「大丈夫か? 涼!」
「うん、ああ……」
「どっか、切ったのか? 血が出てるけど……」
「足と……腕……」
血が、ダラダラ流れてるせいか、なんか、意識がもうろうとしてくる。
「涼! クソッ! 俺も、腕ケガしたみたいで、力が入んねぇ……」
正夢がバイクを起こそうとしてるのが、ぼんやりと目に入る。
そういえば、俺の足が片方、バイクの下敷きになってるらしかった。
感覚がなくて、不思議と痛みも感じないんで、なんか他人の足がはさまってるような感じだったけど。
「どうすればいんだよ……っ!」
正夢が口にして、うろうろと俺のまわりを歩き回る。
「いいって。あおったのは俺だし、おまえが、気にすんなよ」
「何が、気にすんなだよっ……!」
正夢が、イラ立ったような声をあげた時、
峠を下ってきた四輪のヘッドライトが、ふいに俺たちを照らし出した。
まぶしさに目をそらしてる間に、通り過ぎるかと思ったワゴンは、
少し先で路肩に寄って止まり、クルマの中から、
俺たちとおんなじくらいのヤツが出てきた。
「事故ったんですか?」
そいつは、そう声をかけてきて、正夢が「ああ……」と、短く答えた。
もしかしたら冷やかしのヤジウマかもわかんないんだし、正夢は警戒してるらしかった。
だいたい、そいつが下りてきたワゴン車からは、けっこうデカイ音で音楽が鳴り響いてて、他に乗ってるだろうオンナたちのしゃべる声も、やかましいくらいに聞こえてきてたし。
助けてくれるとか、そんな雰囲気にはパッと見、思えなかったんで。
「ケガ、してるんですか?」
そいつが、俺を見下ろす。
「ああ……」と、俺も正夢と同じように一言だけを返す。
「病院、つれて行きますんで、乗ってください」
「えっ……」
と、正夢がそいつの言葉に驚く。
「でも、おまえのクルマ……先客がいるだろ?」
正夢が、オンナのしゃべり声が聞こえるワゴンを、チラリと振り返る。
「ああ、あれならさっきナンパしたばっかだし。ちょっとドライブでも行こうかとか思ってただけなんで、なんなら、下ろしますし」
「でも……」
と、とまどう正夢を尻目に、
「俺、オンナらに話してくるんで」
そいつは言い、クルマに戻っていった。
エンジンが切られ、音楽も止むと、オンナたちが、ぶつぶつ言いながら下りてきた。
「何よ。乗れって言ったくせに!」
「こんなとこで下ろされても、困るんだけど」
「ドライブに行くんじゃないわけ?」
オンナたちは3人いて、俺たちの姿を見つけると、あからさまにイヤそうな顔をした。
そうして、俺らの方を見ると、
「うわっ、ヤバ。血だらけじゃん」
ひとりが言い、
「こんなヤバイのにかまってないで、ドライブの続きしようよ?」
と、もうひとりが口にした。
「……うるせぇよ」
そいつが、低い声でぼそりと言い返す。
「え、なんて?」
残ったひとりが、聞き返した。
「うるせぇって言ったんだよ。帰れよ」
「帰れって、何よ!」
「今からこいつら病院につれてくんだから、帰れよ!」
怒鳴るような声に、オンナたちは一瞬ひるんで黙り込むと、
「……バッカみたい……」
それから、そう捨てゼリフを吐いて、こちらを振り返りもしないで歩き去って行った。
「悪かったな……」
と、そいつが笑顔を浮かべて見せる。
「ああ……うん、でも、いいのかよ……あれ」
正夢が気まずそうにオンナたちを指差す。
「いいって。国道もこっからだったらすぐだし。アイツラだって3人もいれば、心配ないだろ」
まだ気にして、浮かない顔をしてる正夢を助手席に押し込めて、そいつはバイクを起こすと、俺の体を引っ張り上げ、後部座席に寝かせてくれた。
破損したバイクまで、ワゴンの後ろに、はぁはぁいいながら汗だくになって積んでくれた。
正夢が手伝うって言うのにも、
「おまえもケガしてるからいいって」
と、手を出させなかった。
正夢が、「悪い……ここまでしてもらって」と、頭を下げる。
