ティエリーに敗れたパトリックたち黒針死団。彼らはトカゲドラゴンによって、最も近い王国騎士団の詰め所に護送された。騎士たちはみな、わずか十歳の少年がA級指名手配の組織を壊滅させたことに強く驚いた。 黒針死団は全てを白状し、此度の領地襲撃はアンタレス伯爵家の指示だと明らかにもなった。
全てはすぐ王国騎士団の上層部――すなわち、アストラ王国の宮殿に報告され、早急な対応が取られた。その結果、アンタレス伯爵家は朝からかつてないほどの喧噪に包まれている。何人もの騎士がッグハルトたち首謀者を捕らえにきたのだ。
慌ただしい屋敷の執務室の扉を、相も変わらず貧乏くじを引いてしまう執事が必死に叩く。
「……旦那様、宮殿より王国騎士団の方々がいらしております! 今すぐ話を聞きたいとのことです! お部屋から出てきてくださいませ!」
「ええい、わかっておる! 準備があるんだ! 少し待て!」
エッグハルトは扉越しに怒鳴りつける。執務室の扉は頑丈で、鍵をかければおいそれと開けることは難しい。それでも、騎士の声が聞こえることからも突破されるのは時間の問題だと明らかだった。室内にはヨアンナとゲンリッヒもおり、三人とも現状のまずさに焦燥感を覚えるばかりだ。
――王国騎士団に捕まったら最後、自分たちは罪を裁かれてしまう。
まず間違いなく宮殿に連行される。黒針死団への指示をきっかけに、今までの行いまで罪に問われるかもしれない。領民の弾圧や不当な行動の制限、度を超した徴税などなど……。
耐えかねたヨアンナはエッグハルトに掴みかかった。
「どうするんですか! 監獄行きなんて絶対に嫌ですわ! わたくしの人生を返してください! こうなったのも全てはあなたが悪いんです!」
「黙れ、黙れ、黙れ! 我が輩の責任にするな! 貴様も嬉々として領地の襲撃計画に乗っかっただろう!」
二人が取っ組み合いの喧嘩をする中、ゲンリッヒは絶望で頭を抱えるしかない。まさしく袋小路に陥った三人だったが、ふとエッグハルトの頭に光明が差した。
「……よし、一旦逃げるぞ! こういうときのために隠し通路があるんだ!」
「「それだ!」」
アンタレス伯爵家の地下には、一族にのみ伝わる隠し通路が広がる。屋敷が盗賊団などに襲われた場合の待避経路だ。そこに逃げ込むのは一番の得策だと思われた。半幽閉していたティエリーには教えていないので、文字通りこの場の人間しか知らない隠し通路だ。
――逃げた後はどうするのか。
重要な問題を先送りにしたエッグハルトたち三人は、暖炉の底にある重い扉を引きずり開ける。地下に地下に続く階段が現れた。入る順番でひと揉めした後、最後にゲンリッヒが降りる。協力して扉を閉めたと同時、騎士たちが執務室になだれ込んだ。
「「アンタレス伯爵家の三人はどこだ!」」
もぬけの殻となった室内を探す騎士たちは、終ぞ隠し通路の存在には気づかなかった。
□□□
隠し通路は暗くて湿気に満ち、気色悪い空気が肌に纏わり付く。しばし歩いた三人は、やがて行き止まりに到着した。長い階段が上に上にと伸びる。
それを力なく登ると、三人はどこかの埃っぽい家に出た。アンタレス伯爵領の街外れにある寂れた小屋――隠し通路の出口である。
質素な椅子に腰掛けたエッグハルトは、ため息とともに悪態を吐いた。
「……クソッ、これからどうすればいいんだ!」
この小屋にはある程度の食料や物資はあるものの、一時的に身を隠すだけの役割しかない。ずっとここにいても、いずれは騎士たちに見つかってしまうのは火を見るより明らかだ。誰も何も話さず、重い沈黙が三人にのしかかる。
八方塞がりの状況で捕まるのを待つしかないと実感したとき。エッグハルトがぽつりと呟いた。
「こうなったら我が輩たちが直接終焉原野を……ティエリーを襲撃してやる。あの愚息が黒針死団を返り討ちにしたのが全ての元凶だ。全てはティエリーが悪いのだ」
その呟きを聞いたヨアンナとゲンリッヒは、何か感銘を受けたかのような心境になった。
「そうですわ。その通りです。返り討ちにするとは許せません」
「あの無能な弟が原因……なんで今まで気づかなかったんでしょう」
――攻撃しろ。傷つけろ。痛い目に遭わせろ。
