クラスの中心で笑う彼女は、あの日、あの時間で止まった時計を抱きしめている

僕の言葉に、母さんは一瞬きょとんとした顔をした後、何かを思い出したように小さく声を上げた。

「あ、そうだわ。ちょっと待っててね」

そう言って母さんはそのまま、奥の自室へと向かっていった。
僕は上りかけていた階段を数段下り、リビングへ移動した。

しばらくして、母さんが一冊のアルバムを抱えて戻ってきた。

「これよ、これ。ほら」

リビングのテーブルの上にパサリと置かれたアルバムを、母さんは懐かしそうにめくっていく。

差し出されたページを覗き込むと、そこには、一枚の集合写真が収められていた。
まだ画質も荒く、少し色褪せた写真の中には、何十人もの小さな子どもたちが写っている。

「この写真は・・・?」

僕の問いかけに、母さんは目を細めて、愛おしそうに写真を撫でた。

「あなたが3歳くらいの時だったかな。あなたが大好きなサッカー選手が、ちょうどこの街で、一日限りのサッカー教室をやるって聞いてね。行きたい、行きたいって、それはもう駄々をこねて大変だったのよ。まだ3歳なのに大丈夫かしらって最初は思ったんだけど、ちょうど3歳、4歳向けのボールと触れ合うような教室もあってね。倍率がすごかったんだけど、抽選に申し込んだら奇跡的に当たって・・・。その時の、最後に撮った集合写真よ」

「僕が・・・大好きな選手?」

「そうよ。この真ん中に写っているのがその選手の人。当時は海外でも活躍してたんだけど・・・確か、今はもう引退しちゃったんじゃないかしら?あなたはまだ3歳だったから、あまり覚えてないかもしれないけどね・・・」

母さんはクスクス笑いながら、さらに写真の端の方へと指を動かした。

「そういえば、あの時、別のチームにものすごく上手な男の子がいてね。・・・確か、この子だったかしら。その子のプレーがあまりにすごくて、周りの大人たちも驚いてたのよ」

「別のチームの・・・男の子・・・」

母さんの指先が示す、小さな男の子の姿に目を凝らす。
3歳の、まだおぼつかない集合写真だ。顔だってはっきりと判別できない。

――だけど。
その男の子の、どこか大人びた、真っ直ぐに前を見つめる目元を見た瞬間。
僕の胸の奥が、ドクンと嫌な音を立てて跳ね上がった。

確証なんてない。ただの直感だ。
だけど、どうしても、あの雨の日の交差点の光景が脳裏に浮かんでくる。
織原さんが泣きそうな顔で抱きしめていた、メンズの腕時計の秒針の音が、耳の奥でうるさいほどに鳴り響いた。

(もしかして、この子が・・・)

「・・・母さん」

「ん?どうしたの?」

動揺を悟られないよう、僕はできるだけ声を平坦に保ちながら言った。

「この写真、ちょっと借りていってもいいかな」

「えぇ、構わないけど、急にどうしたの?」

「ううん、ちょっとね。明日、学校に持っていきたくて」

驚く母さんの声を背中で受け止めながら、僕は写真をそっとポケットにしまい込んだ。
明日、学校で太陽と織原さんに見せる。
もし、僕のこの直感が正しいのだとしたら・・・止まったままの彼女の時間を動かす鍵は、すでに僕の手の中にあったんだ――。