いつもと変わらない、少し騒がしい朝の登校風景。
差し込む朝日の眩しさも、すれ違う生徒たちの話し声も、昨日までと何一つ変わらないはずだった。
だけど、一つだけ、決定的に違うものがある。
「あ、瀬戸君、おはよう!」
振り返った織原さんが浮かべたのは、以前のような、どこか無理をして作った眩しいだけの笑顔ではなかった。
すっと胸の奥に溶け込んでくるような、柔らかくて、とても自然な笑顔。
繋がった奇跡が、彼女の止まっていた時間を確かに動かしたのだと、その表情を見ただけで分かった。
「拓海、おはよう!」
――と、その余韻を吹き飛ばすような元気な声が、教室の入り口から響いた。
声のする方を見ると、太陽がいつも通りの眩しい笑顔で歩いてくるところだった。
だけど、その笑顔はどこか、昨日までよりもずっとスッキリとしていて、晴れやかだ。
繋がった奇跡の温もりを、僕たち三人はそれぞれ胸に抱いて、新しい朝を迎えている。
そして、いつも通りに授業を受けて、いつも通りに昼休みを迎える。
太陽たちとグラウンドで思いっきりサッカーをして、汗を拭いながら教室へと戻る途中だった。
「――あの、瀬戸君」
廊下で不意に声をかけられ、足を止める。
振り返ると、そこには見覚えのない他のクラスの女子生徒が立ってた。
「・・・僕に何か用?」
不思議に思いながら問いかけると、その子は少し緊張したような面持ちで、だけど、真っ直ぐに僕を見つめてこう言った。
「今日の放課後、体育館裏に来てほしいの」
「え――」
予想もしなかった言葉に、思考が完全にフリーズする。僕が驚いて固まっている隙に、その子は「じゃぁ、待ってるから」と言い残し、足早に自分の教室へと去っていってしまった。
ぽつんと廊下に取り残された僕の頭の中は、大混乱に陥っていた。
呆然としたまま、何とか教室に戻って席につく。
すると、待ってましたと言わんばかりに、太陽がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて机に身を乗り出してきた。
「なぁ、拓海、さっき廊下で女子に話しかけられてたけど、何話してたんだよ?」
「えっ、見てたの!?」
予想通りの突っ込みに、僕は思わず声を裏返してしまう。
「教室はいる時にチラッとな。で?何だったんだよ。ついに拓海にも春が来ちゃった感じ?」
「ち、違うよ!そんなんじゃないから・・・!」
「じゃぁ、何なんだったんだよ、教えろよ~」
普段は大雑把に見えるのに、こういうところは、本当に目ざとい太陽。
見ていないようで見てる太陽には困ったな、と僕は心の中で小さくため息をついた。
ぐいぐい迫ってくる太陽に必死で弁解している時、ふと、視線を感じて教室の前方に目を向けた。
自分の席に座った織原さんが、じっとこちらを見つめている。
「あ・・・」
目が合うと、彼女がハッとしたように、気まずそうに視線を机の上に落としてしまった。
いつもなら優しく微笑み返してくれるはずの彼女の横顔が、今どこか曇っているように見える。心なしか、その小さな肩が少し強張っているようにも思えた。
太陽の声が大きすぎて、廊下でのやり取りが聞こえてしまったんだろうか。
(織原さん、どうしたんだろう・・・?)
