──結婚式の当日、うちの両親は渋々ながらも出席をした。
小さな教会で挙式だけの、出席者は俺と父親と母親、
そして向こうの親だけという、ごくシンプルなものだった。
本当なら、どこぞのエリートとでも姉には結婚してもらって、盛大に披露宴でもと考えてただろう、うちの親たちは、相変わらず苦い顔をしていた。
「姉ちゃん……」
俺は、そんな両親から離れて、メイクをしている姉貴の元を訪れた。
「涼……来てくれて、ありがとうね」
姉貴はそう言って、俺に笑顔を向けた。
その笑顔に、なんだか涙がこみ上げるような思いを感じた。
「姉ちゃん……」
俺はもう一度呼んで、ウェディングドレスを着た姉貴のそばへ寄った。
「どうしたの……?」
訊かれて、だけど俺は、「わからない」と、首を横に振ることしかできなかった。
人前で、泣いたことなんてなかったのに。
涙がこぼれてきて、ふとほっぺたを流れた。
「涼……いらっしゃい」
と、姉貴が手招きをする。
メイクさんに、「少し待ってください」と言うと、姉貴は裾の大きく広がった白いドレスの膝の上へ、俺の頭をそっともたせかけた。
「涼……涼も、幸せになってね。いつかきっと、本当に愛するひとが見つかるはずだから……」
「本当に、愛するひと……?」
「そうよ。ただひとりだけの、本当に愛せるひと……」
姉の言葉が、胸に不思議と胸にしみ込んでいくように感じた。
本当に、愛することのできる……
愛せるひとを、俺はいつか見つけられるんだろうか……
ただひとつの愛をつかみ取った、姉貴みたいに……
結婚を祝う鐘の音が響いている。
こんな風に、俺もいつか誰かと……
誰かと幸せになりたいと、
そんな風に思ったのは、生まれて初めてだった……。
たったひとりの誰かが、俺の隣に並んだときには、
今日みたいに、また泣けたりもするんだろうか……。
泣いたら、あいつ笑うだろうな……正夢。
正夢の笑い顔を思い出したら、なんか笑けてくるみたいだった。
なぁ正夢、わからないことはわからないまんまでも、いいのかもしれないよな……。
この先のことなんて、俺にも、おまえにも……誰にもまだわからないんだし。
わからないなら、わからないなりに生きてくことも、アリなのかもな……。
そうして、いつか、俺が本気で愛せる女を見つけた時には、
真っ先におまえに紹介するからさ……だから、俺たちの約束だぜ?
それまで、約束忘れんなよ、正夢……。
――正夢と約束を交わしたあの日と同じ夕日が、ビルの陰に落ちようとしてる。
マスターに、政嗣に、姉貴に、そして正夢に……、
俺のまわりには、たくさんの人たちがいて、今も、この一瞬、一瞬を生きてる……。
このひとときを、ただこの刹那を重ねて……俺は、これからも生きてく。
ただ、この刹那を……。
-END-

