クラスの中心で笑う彼女は、あの日、あの時間で止まった時計を抱きしめている

放課後、放り込まれた曇り空の下、僕たちは屋上に集まっていた。
重苦しい沈黙が、僕たちの間に横たわっている。

太陽はどこかバツが悪そうな顔で地面を見つめていた。
その少し隣に、織原さんは制服のスカートをぎゅっと握りしめ、不安そうに僕を見つめている。

二人の頭の中にあるのは、きっと同じものだ。
この前、僕が見せたあのプレー。亡くなった時任君と、完全に重なったというあの残像。

「・・・二人とも、急に呼び出してごめん」

僕の声に、織原さんの肩が小さく跳ねた。
僕はポケットに手を入れ、中に忍ばせていた一枚の写真を指先でなぞる。
昨夜、母さんから借りてきた、あの色褪せた集合写真だ。

「この前の、僕のプレーが時任君に似てる理由・・・何となく、分かった気がするんだ」

「拓海・・・それ、本当か・・・?」

太陽が顔を上げ、低く掠れた声を漏らす。

「昨日、太陽から、『小さい頃に優紀と会ったことがあるとか・・・』って聞かれて、ずっと考えてたんだけど、やっぱり僕の記憶にはなくて。・・・母さんなら何か知ってるかもしれないと思って、聞いてみたんだ」

僕はポケットからゆっくりと写真を取り出し、二人の前にそっと差し出した。
少し端が折れ曲がった、3歳の頃に行ったサッカー教室の集合写真。

「そしたら、母さんが見せてくれたアルバムの中に、これがあった。僕、3歳の頃に、当時有名だった選手の一日限定のサッカー教室に行ってたんだって。・・・その写真の端に写ってる男の子」

僕が指を差すより先に、織原さんの息を呑む音が静かな屋上に響いた。
織原さんは突き動かされるようにその写真を両手で受け取り、食い入るように見つめる。

「あ・・・、あ・・・」

織原さんの大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出し、写真の表面に小さなシミを作っていく。

「優紀・・・?なんで・・・どうして瀬戸君が、この写真を・・・」

その隣で、写真を覗き込んだ太陽もまた、言葉を失ったように目を見開いていた。
ガタガタと震える織原さんの肩を見つめながら、僕は一歩、二人に近づいて言葉を紡いだ。

「僕と時任君は、あの日、確かに同じ場所にいたんだ。別のチームだったから、僕は覚えてなかった。だけど、僕たちのプレースタイルが似てるのは、偶然じゃない。僕も彼も、あの日、同じ人から同じ技術を教わってたんだよ」

僕の言葉を聞いた太陽が、ぽつりと、どこか救われたような声を漏らした。

「・・・そうだったのか。だから、おまえのプレー、あいつに似てたんだな。あのパスの出し方も、タイミングも、首の振り方も・・・全部、偶然じゃなかったんだ」

その時、涙を流しながら写真を見つめていた織原さんが、ハッと何かに気づいたように顔を上げた。

「このサッカー教室・・・あの時の・・・っ」

「織原さん?」

織原さんは写真を愛おしそうに両手で包み込みながら、震える声で紡ぎ出す。

「優紀ね・・・去年の文化祭の時、誰もいない図書室で、古いスポーツ雑誌を見つけて、すっごく嬉しそうに笑ってたの。『俺、3歳の頃、当時有名だったこの選手の一日限定のサッカー教室の抽選に奇跡的に当たってさ。この選手から、直接教えてもらったんだ。』って自慢気に話してくれて・・・。あの時の優紀、本当にキラキラしてた・・・」

織原さんの大きな瞳から、また新しい涙が溢れていく。

「優紀がずっと大切にしていた思い出が、今、瀬戸君の手の中にある・・・。優紀が・・・瀬戸君を、私たちのところに連れてきてくれたのかな・・・」

写真を胸の前にぎゅっと抱きしめて泣く彼女の姿を、太陽は静かに、だけど温かい目を見つめていた。

(そっか。時任君は、あの日からずっとサッカーが大好きで、その思い出を大切にしてたんだ)

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように熱くなる。
僕は時任君の代わりにはなれない。だけど、彼が残してくれたこの奇跡のような縁が、今、僕たちの目の前にある。

「織原さん、太陽」

僕は二人を見つめ、真っ直ぐに言葉を届けた。

「僕に、時任君の話をもっと聞かせてほしい。時任君がどんな風にサッカーをして、どんな風に笑ってたのか。・・・そして、二人の止まった時間を、僕も一緒に動かしたいんだ」

重苦しかった屋上の曇り空から、雲の隙間を縫って、ほんの少しだけ柔らかな光が差し込んできた気がした。