【短】もう夏休みが終わるから




 幸太の家に到着した頃には日はほとんど沈みきっていて、あたりは暗くなってきていた。空気が昼と比べて冷たい。

 涼がゆっくりと自転車を止めると、幸太は荷台から降りた。


「涼ちゃん、また明日な」


 しかし涼は自転車を発進させようとはしない。反対に自転車から降りて、リュックを背負った。


「……涼ちゃん?」

「今日はこのまま幸太ん家泊まる。筆箱もまだ返してない」


 幸太はぴたりと固まって動かなくなった。


「……え」

「ダメだったか」

「そうじゃないけど」

「じゃあ、単純に嫌だったか」

「それはもっとないし!」


 幸太は否定した。くるりと後ろを向いたかと思えば振り返り、


「涼ちゃん、それって俺へのプレゼント……?」

「クイズだ」


 脈絡のない発言に、幸太は面食らった。涼は三本指を立てて、幸太に見せた。


「ヒント1。俺にとってはここも思い出の場所だ」

「いっぱい遊んだから?」

「そうだが、今回はそういう意味じゃない。ヒント2。俺たちはまだやるべきことが終わってない」


 一本ずつ指を折っていきながら、涼はヒントを出す。


「ヒント3。毎年この時期といえば」

「この時期?」


 幸太は腕を組んで、一番星が瞬く空を見上げた。たっぷりと時間をかけて悩んで、勢いよく顔を上げる。


「あっ!」

「分かったか」

「宿題! 終わってねぇぇぇ!」

「幸ちゃん、なに騒いでんの!」


 突然ドアが開いて、幸太の母が顔を出す。幸太だけではなく涼がいるのに気付いてから、『早く入んなさい』と声をかけた。


「うわー……忘れてた。マジで忘れてた。思い出したくなかった。――もしかして、そのためのリュック?」

「ああ。宿題とかもろもろ持ってきた」

「せっかくの青春が……勉強は待ってくれない……」

「幸太、終わったらなんかしよう。なんなら、俺が幸太といたいだけだから、宿題はやらなくていい」

「よっしゃ! ……でもなぁ……俺、先入ってるわ」


 ふらふらと幸太が家に入っていった。その後ろ姿に、涼は笑いをこぼす。