クラスの中心で笑う彼女は、あの日、あの時間で止まった時計を抱きしめている

5時間目の始まりを告げるチャイムは、とっくに鳴り響いた後だった。

「おまえら、昼休みが終わって何分経ってると思ってるんだ!」

前のドアから教室に滑り込んだ僕たちを待っていたのは、教壇に立つ先生の雷のような怒鳴り声だった。

「あはは、すみませーん。ちょっと話し込んじゃって」

太陽は悪びれる様子もなく、ポリポリと頭を掻きながら軽い様子で頭を下げる。クラスの何人かから小さな笑い声が漏れた。

「瀬戸も、連帯責任だぞ。ほら、早く席につけ」

「・・・あ、はい」

促されるままに、僕は自分の席へと歩き出す。
先生の声も、クラスメイトたちの視線も、今の僕には驚くほど遠くに感じられた。

全く、頭に入ってこない。

『おまえ、織原のこと、好きなんだと自覚してんのかと思ってたけどな』

体育館裏で太陽が放ったあの言葉が、頭の中で大音量の警鐘のように、何度も、何度もリフレインしている。
席についてノートを開いても、黒板の文字は滑って少しも頭に染み込んでこなかった。

――なぜなら、僕のすぐ目の前には、彼女がいるからだ。

前の席に座る織原さんの背中が、嫌でも視界に入ってくる。

今までは、ただの「前の席の友達」だった。ノートを回したり、プリントを配ったり、何気なくその背中に声をかけていたはずなのに。

恋だとか、好きだとか、そんな明確な名前を意識してしまった瞬間から、目の前の景色が恐ろしいほど一変してしまった。

先生の板書を書き写す、小さくて華奢な肩。
髪の隙間から時折のぞく、白い項。
彼女が少し動くだけで、今朝あんなに冷たくしてしまった罪悪感と、それを上回るほどの愛おしさが胸に押し寄せてきて、息が詰まりそうになる。

(・・・嘘だろ。僕、本当に、織原さんのことが・・・)

自分の心臓の音が、静かな教室中に響いて先生に怒られるんじゃないかと本気で焦るほど、ドクドク脈打っている。

昨日の帰り道、太陽と楽しそうに笑い合っていた彼女を見て、胸が引き裂かれそうに苦しかった理由。
それは太陽の言う通り、ただの『嫉妬』だったんだ。

僕は、織原さんの特別な存在になりたかったんだ。

――キーンコーンカーンコーン・・・

救いのようでもあり、終わりの合図のようでもあるチャイムが、5時間目の終了を告げた。
先生が教室を出て行った途端、それまで張り詰めていた僕の緊張が、ふっと音を立てて解ける。

机に突っ伏しそうになった、その時だった。

ガタッっと、前の席の椅子が小さく鳴る。

「・・・あの、瀬戸君」

控えめな、でも聞き慣れた愛おしい声に、跳ね上がるようにして顔を上げた。

織原さんが、椅子の背もたれに身体を預けるようにして、こちらを振り返っていた。

「っ、お、織原さん・・・」

「遅刻、先生に怒られてたから・・・大丈夫?太陽と、何かあった?」

少し眉を下げ、本気で僕を心配そうに見つめてくる、その瞳。

近い。近すぎる。

いつもなら普通に返せていたはずの言葉が、喉の奥に張り付いて出てこない。
彼女の綺麗な黒髪から、かすかに甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
昨日の帰り、太陽の前でソワソワしながら僕のことを聞いていたという、健気な彼女の姿が脳裏をよぎって、顔が一気に熱くなった。

「あ、う、うん。大丈夫。ちょっと、話し込んでて・・・」

「そっか。なら、いいんだけど・・・」

僕の尋常じゃない動揺をどう受け止めたのか、織原さんは少し戸惑ったように瞬きをして、それから、ぎゅっと唇を結んだ。
上目遣いで僕をじっと見つめるその瞳が、かすかに不安そうに揺れる。

「・・・あのね、瀬戸君」

織原さんは少し声を潜めると、意を決したように真っ直ぐ僕を見つめて、こう言った。

「今日、帰りながら、少し話せないかな?」

「え――」

ドクン、と心臓がひときわ大きく跳ね上がった。

一緒に、帰る・・・?

自分の恋心を自覚してしまったばかりの僕に、彼女から告げられた、まさかの放課後のお誘い。
顔が火を吹くほど熱くなっていくのを感じながら、僕は激しく鳴り響く胸の音を必死に抑えつけ、ただただ呆然と、彼女の顔を見つめることしかできなかった。