「いいって。俺も、このクルマ、オヤジのを無断で拝借してんだし」
「無断でって、おまえ……まさか、無免とかじゃないよな?」
探るような正夢の言葉に、そいつはニヤリと笑った。
「免許はあるって。ただし、仮免だけどな」
「仮免って……NGだろ、それも」
「わかってるって」と、そいつが答える。
「ホントはさ、免許持ってるオヤジが同乗してたらOKなんだけどさ。ちょっとひとりで乗ってみたくて、オヤジのクルマ乗り盗んだ」
舌をペロッと出してみるそいつに、
「おいおい……大丈夫なのかよ?」
と、正夢があきれたように言う。
「だいじょぶだって。まぁ俺が、これからオヤジに怒られるだけだし。ああ、それとオヤジ医者だからさ、これからオヤジのとこ行くからな」
「あっ、ああ、うん……」
正夢はとまどいを隠せないみたいで、しばらく沈黙が続いた。
「……ところで、おまえ、名前なんていうんだよ? あと、歳って……俺らは17だけど、もしかして、同じくらいか?」
クルマが走り出すと、正夢がそう問いかけた。
「俺? 俺は、榊 政嗣(さかき まさつぐ)18な。17ってことは、おまえら高3だろ? だったらタメだ。俺は、早生まれだけどな。それと、榊医院ってあるだろ。あそこが、俺んちだから」
そう名乗ったその男が、早口にまくしたてた。
「そっか……あいさつがあとになって悪いな。俺は、正夢……春武 正夢……。そっちは、涼だ。佐倉 涼」
「わかった。もうあんましゃべんなくていいから、少し休んどけや」
クルマはしばらく走ると目的地に着いたみたいで、
「ちょっと、待ってろな」
と、政嗣が先に降りていった。
少しして戻ってきた時には、オヤジさんといっしょで、
「おまえは、まったく……何してんだよ!」
と、小突かれてた。
「めちゃくちゃ怒られた~」
マサツグは、助手席に顔つっ込んで笑って言うと、
軽傷の正夢を先に中へつれて行った。
起き上がれない俺は、担架に乗せられて奥に運ばれた──。
「うん、ああ……」
「どっか、切ったのか? 血が出てるけど……」
「足と……腕……」
血が、ダラダラ流れてるせいか、なんか、意識がもうろうとしてくる。
「涼! クソッ! 俺も、腕ケガしたみたいで、力が入んねぇ……」
正夢がバイクを起こそうとしてるのが、ぼんやりと目に入る。
そういえば、俺の足が片方、バイクの下敷きになってるらしかった。
感覚がなくて、不思議と痛みも感じないんで、なんか他人の足がはさまってるような感じだったけど。
「どうすればいんだよ……っ!」
正夢が口にして、うろうろと俺のまわりを歩き回る。
「いいって。あおったのは俺だし、おまえが、気にすんなよ」
「何が、気にすんなだよっ……!」
正夢が、イラ立ったような声をあげた時、
峠を下ってきた四輪のヘッドライトが、ふいに俺たちを照らし出した。
まぶしさに目をそらしてる間に、通り過ぎるかと思ったワゴンは、
少し先で路肩に寄って止まり、クルマの中から、
俺たちとおんなじくらいのヤツが出てきた。
「事故ったんですか?」
そいつは、そう声をかけてきて、正夢が「ああ……」と、短く答えた。
もしかしたら冷やかしのヤジウマかもわかんないんだし、正夢は警戒してるらしかった。
だいたい、そいつが下りてきたワゴン車からは、けっこうデカイ音で音楽が鳴り響いてて、他に乗ってるだろうオンナたちのしゃべる声も、やかましいくらいに聞こえてきてたし。
助けてくれるとか、そんな雰囲気にはパッと見、思えなかったんで。
「ケガ、してるんですか?」
そいつが、俺を見下ろす。
「ああ……」と、俺も正夢と同じように一言だけを返す。
「病院、つれて行きますんで、乗ってください」
「えっ……」
と、正夢がそいつの言葉に驚く。
「でも、おまえのクルマ……先客がいるだろ?」
正夢が、オンナのしゃべり声が聞こえるワゴンを、チラリと振り返る。
