「ティエリー・アンタレス様のスキルは……【ミニゲーム】でございます」
石造りの厳かな教会に神父さんの声が響く。彼の声は震えているのだが、残念なことにその理由はよくわかった。
限られた人しか得られない貴重な能力――スキル。
それが聞いたこともない〝外れ〟だったからだ。絶望する僕、そして隣に立つ父上に対し、神父さんは怪(け)訝(げん)な顔でさらなる説明を続けた。
「専用ゲーム機に収録されたミニゲーム?をクリアすることで、好きな対象物を進化できる能力と書かれています……失礼、初めて聞く単語ばかりでどんな能力か想像もつきません」
神父さんの話に、僕は転がるような勢いで鑑定球を覗(のぞ)き込む。人間のスキルを判定する貴重な魔道具だ。
★スキル名:【ミニゲーム】
○説明
・専用ゲーム機に収録されたミニゲームをクリアすることで、好きな対象物を進化できる
・ミニゲームは良GP(ゲーミングポイント)を消費することでプレイできる
・GPは時間経過で少しずつ回復するが、良い行いをすることでさらに回復できる
※ミニゲームを失敗しても、GPは戻らないので注意されたし[I1.1][あ青1.2][I1.3]
スキルの全容が明らかになった瞬間、僕は父上に胸倉を掴(つか)まれた。八歳の小さな身体では簡単に持ち上げられてしまう。
「ティエリー、外れスキルを授かるとはどういう了見だ! 我がアンタレス伯爵家はアストラ王国でも一、二を争う名家だぞ! 家の評判に泥を塗るつもりか!」
「も、申し訳ありません!」
「外れスキルは外れのスキルじゃないか! 外れたスキルはスキルが外れているんだ! 価値があるスキルは外れていないスキルで、外れたスキルはスキルが外れているから価値がない外れスキルだ! わかっているのか!」
「す、すみません。何を仰っているのかよくわからず……っ」
「お前が無能だと言っているんだ!」
どかっと突き放され、床にお尻を打ち付ける。
……痛ったー! 僕の可愛いお尻が赤くなっちゃうよ。
大丈夫か心配していたら、さらに二つの人影が迫ってきた。
「愚かにも外れスキルを授かるなんて愚かすぎて愚の骨頂ですわ。愚の骨頂にあるほど愚かなお前は、愚かすぎるから愚かな外れスキルを愚かにも授かったのよ」
「無能のヤツは無能だから無能なんだよ。無能のお前にピッタリの無能スキルだな」
叩かれたら痛そうな鉄扇を必ず備える母上のヨアンナに、四つ離れた兄上のゲンリッヒ。二人とも幼少期から当たりが強く、父上と一緒に僕を罵倒してくるのだった。
いつも通り家族に罵倒されていたら、不意に強い頭痛を感じた。〝ここではない別の世界〟――前世の記憶が流れ込んでくる!
僕は元々アラサーの日本人で、ブラック企業の労働者だった。過労が祟(たた)って死んでしまった……。唯一の趣味はゲーム。
中でも一番熱中したのが、〔サガオブ〕こと〔サーガ・オブ・アストラ〕だ。世界中で大人気だった王道のファンタジーRPGゲームで、シナリオの分岐点が極めて多いことで有名だった。枝分かれのルートは理論上無数にあり、その全てを遊び尽くすのは人生をかけても難しいだろう。
「この世界は……ゲームの世界」
思わず呟(つぶや)きが漏れる。まさか、自分がいわゆる〝転生者〟なんて今までの人生で想像もしなかった。ティエリーとして生きた精神が塗り替えられることはなく、前世の大人の精神が入り混じった不思議な感覚を覚える。
前世の記憶が蘇(よみがえ)ると、我が家の設定も思い出した。
アンタレス伯爵家は原作主人公に立ちはだかる悪役一家で、最終的には一家丸ごと断罪処刑の末路だ。改めて家族を見ると、確かにみんな凶悪な顔をしている。
僕の顔つきがそれほど悪人面でない――自分で言うのもなんだけど、むしろ可愛いのはモブキャラ故の利点だろうか。
「それにしても、お父様たちは凶悪な顔をされていますね」
「「なんだと!」」
思ったことが口を衝(つ)衝いて出てしまう! どうして!?
