17歳の、刹那。


──結婚式の当日、うちの両親は渋々ながらも出席をした。

小さな教会で挙式だけの、出席者は俺と父親と母親、

そして向こうの親だけという、ごくシンプルなものだった。

本当なら、どこぞのエリートとでも姉には結婚してもらって、盛大に披露宴でもと考えてただろう、うちの親たちは、相変わらず苦い顔をしていた。

「姉ちゃん……」

俺は、そんな両親から離れて、メイクをしている姉貴の元を訪れた。

「涼……来てくれて、ありがとうね」

姉貴はそう言って、俺に笑顔を向けた。

その笑顔に、なんだか涙がこみ上げるような思いを感じた。

「姉ちゃん……」

俺はもう一度呼んで、ウェディングドレスを着た姉貴のそばへ寄った。

「どうしたの……?」

訊かれて、だけど俺は、「わからない」と、首を横に振ることしかできなかった。

人前で、泣いたことなんてなかったのに。

涙がこぼれてきて、ふとほっぺたを流れた。

「涼……いらっしゃい」

と、姉貴が手招きをする。

メイクさんに、「少し待ってください」と言うと、姉貴は裾の大きく広がった白いドレスの膝の上へ、俺の頭をそっともたせかけた。


「涼……涼も、幸せになってね。いつかきっと、本当に愛するひとが見つかるはずだから……」

「本当に、愛するひと……?」

「そうよ。ただひとりだけの、本当に愛せるひと……」

姉の言葉が、胸に不思議と胸にしみ込んでいくように感じた。



本当に、愛することのできる……

愛せるひとを、俺はいつか見つけられるんだろうか……


ただひとつの愛をつかみ取った、姉貴みたいに……



結婚を祝う鐘の音が響いている。


こんな風に、俺もいつか誰かと……

誰かと幸せになりたいと、

そんな風に思ったのは、生まれて初めてだった……。


たったひとりの誰かが、俺の隣に並んだときには、

今日みたいに、また泣けたりもするんだろうか……。

泣いたら、あいつ笑うだろうな……正夢。

正夢の笑い顔を思い出したら、なんか笑けてくるみたいだった。


なぁ正夢、わからないことはわからないまんまでも、いいのかもしれないよな……。

この先のことなんて、俺にも、おまえにも……誰にもまだわからないんだし。

わからないなら、わからないなりに生きてくことも、アリなのかもな……。


そうして、いつか、俺が本気で愛せる女を見つけた時には、

真っ先におまえに紹介するからさ……だから、俺たちの約束だぜ? 

それまで、約束忘れんなよ、正夢……。


――正夢と約束を交わしたあの日と同じ夕日が、ビルの陰に落ちようとしてる。


マスターに、政嗣に、姉貴に、そして正夢に……、

俺のまわりには、たくさんの人たちがいて、今も、この一瞬、一瞬を生きてる……。

このひとときを、ただこの刹那を重ねて……俺は、これからも生きてく。

ただ、この刹那を……。




-END-