「ああ、あれならさっきナンパしたばっかだし。ちょっとドライブでも行こうかとか思ってただけなんで、なんなら、下ろしますし」
「でも……」
と、とまどう正夢を尻目に、
「俺、オンナらに話してくるんで」
そいつは言い、クルマに戻っていった。
エンジンが切られ、音楽も止むと、オンナたちが、ぶつぶつ言いながら下りてきた。
「何よ。乗れって言ったくせに!」
「こんなとこで下ろされても、困るんだけど」
「ドライブに行くんじゃないわけ?」
オンナたちは3人いて、俺たちの姿を見つけると、あからさまにイヤそうな顔をした。
そうして、俺らの方を見ると、
「うわっ、ヤバ。血だらけじゃん」
ひとりが言い、
「こんなヤバイのにかまってないで、ドライブの続きしようよ?」
と、もうひとりが口にした。
「……うるせぇよ」
そいつが、低い声でぼそりと言い返す。
「え、なんて?」
残ったひとりが、聞き返した。
「うるせぇって言ったんだよ。帰れよ」
「帰れって、何よ!」
「今からこいつら病院につれてくんだから、帰れよ!」
怒鳴るような声に、オンナたちは一瞬ひるんで黙り込むと、
「……バッカみたい……」
それから、そう捨てゼリフを吐いて、こちらを振り返りもしないで歩き去って行った。
「悪かったな……」
と、そいつが笑顔を浮かべて見せる。
「ああ……うん、でも、いいのかよ……あれ」
正夢が気まずそうにオンナたちを指差す。
「いいって。国道もこっからだったらすぐだし。アイツラだって3人もいれば、心配ないだろ」
まだ気にして、浮かない顔をしてる正夢を助手席に押し込めて、そいつはバイクを起こすと、俺の体を引っ張り上げ、後部座席に寝かせてくれた。
破損したバイクまで、ワゴンの後ろに、はぁはぁいいながら汗だくになって積んでくれた。
正夢が手伝うって言うのにも、
「おまえもケガしてるからいいって」
と、手を出させなかった。
正夢が、「悪い……ここまでしてもらって」と、頭を下げる。
「いいって。俺も、このクルマ、オヤジのを無断で拝借してんだし」
「無断でって、おまえ……まさか、無免とかじゃないよな?」
探るような正夢の言葉に、そいつはニヤリと笑った。
「免許はあるって。ただし、仮免だけどな」
「仮免って……NGだろ、それも」
「わかってるって」と、そいつが答える。
「ホントはさ、免許持ってるオヤジが同乗してたらOKなんだけどさ。ちょっとひとりで乗ってみたくて、オヤジのクルマ乗り盗んだ」
舌をペロッと出してみるそいつに、
「おいおい……大丈夫なのかよ?」
と、正夢があきれたように言う。
「だいじょぶだって。まぁ俺が、これからオヤジに怒られるだけだし。ああ、それとオヤジ医者だからさ、これからオヤジのとこ行くからな」
「あっ、ああ、うん……」
正夢はとまどいを隠せないみたいで、しばらく沈黙が続いた。
「……ところで、おまえ、名前なんていうんだよ? あと、歳って……俺らは17だけど、もしかして、同じくらいか?」
クルマが走り出すと、正夢がそう問いかけた。
「俺? 俺は、榊 政嗣(さかき まさつぐ)18な。17ってことは、おまえら高3だろ? だったらタメだ。俺は、早生まれだけどな。それと、榊医院ってあるだろ。あそこが、俺んちだから」
そう名乗ったその男が、早口にまくしたてた。
「そっか……あいさつがあとになって悪いな。俺は、正夢……春武 正夢……。そっちは、涼だ。佐倉 涼」
「わかった。もうあんましゃべんなくていいから、少し休んどけや」
クルマはしばらく走ると目的地に着いたみたいで、
「ちょっと、待ってろな」
と、政嗣が先に降りていった。
少しして戻ってきた時には、オヤジさんといっしょで、
「おまえは、まったく……何してんだよ!」
と、小突かれてた。
「めちゃくちゃ怒られた~」
マサツグは、助手席に顔つっ込んで笑って言うと、
軽傷の正夢を先に中へつれて行った。
起き上がれない俺は、担架に乗せられて奥に運ばれた──。