再び怒り始めてしまった父上たちは置いといて、僕は今後の立ち回りを検討する。日時を確認する限り、今日は奇しくも原作スタートのちょうど一年前とわかった。〔サガオブ〕はルートの分岐点が無数にある。故に、シナリオの展開が読めない。
一方で、アンタレス伯爵家はどのルートでも断罪処刑の運命にあった。無論、ティエリーも背景に出てきただけなのに、ついでのように処刑されてしまう。
このまま家にいたら、いずれ僕は死んじゃうってことか。モブの極みだったティエリーのスキルは作中でも明らかにされなかったし、【ミニゲーム】スキルなんて初めて聞いた。いったいどんな力があるのかまったくわからない。
むむむ、これは大変だ。どうしようったらどうしよう……そうだ!
「父上、僕から提案があるのですが……アンタレス伯爵家が要する辺境、〝終焉原野〟に追放していただくというのはどうでしょうか」
シナリオの展開がわからないのなら、原作キャラが誰も来ないような辺境に逃げればいいじゃない!
終焉原野は王国の西方に位置する、瘴(しょう)気(き)で汚染された大地だ。瘴気はこの世界の誰にも浄化できない設定であり、人間の体力を毒のようにじわじわと削り取る。
一方、魔物は強くすることから、オープンワールド的なシステムでさえ一度も訪ねることはなかった。
僕の提案を聞いた父上は不敵な笑みを浮かべる。
「全域が瘴気で汚染された終焉原野への追放か……。お前にしては良いことを言うな。まさしく、無能な人間の末路に相応しい。よし、お前を終焉原野の領主に任命する」
「ありがとうございます。謹んで拝命いたします」
やった! これでシナリオから避難できる!
瘴気は怖いけど、隈(くま)なく探せば住める場所があるかもしれない。
さっそく辺境行きの準備を始めようと思ったところで、僕はアンタレス伯爵家の末路が気になった。
このままでは、少なくとも一年後にはみんな断罪処刑されてしまう。可愛い僕を虐めてくる嫌な人たちではあったけど、こんな家族でも一応家族だ。死ぬ運命を見過ごすのは忍びない気がする。
「どうでしょうか、皆さん。僕と一緒に終焉原野に引っ越すというのは……」
「「◆□※○★▲×?!」」
当然のように却下され、罵(ば)詈(り)雑(ぞう)言(ごん)を浴びせられた。仕方がないので予定通り一人で行こう。
準備を終えた僕はアンタレス伯爵領の街に来た。道は石畳で舗装され、馬車だけでなく通行人の数もそれなりに多い。立地に恵まれたこともあるけど、先代当主―要するに僕のおじいちゃんまではきちんと統治されていたので、その名残りだ。
幸か不幸か僕は半幽閉な生活を送っていたので、領主の息子だとは領民にも知られていない。文字通り、存在を消された人間なのだ。故に、下手に騒ぎなど起きないで助かった。
馬車の停留場に向かって歩いていたとき、後ろから女性の声が聞こえた。
「ティエリー様」
心地よい低音。後ろを振り返ると、目隠れ長身獣耳メイドがいた。
「あれh~、スピカじゃないか」
アンタレス伯爵家のメイド、スピカ。青紫色のグラデーションをした長い髪が印象的で、今日も元気に目が隠れている。印象的な髪型をも超える一番の特徴は、頭の上に生える二本のモフモフした三角耳だ。彼女はとても珍しい狐人(きつねびと)族――要するに狐の亜人だった。
身体能力の高さや物珍しさからアンタレス伯爵家に雇われたが、結局、家族はすぐに飽きて僕の専属メイドに左遷された。それ以来、ずっと一緒だ。周囲の視線が気になるので一旦脇道に連れていく。
「どうして街にいるの? 今日は一日中屋敷にいるかと」
「そうですね(ティエリー様が追放されたと聞いて、急いで後を追ってきましたあああ! 間に合って本当によかったですううう!)」
彼女は常に冷静で、とにかく淡々としている。たしか、今年で十六歳と聞いたかな。とはいえ、その一言だけでは詳細がわからないのも事実だ。
「何度かお願いしているとは思うけど、できれば〝そうですね〟の一言でまとめるのは止めてもらたら嬉しいなぁ、なんて」
「そうですね(それは本当に申し訳ありません! 普通に話したいのに、ティエリー様とお話しすると緊張が訪れるのはなぜだ!)」
日頃から、スピカは〝そうですね〟で日常会話の七割~八割近くをまとめる。言葉の裏では何か別の意味がたくさんありそうな気がするのだけど、生憎と未だによく把握できないでいた。