キーンコーンカーンコーン・・・
放課後を告げるチャイムが鳴り響く。
結局、お昼休みのあとも織原さんの様子はどこか落ち着かないままで、僕は彼女のことが気になりつつも、約束の時間を迎えてしまった。
廊下ですれ違った太陽に「がんばれよ」と親指を立てられ、僕は生きた心地がしないまま、一人で体育館裏へと足を運ぶ。
校舎の陰に入ると、お昼に僕を呼び止めた女子生徒が、すでにそこで待っていた。
「あ・・・瀬戸君、本当に来てくれたんだ。ありがとう」
彼女はぎゅっと制服のスカートを握りしめ、顔が林檎みたいに真っ赤に染めている。その緊張が僕にも伝わってきて、心臓が爆発しそうなくらい激しく脈打ち始めた。
「あの、驚かせてごめんね。でも、どうしても伝えたくて・・・」
彼女は一歩、僕の方へと歩み寄ると、真っ直ぐに僕の目を見つめた。
「この前、瀬戸君がサッカーしてる姿を見たの。一生懸命ボールを追いかけてる姿が、すごくかっこいいなって思って・・・。だから、友達からでもいいので、私と付き合ってくれませんか?」
――夕暮れの体育館裏に、彼女の真っ直ぐな声が響く。
予想はしていたけれど、いざ直球の言葉をぶつけられると、僕は完全に言葉を失って立ち尽くしてしまった。
差し込む朝日の眩しさも、すれ違う生徒たちの話し声も、昨日までと何一つ変わらないはずだった。
だけど、一つだけ、決定的に違うものがある。
「あ、瀬戸君、おはよう!」
振り返った織原さんが浮かべたのは、以前のような、どこか無理をして作った眩しいだけの笑顔ではなかった。
すっと胸の奥に溶け込んでくるような、柔らかくて、とても自然な笑顔。
繋がった奇跡が、彼女の止まっていた時間を確かに動かしたのだと、その表情を見ただけで分かった。
「拓海、おはよう!」
――と、その余韻を吹き飛ばすような元気な声が、教室の入り口から響いた。
声のする方を見ると、太陽がいつも通りの眩しい笑顔で歩いてくるところだった。
だけど、その笑顔はどこか、昨日までよりもずっとスッキリとしていて、晴れやかだ。
繋がった奇跡の温もりを、僕たち三人はそれぞれ胸に抱いて、新しい朝を迎えている。
そして、いつも通りに授業を受けて、いつも通りに昼休みを迎える。
太陽たちとグラウンドで思いっきりサッカーをして、汗を拭いながら教室へと戻る途中だった。
「――あの、瀬戸君」
廊下で不意に声をかけられ、足を止める。
振り返ると、そこには見覚えのない他のクラスの女子生徒が立ってた。
「・・・僕に何か用?」
不思議に思いながら問いかけると、その子は少し緊張したような面持ちで、だけど、真っ直ぐに僕を見つめてこう言った。
「今日の放課後、体育館裏に来てほしいの」
「え――」
予想もしなかった言葉に、思考が完全にフリーズする。僕が驚いて固まっている隙に、その子は「じゃぁ、待ってるから」と言い残し、足早に自分の教室へと去っていってしまった。
ぽつんと廊下に取り残された僕の頭の中は、大混乱に陥っていた。
呆然としたまま、何とか教室に戻って席につく。
すると、待ってましたと言わんばかりに、太陽がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて机に身を乗り出してきた。
「なぁ、拓海、さっき廊下で女子に話しかけられてたけど、何話してたんだよ?」
「えっ、見てたの!?」
予想通りの突っ込みに、僕は思わず声を裏返してしまう。
「教室はいる時にチラッとな。で?何だったんだよ。ついに拓海にも春が来ちゃった感じ?」
「ち、違うよ!そんなんじゃないから・・・!」
「じゃぁ、何なんだったんだよ、教えろよ~」
普段は大雑把に見えるのに、こういうところは、本当に目ざとい太陽。
見ていないようで見てる太陽には困ったな、と僕は心の中で小さくため息をついた。
ぐいぐい迫ってくる太陽に必死で弁解している時、ふと、視線を感じて教室の前方に目を向けた。
自分の席に座った織原さんが、じっとこちらを見つめている。
「あ・・・」
目が合うと、彼女がハッとしたように、気まずそうに視線を机の上に落としてしまった。
いつもなら優しく微笑み返してくれるはずの彼女の横顔が、今どこか曇っているように見える。心なしか、その小さな肩が少し強張っているようにも思えた。
太陽の声が大きすぎて、廊下でのやり取りが聞こえてしまったんだろうか。
(織原さん、どうしたんだろう・・・?)
キーンコーンカーンコーン・・・
放課後を告げるチャイムが鳴り響く。
結局、お昼休みのあとも織原さんの様子はどこか落ち着かないままで、僕は彼女のことが気になりつつも、約束の時間を迎えてしまった。
廊下ですれ違った太陽に「がんばれよ」と親指を立てられ、僕は生きた心地がしないまま、一人で体育館裏へと足を運ぶ。
校舎の陰に入ると、お昼に僕を呼び止めた女子生徒が、すでにそこで待っていた。
「あ・・・瀬戸君、本当に来てくれたんだ。ありがとう」
彼女はぎゅっと制服のスカートを握りしめ、顔が林檎みたいに真っ赤に染めている。その緊張が僕にも伝わってきて、心臓が爆発しそうなくらい激しく脈打ち始めた。
「あの、驚かせてごめんね。でも、どうしても伝えたくて・・・」
彼女は一歩、僕の方へと歩み寄ると、真っ直ぐに僕の目を見つめた。
「この前、瀬戸君がサッカーしてる姿を見たの。一生懸命ボールを追いかけてる姿が、すごくかっこいいなって思って・・・。だから、友達からでもいいので、私と付き合ってくれませんか?」
――夕暮れの体育館裏に、彼女の真っ直ぐな声が響く。
予想はしていたけれど、いざ直球の言葉をぶつけられると、僕は完全に言葉を失って立ち尽くしてしまった。
