17歳の、刹那。

「大丈夫か? 涼!」

「うん、ああ……」

「どっか、切ったのか? 血が出てるけど……」

「足と……腕……」

血が、ダラダラ流れてるせいか、なんか、意識がもうろうとしてくる。

「涼! クソッ! 俺も、腕ケガしたみたいで、力が入んねぇ……」

正夢がバイクを起こそうとしてるのが、ぼんやりと目に入る。

そういえば、俺の足が片方、バイクの下敷きになってるらしかった。

感覚がなくて、不思議と痛みも感じないんで、なんか他人の足がはさまってるような感じだったけど。

「どうすればいんだよ……っ!」

正夢が口にして、うろうろと俺のまわりを歩き回る。


「いいって。あおったのは俺だし、おまえが、気にすんなよ」

「何が、気にすんなだよっ……!」

正夢が、イラ立ったような声をあげた時、

峠を下ってきた四輪のヘッドライトが、ふいに俺たちを照らし出した。

まぶしさに目をそらしてる間に、通り過ぎるかと思ったワゴンは、

少し先で路肩に寄って止まり、クルマの中から、

俺たちとおんなじくらいのヤツが出てきた。

「事故ったんですか?」

そいつは、そう声をかけてきて、正夢が「ああ……」と、短く答えた。

もしかしたら冷やかしのヤジウマかもわかんないんだし、正夢は警戒してるらしかった。

だいたい、そいつが下りてきたワゴン車からは、けっこうデカイ音で音楽が鳴り響いてて、他に乗ってるだろうオンナたちのしゃべる声も、やかましいくらいに聞こえてきてたし。

助けてくれるとか、そんな雰囲気にはパッと見、思えなかったんで。

「ケガ、してるんですか?」

そいつが、俺を見下ろす。

「ああ……」と、俺も正夢と同じように一言だけを返す。

「病院、つれて行きますんで、乗ってください」

「えっ……」

と、正夢がそいつの言葉に驚く。

「でも、おまえのクルマ……先客がいるだろ?」

正夢が、オンナのしゃべり声が聞こえるワゴンを、チラリと振り返る。

「ああ、あれならさっきナンパしたばっかだし。ちょっとドライブでも行こうかとか思ってただけなんで、なんなら、下ろしますし」


「でも……」

と、とまどう正夢を尻目に、

「俺、オンナらに話してくるんで」

そいつは言い、クルマに戻っていった。

エンジンが切られ、音楽も止むと、オンナたちが、ぶつぶつ言いながら下りてきた。


「何よ。乗れって言ったくせに!」

「こんなとこで下ろされても、困るんだけど」

「ドライブに行くんじゃないわけ?」


オンナたちは3人いて、俺たちの姿を見つけると、あからさまにイヤそうな顔をした。

そうして、俺らの方を見ると、


「うわっ、ヤバ。血だらけじゃん」

ひとりが言い、

「こんなヤバイのにかまってないで、ドライブの続きしようよ?」

と、もうひとりが口にした。

「……うるせぇよ」

そいつが、低い声でぼそりと言い返す。

「え、なんて?」

残ったひとりが、聞き返した。

「うるせぇって言ったんだよ。帰れよ」

「帰れって、何よ!」

「今からこいつら病院につれてくんだから、帰れよ!」

怒鳴るような声に、オンナたちは一瞬ひるんで黙り込むと、

「……バッカみたい……」

それから、そう捨てゼリフを吐いて、こちらを振り返りもしないで歩き去って行った。


「悪かったな……」

と、そいつが笑顔を浮かべて見せる。

「ああ……うん、でも、いいのかよ……あれ」

正夢が気まずそうにオンナたちを指差す。

「いいって。国道もこっからだったらすぐだし。アイツラだって3人もいれば、心配ないだろ」

まだ気にして、浮かない顔をしてる正夢を助手席に押し込めて、そいつはバイクを起こすと、俺の体を引っ張り上げ、後部座席に寝かせてくれた。

破損したバイクまで、ワゴンの後ろに、はぁはぁいいながら汗だくになって積んでくれた。

正夢が手伝うって言うのにも、

「おまえもケガしてるからいいって」

と、手を出させなかった。

正夢が、「悪い……ここまでしてもらって」と、頭を下げる。

「いいって。俺も、このクルマ、オヤジのを無断で拝借してんだし」

「無断でって、おまえ……まさか、無免とかじゃないよな?」

探るような正夢の言葉に、そいつはニヤリと笑った。

「免許はあるって。ただし、仮免だけどな」

「仮免って……NGだろ、それも」

「わかってるって」と、そいつが答える。

「ホントはさ、免許持ってるオヤジが同乗してたらOKなんだけどさ。ちょっとひとりで乗ってみたくて、オヤジのクルマ乗り盗んだ」

舌をペロッと出してみるそいつに、

「おいおい……大丈夫なのかよ?」

と、正夢があきれたように言う。


「だいじょぶだって。まぁ俺が、これからオヤジに怒られるだけだし。ああ、それとオヤジ医者だからさ、これからオヤジのとこ行くからな」

「あっ、ああ、うん……」

正夢はとまどいを隠せないみたいで、しばらく沈黙が続いた。


「……ところで、おまえ、名前なんていうんだよ? あと、歳って……俺らは17だけど、もしかして、同じくらいか?」

クルマが走り出すと、正夢がそう問いかけた。

「俺? 俺は、榊 政嗣(さかき まさつぐ)18な。17ってことは、おまえら高3だろ? だったらタメだ。俺は、早生まれだけどな。それと、榊医院ってあるだろ。あそこが、俺んちだから」

そう名乗ったその男が、早口にまくしたてた。

「そっか……あいさつがあとになって悪いな。俺は、正夢……春武 正夢……。そっちは、涼だ。佐倉 涼」

「わかった。もうあんましゃべんなくていいから、少し休んどけや」


クルマはしばらく走ると目的地に着いたみたいで、

「ちょっと、待ってろな」

と、政嗣が先に降りていった。

少しして戻ってきた時には、オヤジさんといっしょで、

「おまえは、まったく……何してんだよ!」

と、小突かれてた。

「めちゃくちゃ怒られた~」

マサツグは、助手席に顔つっ込んで笑って言うと、

軽傷の正夢を先に中へつれて行った。

起き上がれない俺は、担架に乗せられて奥に運ばれた──。