と、思っていたら、彼女は尻尾をフリフリさせながら追加の説明をしてくれた。
「私は終焉原野への同行を希望いたします。少しでもティエリー様のお側にいたいので(一世一代の告白が放たれる!)」
「え、一緒に? 気持ちはありがたいけど、すごく酷い土地だから来ない方がいいんじゃない? だって、住めるかさえわからないんだもの」
「いえ、私にはティエリー様さえいれば住む場所はどうでもいいのです。いつも私を気遣ってくださるあなた様の隣にいさせてください。ティエリー様の隣が私の居場所なのです(どうした、スピカ! 普段より饒(じょう)舌(ぜつ)じゃないか! すごいぞ!)」
スピカは僕の手をそっと握る。
「気持ち悪いと言われた私の髪を綺麗だと言ってくださったのは、ティエリー様だけです」
彼女の青紫色の髪を僕はとても美しいと思うのだけど、この世界の人たちは不気味だと感じるらしい。そのため、スピカは屋敷のメイドから陰口を叩かれることも多かった、
そういえば、記憶が戻る前に僕は何度かスピカを守った経験がある。ティエリーの性格は元々善人だったようだ。
旅は道連れという言葉もあるし、せっかくなのでお言葉に甘えさせてもらおう。
「じゃあ、行こうか。一緒に来てくれる人がいてよかった~」
「そうですね(念願のティエリー様との二人暮らしが始まる……! 嬉しすぎて気絶してしまいそうだ!)」
「何か別の言葉が聞こえたような」
「気のせいかと存じます(ティエリー様との……二人暮らし!)」
僕とスピカは馬車に乗り、遥か遠くの誰も寄りつかない辺境――終焉原野に向かう。
石造りの厳かな教会に神父さんの声が響く。彼の声は震えているのだが、残念なことにその理由はよくわかった。
限られた人しか得られない貴重な能力――スキル。
それが聞いたこともない〝外れ〟だったからだ。絶望する僕、そして隣に立つ父上に対し、神父さんは怪(け)訝(げん)な顔でさらなる説明を続けた。
「専用ゲーム機に収録されたミニゲーム?をクリアすることで、好きな対象物を進化できる能力と書かれています……失礼、初めて聞く単語ばかりでどんな能力か想像もつきません」
神父さんの話に、僕は転がるような勢いで鑑定球を覗(のぞ)き込む。人間のスキルを判定する貴重な魔道具だ。
★スキル名:【ミニゲーム】
○説明
・専用ゲーム機に収録されたミニゲームをクリアすることで、好きな対象物を進化できる
・ミニゲームは良GP(ゲーミングポイント)を消費することでプレイできる
・GPは時間経過で少しずつ回復するが、良い行いをすることでさらに回復できる
※ミニゲームを失敗しても、GPは戻らないので注意されたし[I1.1][あ青1.2][I1.3]
スキルの全容が明らかになった瞬間、僕は父上に胸倉を掴(つか)まれた。八歳の小さな身体では簡単に持ち上げられてしまう。
「ティエリー、外れスキルを授かるとはどういう了見だ! 我がアンタレス伯爵家はアストラ王国でも一、二を争う名家だぞ! 家の評判に泥を塗るつもりか!」
「も、申し訳ありません!」
「外れスキルは外れのスキルじゃないか! 外れたスキルはスキルが外れているんだ! 価値があるスキルは外れていないスキルで、外れたスキルはスキルが外れているから価値がない外れスキルだ! わかっているのか!」
「す、すみません。何を仰っているのかよくわからず……っ」
「お前が無能だと言っているんだ!」
どかっと突き放され、床にお尻を打ち付ける。
……痛ったー! 僕の可愛いお尻が赤くなっちゃうよ。
大丈夫か心配していたら、さらに二つの人影が迫ってきた。
「愚かにも外れスキルを授かるなんて愚かすぎて愚の骨頂ですわ。愚の骨頂にあるほど愚かなお前は、愚かすぎるから愚かな外れスキルを愚かにも授かったのよ」
「無能のヤツは無能だから無能なんだよ。無能のお前にピッタリの無能スキルだな」
叩かれたら痛そうな鉄扇を必ず備える母上のヨアンナに、四つ離れた兄上のゲンリッヒ。二人とも幼少期から当たりが強く、父上と一緒に僕を罵倒してくるのだった。
いつも通り家族に罵倒されていたら、不意に強い頭痛を感じた。〝ここではない別の世界〟――前世の記憶が流れ込んでくる!
