17歳の、刹那。

「…なぁ、正夢。うちの姉貴、結婚すんだってよ」

「結婚? 本当かよ?」

自販機で買ったコーラを手に、「ああ」と、うなづいて返す。

「どうしても好きなひとがいるとかってさ、あのマジメだとばっか思ってた姉貴が、学生結婚だぜ?」

「でも、おまえの姉ちゃん、病院で会ったけど、すごくいい人だったぜ」

正夢が、コーラの缶をプシュッと開ける。

「……そうだっけか? でさぁー、今度結婚式とか挙げんだって……おかしいよな……」

炭酸をごくっと喉に流し込む。

「おかしかねぇだろうが」

「そうか? なんかな……姉ちゃんなんて、昔から俺と比べられるばっかりの、デキのいい奴ぐらいしにしか思ってなかったのに、学生結婚とかさ、どうかしてるんじゃねぇかって……」

思ってるままを、正夢に話して聞かせた。

「……それだけ、相手の男のことが好きだったんだろ……。姉ちゃん、いいひとだよ……やっぱり」

正夢が、ポツッと呟く。



「うん……なぁ、正夢?」

「なんだよ?」

「いつか……俺たちも、結婚とかするんかな?」

「するだろう……いつかは」

「そっか……」


俺たちは、バイト先のガソリンスタンドの壁に寄りかかって、ぼんやりと夕暮れの街をながめていた。

「……正夢、おまえがいつか結婚するときは、絶対に、俺に一番に言えよな?」

「あたりまえだろ」

と、正夢が即答する。

「おまえだって、俺に一番に言えよな? おまえが結婚するときには」

正夢から問い返されて、

「ああ……絶対、一番に言う」

俺も、すぐにそう返した。


街の向こうの、高いビルとビルの間に、夕日が沈もうとしていた。


「けどさ……おまえが、そんな風に結婚とか考えるなんてな、正直よかったって思ってるんだぜ……」

正夢が、ぼそりと言う。

「なんだよ、それぇ」

「おまえのこと、心配してたんだぜ、ずっと」

言いながら正夢が、俺の肩に片腕をまわしてくる。

「……ンだよ、心配とか、まだ言うかって……」

「……けどさぁ、ホント涼は、真剣な恋とかできるのかってさ……」

「ふん……まぁ、そのうちするんじゃん」

と、俺は軽口をたたく。


「そんなの、真剣な恋とか、急にわかるもんでもないだろ……ただ、さ……」

言葉を切って、俺は缶コーラを一気飲みした。


「ただ、本当に好きな女ができたら、正夢には一番に報告するし。それは、約束な」


「ああ、俺も、約束するから……」

正夢が、俺の顔をまっすぐに見つめる。

「だから、涼も、忘れんなよ?」

ビルの隙間の夕日は、もう見えなくなりかけていた。

「忘れねぇよ……」

そう口にして、俺は『この夕日に誓っても』なんて、ガラにもなく思っていた……。