――それは、俺と正夢、政嗣の3人で、マスターんとこに、なんとなくたむろってたときのことだった。
急に、俺のスマホが震えた。
誰からだよと画面を見れば、発信相手は、「実家」──。
連絡先は家を出るときに、便宜上教えただけで、実際かかってきたことなんか、今まで一度もなかった。
初の実家からの着信を見やり、
出るかどうかをしばらく迷ったあと、
俺は、通話ボタンをタップして、「もしもし……」と、電話に出た。
「……涼?」
そう尋ねてきたのは、どうやら姉貴の声らしかった。
「……なんだよ、どうかしたのか?」
あのいい子ちゃんな姉貴が、俺なんかになんの用だよと思う。
「ちょっと、明日にでも家に帰ってきてくれない?」
電話の向こうで訴えかけるみたいに、姉貴が言う。
「どうして、俺が、家になんて……」
「話があって……それで、涼にもいてほしいのよ」
「なんの話だよ……。俺には、カンケーねぇだろうが」
家のことなんて、俺には関係ない……これまでずっと、カヤの外だったんだし……。
「関係あるの。……お父さんもお母さんも、すごく怒っちゃって、全然話ができない状態なのよ……だから、涼に帰ってきてほしいの」
「怒って……って、何にだよ?」
いつも両親には自慢だったはずの姉が、怒られるなんて、あまり想像もつかなかった。
少しの間、無言でいたあと、姉は思い切ったように一言、
「私ね、結婚するの」
と、告げた。
「えっ、ケッコン!?」
思わず声がでかくなって、正夢と政嗣が、一瞬こっちに顔を向けた。
「そう……私、好きなひとができてね……」
「好きなひとって、だって姉貴まだ大学生だろ?」
って、ナニ常識的なこと言ってんだよ、俺は。
姉貴からの突然の話に、どうも俺の思考回路は軽く混乱してるっぽい。
「うん……でも、もう結婚はできる歳だし。それにね、早くそのひとといっしょになりたくて……」
ポツポツと姉貴が胸の内を語る。
「早くって……姉貴がそんなこと言うなんて、思ってもなかったし……」
「そう、涼だって、急で驚くわよね? だけど私も、なんでこんなに好きなんだろうって、とっても驚いてるんだけど……。でも、もう気もちを止められなくて……」
姉貴の告白は、すごく不思議なことのように思えた。
あの超マジメだとばかり思ってた姉が、こんな風に恋愛に熱くなるなんて、俺自身にも信じられなかった。
「……ねぇ、涼、聞いてる?それでね……結婚したいって言ったら、お父さんとお母さんが、すごく怒っちゃって……」
「……ああ、そうだろうな……」
俺なんかよりずっとデキのいい姉の将来を、思いっきり期待してただろう父親と母親は、
こんな形での結婚なんて、確かに許すわけがないだろうな。
「……だから、涼にも説得してほしくて……」
「説得?」
あの両親が、俺の説得なんて聞くはずもないと思った。
けど、どうしてだか、
今までいつも比べられるだけで、越えられないと思ってた姉が、
親からひいきされてばっかで、憎たらしいとまで感じてた姉が、
実は、俺とあんまり変わりがないのかもしれないとも思えて、
なんか妙にうれしかったっていうか、ちょっと感動するみたいで、
気づいたら、俺は、説得の話にOKの返事をしていた──。