僕は元々アラサーの日本人で、ブラック企業の労働者だった。過労が祟(たた)って死んでしまった……。唯一の趣味はゲーム。
中でも一番熱中したのが、〔サガオブ〕こと〔サーガ・オブ・アストラ〕だ。世界中で大人気だった王道のファンタジーRPGゲームで、シナリオの分岐点が極めて多いことで有名だった。枝分かれのルートは理論上無数にあり、その全てを遊び尽くすのは人生をかけても難しいだろう。
「この世界は……ゲームの世界」
思わず呟(つぶや)きが漏れる。まさか、自分がいわゆる〝転生者〟なんて今までの人生で想像もしなかった。ティエリーとして生きた精神が塗り替えられることはなく、前世の大人の精神が入り混じった不思議な感覚を覚える。
前世の記憶が蘇(よみがえ)ると、我が家の設定も思い出した。
アンタレス伯爵家は原作主人公に立ちはだかる悪役一家で、最終的には一家丸ごと断罪処刑の末路だ。改めて家族を見ると、確かにみんな凶悪な顔をしている。
僕の顔つきがそれほど悪人面でない――自分で言うのもなんだけど、むしろ可愛いのはモブキャラ故の利点だろうか。
「それにしても、お父様たちは凶悪な顔をされていますね」
「「なんだと!」」
思ったことが口を衝(つ)衝いて出てしまう! どうして!?
再び怒り始めてしまった父上たちは置いといて、僕は今後の立ち回りを検討する。日時を確認する限り、今日は奇しくも原作スタートのちょうど一年前とわかった。〔サガオブ〕はルートの分岐点が無数にある。故に、シナリオの展開が読めない。
一方で、アンタレス伯爵家はどのルートでも断罪処刑の運命にあった。無論、ティエリーも背景に出てきただけなのに、ついでのように処刑されてしまう。
このまま家にいたら、いずれ僕は死んじゃうってことか。モブの極みだったティエリーのスキルは作中でも明らかにされなかったし、【ミニゲーム】スキルなんて初めて聞いた。いったいどんな力があるのかまったくわからない。
むむむ、これは大変だ。どうしようったらどうしよう……そうだ!
「父上、僕から提案があるのですが……アンタレス伯爵家が要する辺境、〝終焉原野〟に追放していただくというのはどうでしょうか」
シナリオの展開がわからないのなら、原作キャラが誰も来ないような辺境に逃げればいいじゃない!
終焉原野は王国の西方に位置する、瘴(しょう)気(き)で汚染された大地だ。瘴気はこの世界の誰にも浄化できない設定であり、人間の体力を毒のようにじわじわと削り取る。
一方、魔物は強くすることから、オープンワールド的なシステムでさえ一度も訪ねることはなかった。
僕の提案を聞いた父上は不敵な笑みを浮かべる。
「全域が瘴気で汚染された終焉原野への追放か……。お前にしては良いことを言うな。まさしく、無能な人間の末路に相応しい。よし、お前を終焉原野の領主に任命する」
「ありがとうございます。謹んで拝命いたします」
やった! これでシナリオから避難できる!
