【短】もう夏休みが終わるから




「なあ、涼ちゃんのそのおっきいリュック、なに入ってんの? 思い出巡りで必要なやつ?」

「あー……終わったあとに必要なやつだ。そのうち分かる」

「え、教えてくれないの?」

「逆に幸太は少なすぎないか、荷物」

「補習は筆箱あれば十分じゃん! ていうか、涼ちゃん、一旦ストップ!」


 靴を履き替え、涼が自転車置き場へ向かおうとしたところで、幸太が涼を引き止めた。


「俺、徒歩なんだけど!」

「知ってる」

「涼ちゃんは自転車だろ?」

「ああ」

「てことは俺、自転車の後ろを走って追いかけることに……!?」

「いや、そうじゃなくていい。二人乗りするから、幸太は後ろ」


 歩き出した涼を、幸太が追った。幸太はスキップしながら涼に並ぶ。


「涼ちゃん涼ちゃん、これって俺へのプレゼントだよな!」

「…………」


 涼は顔を逸らす。


「え?」

「……少なくとも、そういうつもりじゃなかった。喜ぶのは勝手にしろ」

「よっしゃあ!」


 涼は喜びだした幸太を見てから小さくため息をついた。


「とりあえず筆箱くれ。リュックに入れる」

「うっす!」


 自転車置き場に到着し、涼はリュックをかごに入れて自転車のチェーンを外した。

 軽く制服のワイシャツの袖をまくる。広い場所に移動させてから自転車にまたがって、その後ろ、荷台に幸太が乗った。


「いいか」

「オールオッケー! レッツゴー!」


 涼がペダルに足をかける。踏み込むと、自転車は勢いよく走り出した。


「ちょっ、速っ! 涼ちゃん、速すぎ!」

「そうか? 補習続きで体力が有り余ってるだけだが」


 学校を飛び出して、大きな道路に出る。そのまま歩道を駆け抜けて、ひたすら真っすぐ走っていく。


「涼ちゃん止まって! この先めっちゃ下り坂――」

「そうだな」

「止まんないし!」


 下り坂に減速することなく差し掛かる。ほぼノーブレーキの自転車の速度は落ちるどころかむしろどんどん上がっていった。

 景色が流れていき、遠くにあった町並みがみるみる大きくなっていく。

 体は自転車から浮くように前へ押し出される。


「いやこれ死ぬって! 吹っ飛ぶって! もっとブレーキ!」

「死なない。俺につかまってろ」


 幸太はぎゅっと涼の背中にしがみつく。

 しばらくして長い長い坂を下り終えたあとも、ついた勢いはそのままに自転車は走り続けた。幸太は平地を走り出したことで涼から離れていたが、『もっかいつかまってろ』という涼の言葉で再びしがみつく。

 その直後、涼は急ブレーキをかけて後輪をすべらせた。自転車は少しだけ円を描くように回ると、動きを止める。


「あたっ」


 幸太はその反動で涼にぶつかった。涼はそのまま自転車を降りようとしており、幸太は咄嗟に叫ぶ。


「危ねーじゃん! 遠心力で落ちるかと思った! マジで!」

「落ちるようなことは最初からしない。ケガしてないだろ」


 のろのろと自転車を降りながら、幸太は苦言を呈する。


「その代わり、俺の顔面と涼ちゃんの背中が事故ったけどな」

「それは想定外だった」

「ほんと涼ちゃん、まともじゃねーよ……」


 自転車を押す涼についていきながら、幸太は周囲を見回した。