17歳の、刹那。


――それは、俺と正夢、政嗣の3人で、マスターんとこに、なんとなくたむろってたときのことだった。

急に、俺のスマホが震えた。

誰からだよと画面を見れば、発信相手は、「実家」──。

連絡先は家を出るときに、便宜上教えただけで、実際かかってきたことなんか、今まで一度もなかった。

初の実家からの着信を見やり、

出るかどうかをしばらく迷ったあと、

俺は、通話ボタンをタップして、「もしもし……」と、電話に出た。


「……涼?」

そう尋ねてきたのは、どうやら姉貴の声らしかった。

「……なんだよ、どうかしたのか?」

あのいい子ちゃんな姉貴が、俺なんかになんの用だよと思う。

「ちょっと、明日にでも家に帰ってきてくれない?」

電話の向こうで訴えかけるみたいに、姉貴が言う。

「どうして、俺が、家になんて……」

「話があって……それで、涼にもいてほしいのよ」

「なんの話だよ……。俺には、カンケーねぇだろうが」

家のことなんて、俺には関係ない……これまでずっと、カヤの外だったんだし……。

「関係あるの。……お父さんもお母さんも、すごく怒っちゃって、全然話ができない状態なのよ……だから、涼に帰ってきてほしいの」

「怒って……って、何にだよ?」

いつも両親には自慢だったはずの姉が、怒られるなんて、あまり想像もつかなかった。

少しの間、無言でいたあと、姉は思い切ったように一言、

「私ね、結婚するの」

と、告げた。


「えっ、ケッコン!?」

思わず声がでかくなって、正夢と政嗣が、一瞬こっちに顔を向けた。

「そう……私、好きなひとができてね……」

「好きなひとって、だって姉貴まだ大学生だろ?」

って、ナニ常識的なこと言ってんだよ、俺は。


姉貴からの突然の話に、どうも俺の思考回路は軽く混乱してるっぽい。

「うん……でも、もう結婚はできる歳だし。それにね、早くそのひとといっしょになりたくて……」

ポツポツと姉貴が胸の内を語る。

「早くって……姉貴がそんなこと言うなんて、思ってもなかったし……」

「そう、涼だって、急で驚くわよね? だけど私も、なんでこんなに好きなんだろうって、とっても驚いてるんだけど……。でも、もう気もちを止められなくて……」

姉貴の告白は、すごく不思議なことのように思えた。

あの超マジメだとばかり思ってた姉が、こんな風に恋愛に熱くなるなんて、俺自身にも信じられなかった。



「……ねぇ、涼、聞いてる?それでね……結婚したいって言ったら、お父さんとお母さんが、すごく怒っちゃって……」

「……ああ、そうだろうな……」

俺なんかよりずっとデキのいい姉の将来を、思いっきり期待してただろう父親と母親は、

こんな形での結婚なんて、確かに許すわけがないだろうな。


「……だから、涼にも説得してほしくて……」

「説得?」

あの両親が、俺の説得なんて聞くはずもないと思った。


けど、どうしてだか、

今までいつも比べられるだけで、越えられないと思ってた姉が、

親からひいきされてばっかで、憎たらしいとまで感じてた姉が、

実は、俺とあんまり変わりがないのかもしれないとも思えて、

なんか妙にうれしかったっていうか、ちょっと感動するみたいで、

気づいたら、俺は、説得の話にOKの返事をしていた──。