瘴気は怖いけど、隈(くま)なく探せば住める場所があるかもしれない。
さっそく辺境行きの準備を始めようと思ったところで、僕はアンタレス伯爵家の末路が気になった。
このままでは、少なくとも一年後にはみんな断罪処刑されてしまう。可愛い僕を虐めてくる嫌な人たちではあったけど、こんな家族でも一応家族だ。死ぬ運命を見過ごすのは忍びない気がする。
「どうでしょうか、皆さん。僕と一緒に終焉原野に引っ越すというのは……」
「「◆□※○★▲×?!」」
当然のように却下され、罵(ば)詈(り)雑(ぞう)言(ごん)を浴びせられた。仕方がないので予定通り一人で行こう。
準備を終えた僕はアンタレス伯爵領の街に来た。道は石畳で舗装され、馬車だけでなく通行人の数もそれなりに多い。立地に恵まれたこともあるけど、先代当主―要するに僕のおじいちゃんまではきちんと統治されていたので、その名残りだ。
幸か不幸か僕は半幽閉な生活を送っていたので、領主の息子だとは領民にも知られていない。文字通り、存在を消された人間なのだ。故に、下手に騒ぎなど起きないで助かった。
馬車の停留場に向かって歩いていたとき、後ろから女性の声が聞こえた。
「ティエリー様」
心地よい低音。後ろを振り返ると、目隠れ長身獣耳メイドがいた。
「あれh~、スピカじゃないか」
アンタレス伯爵家のメイド、スピカ。青紫色のグラデーションをした長い髪が印象的で、今日も元気に目が隠れている。印象的な髪型をも超える一番の特徴は、頭の上に生える二本のモフモフした三角耳だ。彼女はとても珍しい狐人(きつねびと)族――要するに狐の亜人だった。
身体能力の高さや物珍しさからアンタレス伯爵家に雇われたが、結局、家族はすぐに飽きて僕の専属メイドに左遷された。それ以来、ずっと一緒だ。周囲の視線が気になるので一旦脇道に連れていく。
「どうして街にいるの? 今日は一日中屋敷にいるかと」
「そうですね(ティエリー様が追放されたと聞いて、急いで後を追ってきましたあああ! 間に合って本当によかったですううう!)」
彼女は常に冷静で、とにかく淡々としている。たしか、今年で十六歳と聞いたかな。とはいえ、その一言だけでは詳細がわからないのも事実だ。
「何度かお願いしているとは思うけど、できれば〝そうですね〟の一言でまとめるのは止めてもらたら嬉しいなぁ、なんて」
「そうですね(それは本当に申し訳ありません! 普通に話したいのに、ティエリー様とお話しすると緊張が訪れるのはなぜだ!)」
日頃から、スピカは〝そうですね〟で日常会話の七割~八割近くをまとめる。言葉の裏では何か別の意味がたくさんありそうな気がするのだけど、生憎と未だによく把握できないでいた。
と、思っていたら、彼女は尻尾をフリフリさせながら追加の説明をしてくれた。
「私は終焉原野への同行を希望いたします。少しでもティエリー様のお側にいたいので(一世一代の告白が放たれる!)」
「え、一緒に? 気持ちはありがたいけど、すごく酷い土地だから来ない方がいいんじゃない? だって、住めるかさえわからないんだもの」
「いえ、私にはティエリー様さえいれば住む場所はどうでもいいのです。いつも私を気遣ってくださるあなた様の隣にいさせてください。ティエリー様の隣が私の居場所なのです(どうした、スピカ! 普段より饒(じょう)舌(ぜつ)じゃないか! すごいぞ!)」
スピカは僕の手をそっと握る。
「気持ち悪いと言われた私の髪を綺麗だと言ってくださったのは、ティエリー様だけです」
彼女の青紫色の髪を僕はとても美しいと思うのだけど、この世界の人たちは不気味だと感じるらしい。そのため、スピカは屋敷のメイドから陰口を叩かれることも多かった、
そういえば、記憶が戻る前に僕は何度かスピカを守った経験がある。ティエリーの性格は元々善人だったようだ。
旅は道連れという言葉もあるし、せっかくなのでお言葉に甘えさせてもらおう。
「じゃあ、行こうか。一緒に来てくれる人がいてよかった~」
「そうですね(念願のティエリー様との二人暮らしが始まる……! 嬉しすぎて気絶してしまいそうだ!)」
「何か別の言葉が聞こえたような」
「気のせいかと存じます(ティエリー様との……二人暮らし!)」
僕とスピカは馬車に乗り、遥か遠くの誰も寄りつかない辺境――終焉原野に向かう。