なぜかはわからないが、そう命令されている気分だった。エッグハルトたち三人は闇夜に乗じてひっそりと街を後にする。向かうは遙か辺境――ティエリーのいる終焉原野である。
全てはすぐ王国騎士団の上層部――すなわち、アストラ王国の宮殿に報告され、早急な対応が取られた。その結果、アンタレス伯爵家は朝からかつてないほどの喧噪に包まれている。何人もの騎士がッグハルトたち首謀者を捕らえにきたのだ。
慌ただしい屋敷の執務室の扉を、相も変わらず貧乏くじを引いてしまう執事が必死に叩く。
「……旦那様、宮殿より王国騎士団の方々がいらしております! 今すぐ話を聞きたいとのことです! お部屋から出てきてくださいませ!」
「ええい、わかっておる! 準備があるんだ! 少し待て!」
エッグハルトは扉越しに怒鳴りつける。執務室の扉は頑丈で、鍵をかければおいそれと開けることは難しい。それでも、騎士の声が聞こえることからも突破されるのは時間の問題だと明らかだった。室内にはヨアンナとゲンリッヒもおり、三人とも現状のまずさに焦燥感を覚えるばかりだ。
――王国騎士団に捕まったら最後、自分たちは罪を裁かれてしまう。
まず間違いなく宮殿に連行される。黒針死団への指示をきっかけに、今までの行いまで罪に問われるかもしれない。領民の弾圧や不当な行動の制限、度を超した徴税などなど……。
耐えかねたヨアンナはエッグハルトに掴みかかった。
「どうするんですか! 監獄行きなんて絶対に嫌ですわ! わたくしの人生を返してください! こうなったのも全てはあなたが悪いんです!」
「黙れ、黙れ、黙れ! 我が輩の責任にするな! 貴様も嬉々として領地の襲撃計画に乗っかっただろう!」
二人が取っ組み合いの喧嘩をする中、ゲンリッヒは絶望で頭を抱えるしかない。まさしく袋小路に陥った三人だったが、ふとエッグハルトの頭に光明が差した。
「……よし、一旦逃げるぞ! こういうときのために隠し通路があるんだ!」
「「それだ!」」
アンタレス伯爵家の地下には、一族にのみ伝わる隠し通路が広がる。屋敷が盗賊団などに襲われた場合の待避経路だ。そこに逃げ込むのは一番の得策だと思われた。半幽閉していたティエリーには教えていないので、文字通りこの場の人間しか知らない隠し通路だ。
――逃げた後はどうするのか。
重要な問題を先送りにしたエッグハルトたち三人は、暖炉の底にある重い扉を引きずり開ける。地下に地下に続く階段が現れた。入る順番でひと揉めした後、最後にゲンリッヒが降りる。協力して扉を閉めたと同時、騎士たちが執務室になだれ込んだ。
「「アンタレス伯爵家の三人はどこだ!」」
もぬけの殻となった室内を探す騎士たちは、終ぞ隠し通路の存在には気づかなかった。
□□□
隠し通路は暗くて湿気に満ち、気色悪い空気が肌に纏わり付く。しばし歩いた三人は、やがて行き止まりに到着した。長い階段が上に上にと伸びる。
それを力なく登ると、三人はどこかの埃っぽい家に出た。アンタレス伯爵領の街外れにある寂れた小屋――隠し通路の出口である。
質素な椅子に腰掛けたエッグハルトは、ため息とともに悪態を吐いた。
「……クソッ、これからどうすればいいんだ!」
この小屋にはある程度の食料や物資はあるものの、一時的に身を隠すだけの役割しかない。ずっとここにいても、いずれは騎士たちに見つかってしまうのは火を見るより明らかだ。誰も何も話さず、重い沈黙が三人にのしかかる。
八方塞がりの状況で捕まるのを待つしかないと実感したとき。エッグハルトがぽつりと呟いた。
「こうなったら我が輩たちが直接終焉原野を……ティエリーを襲撃してやる。あの愚息が黒針死団を返り討ちにしたのが全ての元凶だ。全てはティエリーが悪いのだ」
その呟きを聞いたヨアンナとゲンリッヒは、何か感銘を受けたかのような心境になった。
「そうですわ。その通りです。返り討ちにするとは許せません」
「あの無能な弟が原因……なんで今まで気づかなかったんでしょう」
――攻撃しろ。傷つけろ。痛い目に遭わせろ。
なぜかはわからないが、そう命令されている気分だった。エッグハルトたち三人は闇夜に乗じてひっそりと街を後にする。向かうは遙か辺境――ティエリーのいる終焉原野である。



