倫理的にいいのかな……。
「「?★※○!▲□◆!」」
 ……まぁいいか。僕は父上たちにゲーム機を向ける。
「優しくて良い人間になって……【エヴォリューション】!」
「「な、なにを……っ!」」
 彼らの全身が白い光に包まれる。やっぱり、他の対象にスキルを使ったときと同じ反応なんだと思ったとき。三人の身体から黒いもやみたいな何かが出た。すごいスピードで空の彼方に消えていったような……気のせいかな。
 空をジッと見つめようとしたら、父上たちの光が収まった。【ミニゲーム】スキルは無事に作用したのだろうか。そう思う間もなく、三人は勢いよく僕に近寄った。スピカが間に入ろうとする瞬間、父上たちはあり得ない行動を取る。
「ティエリー、今まで申し訳なかった。悪いのは全て我が輩たちだ」
「何度も叩いたり暴言を吐いてごめんなさい。謝って済む話ではないけど謝らせてちょうだい」
「一人しかいない弟を大事にできないなんて、兄として情けねえよ」
 謝ったのだ。そう、これは"綺麗な"父上たちだ。表情からは毒気が抜け、明らかに先ほどまでとは違う状態だとわかる。あまりの豹変ぶりに、僕も周りのみんなもぽかんとするほどだ。
 父上たちは整列すると礼儀正しく頭を下げた。
「「数々の無礼、誠に申し訳ない」」
 態度や声音から、真剣な謝罪だとよく伝わってくる。周囲が静寂に包まれる中、僕は一歩前に出た。
「父上、母上、兄上は……心を改めてくださったんですか?」
 僕の問いかけに、三人は申し訳なさそうにしつつもどこか晴れ晴れとした表情で頷く。
「ああ、今は……憑きものが落ちたような不思議と心地よい気持ちだ」
「どうしてあんなに、あなたや他人が憎かったのかわからないわ」
「本当にたくさんの人に迷惑をかけてしまったぜ。これからしばらくは懺悔の日々だな」
 きっと、【ミニゲーム】スキルが心まで作用したんだ……。とても感慨深くて、家族が改心してくれて、僕はただただ嬉しかった。父上たちは落ち着いた様子で静かに言う。
「我が輩たちはアンタレス伯爵領に戻る。王国騎士団とも自分の罪とも正面から向き合うつもりだ」
「処罰を受けて、罪を償って、真っ当な人生を送るわ」
「ティエリーが無罪であることはきちんと証明させてもらうからな」
 終焉原野の襲撃やアンタレス領での圧政などすでに悪事は犯してしまったわけだけど、まだ引き返せる段階だ。改心したまま過ごしてくれれば、断罪されてしまうこともないだろう。
 運命が変わった……。
 じんわりと喜びを感じる僕の隣に、スピカがそっと立つ。
「倒さずに和解されるとは、ティエリー様らしい穏やかな解決が見事でございます」
『みんな仲良くが一番なのー!』
「そうだね、僕も本当にそう思うよ」
 バリアの中から外から笑い声がずっと絶えない。その日の青い空は、いつも以上に青かった。