外れスキル「ミニゲーム」の悪役モブ貴族、死にたくないので自ら辺境に追放される~スローライフ目指して自由に開拓した結果、居心地が良くなりすぎて僕を断罪する人たちに居候されています~

 アストラ魔法大学の最上階には、学長と教授陣しか入室できない大会議室がある。学校の運営方針に関する相談など非常に重要なときしか使われないその部屋に、今は全ての教授が集まっていた。みな、一心不乱に空中に投影された映像に見入る。
 ちょうど、減衰黒杖を持ったシリウスが《微少火球》を使う場面だった。一面の曇り空が吹き抜けるような青い空に変わった光景に、その場の全員が目を奪われた。 映像はティエリーを映して消え、室内には静寂が戻る。
 あまりの衝撃に一同が黙する中、丸テーブルの真ん中に座する白髪の男性が口を開いた。
「……シリウス先生からの報告は以上じゃ。いやはや、これはまたすごい少年を見つけたものじゃな。ワシは興味が引かれてしょうがないぞよ」
 男の言葉に、教授陣は無言で頷く。シリウスからはキャラが被るからその口調は止めろと何度も言われているのだが、長年の癖によって染みついているので難しい。
 彼の名はケネス。ここアストラ魔法大学の学長である。
 黙って報告を反芻するケネスの一方で、教授陣は終焉原野の発展具合やティエリーのスキルに対する興奮そのままに話し合う。
「それにしても、あの人は自由過ぎやしませんか?」
「ああ、彼女はいつも横暴だ。減衰黒杖だって勝手に持ち出しおって」
「最近はほとんど大学に来ていませんわよね。学生を指導する立場なんですから節度を持ってもらわないと」
 あっという間に大会議室はざわめきに包まれるが、ケネスがそっと手を翳すと全員が黙った。
「シリウス先生の奔放な行動は別として、終焉原野に分校を建設することに反対する先生はいるかの?」
 手を挙げる者は一人もいない。それもそのはず、分校の建設にはこの場にいる全員が賛成だからだ。
 ――終焉原野のティエリーの元で研究を行うことは、アストラ魔法大学にとって非常に有益に働く。
 その有用性について、教授陣はしかと理解していた。一同の意思を感じとったケネスは、最も重要な本題を切り出す。
「実際に終焉原野に行き、シリウスとともに分校建設を頼みたい先生じゃが……」
「私にお任せください」
「いえ、そこは俺でお願いします」
「僕に任命を」
 教授陣は我先にと手を挙げて主張する。シリウスの行動には苦言を呈したくせに、打って変わった態度にケネスは笑ってしまった。 
「そんなに意気込んでくれて、ワシもとても嬉しい限りじゃよ。じゃが、あいにくと派遣する人間はもう決まっておるんじゃ……入ってきてくれるかの?」
 扉が開き、若い男が入室する。静々と会釈をする彼をケネスが紹介した。
「彼はシリウス先生の弟子で魔法学の助教授、ライナー先生じゃ。分校の設立は彼に一任しようと思う」
 話し終わった瞬間、教授陣の視線がライナーに集まった。
 ――ティエリーと友好的な関係を築いて、絶対に結果を出せ。
 口には出さない命令がひしひしと伝わり、彼は再び頭を垂れる。
「必ずや結果を出してみせます」
 議題はそこで次の話題に切り替わり、ライナーは退室する。廊下を曲がったところで彼は勢いよく拳を握った。
「やった……やった! 終焉原野に行ける……ティエリー少年に会える……!」
 シリウスの弟子であるため、一番最初に情報を得られた。話を聞き映像を見たら、もう心は終焉原野に飛んでいってしまったのだ。
 ――デバフをバフに変換する。
 理論上不可能な事象を成し遂げたティエリーにぜひ会いたかった。これまた浄化は不可能と称された瘴気が蔓延る終焉原野。その発展具合も実際に目で見たい。裏でケネスと接触し、諸々の根回しを経てこの任務を勝ち取ったのだ。
 ライナーは大会議室の方向を振り返る。
「教授陣はさすがの圧だな。久々に背筋が凍ったよ。まぁ、終焉原野行きの任は渡さないが。さて、さっそく派遣する学生を厳選しなければ。筆記試験に実技試験……忙しくなるぞ、ククク……」
 どこかで聞いた含み笑いを残し、彼は魔法学の教室に向かう。