好きな人の、その隣で  〜片想い同盟〜

「起立、気をつけ、礼ありがとうございました。」

(私のせいで何にもSHRやらなかったけど、先生に怒られなくてよかったぁ!)

ほっと安堵の息をついてしまう。

「お前本当幸運だったな。俺が助けてくれなかったらお前今もあそこでないてたぞ?」
助けてくれたのはありがたいが思わずイラッとしてしまう。

(源くんだったら、優しく『大丈夫?』って聞いてくれるのに!なのになんでコイツの方がモテてるのぉぉ!?)

「何?私の花盛りに泥を塗ったのはあなたでしょ!」

勢いで言い返してしまう。翠はそんなことどうでも良くなったのか無視して、伊月の方に歩いて行く。ムカつくが追いかける理由もなくただ虚しくなってしまった。

「しーずくっちゃん!ほらほら、宿泊学習これからなんだから元気出して!校長先生のお話聞きに行かなきゃ。」

宿泊学習8限授業だが、1限を校長の始めの挨拶に使われる。ただ校長は1時間たっぷり使うので、生徒からの不満は大きい。

「仕方ない…!校長のために時間を使ってあげますか〜」

気持ちを切り替えようと、自分に言い聞かせる。

「ふふっ。しずくちゃんたらー」

2人で雑談しながら階段を降りて行く。あと一段で一階に着くというところで、ドンっと誰かがぶつかってくる。

「悪い!俺校長に呼ばれてんだって!」

翠の謝る声が聞こえる。けれど私はそんなことどうでもいいように感じてしまった。

(かっこいい…。)

頭の中のエコー…
スッと伸びた鼻筋、整った目元。サラッとなびく髪から柑橘系の爽やかな香り、食虫植物とネモフィラの風が私の鼻腔をくすぐる。
1、2、3、4、5、秒刻々と体内の秒針がこだまして私の耳に…
心臓の音が早鐘を打つ。逆にリズミカル。
この人の隣は誰なんだろうと考えたり…

「しずくちゃん!そろそろ始まっちゃう時間なんだけど…」

変に妄想付いてる雫の現実が降りかかったりもする。

(何言っってるの私!私が好きなのは源くんでしょう?)

変な妄想しながらも友達には通常運転。

「全然気にしないで〜〜!校長の話ヤダなーって考えてただけだから…」

(自然に返せたー)心の中でガッツポーズをする。(嘘ついてごめん)とは思いつつも。
ただ、親友が変なのを見過ごすわけにはいかなかったらしく、「大丈夫?」と再度声をかけられる。

「平気だってば〜」

ちょっと余裕ぶって答えて見たりする。

「そっか!遅れちゃうから早歩きで行こっか。」

さすがは親友何かを読み取ったかのように、話を変えてくれる。

「去年は遅れて怒られたしねっ!」

昨年の嫌な思い出が込み上げてくる。まあそんな変な思い出も青春。
朱音も思い出したらしく、「あぁ…」とか細い声を出す。
そういうところも朱音らしく絵になっているのだが。

「ほらあれが朱音さんだよ!あぁ2年で可愛いって噂の?可愛い子と隣にいたら衰えちゃうよねー。隣にいる子もまあまあ可愛いのに…」
モヤ。

「ねー」

近くにいる子も賛成の声を上げる。

モヤ。

よく通る声なのか、わざとなのか、私たちのところまで聞こえてくる。
朱音の顔はこちらから見えないが、傷ついているのだろう。
この場にいる親友をこれ以上ここにいさせたくない。

「ほら!」

先頭に立つ。手を引き。
ながら小走り状態で体育館に急ぐ。自然と呼吸が荒くなる。

(こういうことは気にしないそれが私の取り柄でしょう?)

「ごめんね。さっきはありがとう。」

朱音が申し訳なさそうに目を伏せる。それと同時に叫び気味に声をかける。

「あかねはなんも悪くない…!」

ジト。

なぜか私に焦点が当たったように感じる。

…(ここ体育館だったぁー!)

全校生徒の視線が集まるとこのようなものなのか、謎に共感する。

「座ろっか。」

朱音が自然に私を着席へ促す。

(朝にもこのようなことが…)

嫌な記憶は消し去ろうと言うことで
2人同時に静かに着席。校長が、青春を楽しもうやら、部活や体を動かそうなどと意気込みをしている。
どうしても後ろを気にしてしまう。アオイ、イントン。番号が前後なのだ、さっきの柑橘系の匂いがして気が散ってしまう。

「あぁー青春頑張るように!」

低く年老いた声で校長が叫び混じりに言う。校長が言い切った途端、一気に騒がしくなる。五月の少し蒸し暑くなってきた頃、大勢が一気に喋ると5℃も上がったように感じる。
教頭が「解散!」と言い放つとみるみる人がいなくなる。

けれどガーネット色の風は消えようとしたがらない。

教室に戻ってからは、「10時までは部活頑張るように。」と暁美先生が言い渡しそそくさとどこかに行ってしまった。

「今日は陸上部いこっかなー」

ふと独り言を漏らす。

「今日は陸上にするの?」

返事が返ってくるとは思わず、固まってしまう。前にはニコニコ顔の男の子がいた。

(源くんから話かけてくれるなんて。)

不思議としかし自然と心臓が脈打つ。

(今日は神の加護でもついてるのかしら?まぁ髪にローリエ(ギリシャで神(アポロン)と結びついてると言われる)のヘアオイルを付けてるからかなぁ)

「そうする!」

「オッケー!先輩に言っとくな!しばらく葵ちゃん来ないって悲しんでたよ、先輩が」

伊月は雫のことを葵ちゃんって呼ぶ。まあ、雫はたいへん気に入ってるのだが。

(先輩だけじゃなくてあなたにも悲しんで欲しかったんだけどー)

「そうなんだ!でも1時間半ぐらいしたら美術部の方いこっかなー?」

「そっか。」

ちょっと声が落胆して聞こえる。

(もしかして悲しんでくれてるわけ!?)

「おう、2人とも何やってるんだ?」

後ろから声がする。
振り向くと少しにやけた翠の顔がある。

「部活の話してるだけだし!」

それでも何かあるだろと言う考えが翠の顔に書いてある。
(なんか疑われてる?)

「おーお前もくるのか、ずっと何サボってたんだ?」
翠はそのまま話を続ける。
思わず眉間に皺がよる。なるべく伊月のそばでは怒ってる態度をとりたくないのだが、この男とは犬猿の仲と言うものなのだ。

「サボってないし!美術部の方いってただけだから」

なぜか翠の顔が歪む。

「美術部って神ざっいや朱音も入ってるだろ」

ついつい親友の名前が出されこちらまで怪訝な顔になる。

「それがどうしたの⁉︎」

あくまでも普通を装って答えたつもりだった。

「あ、いやいいんだ。気にしなくても」

翠にしては変な妙な顔だった。

「3人揃って辛気臭い顔してどうしたのっ?」

隣にはニコニコと笑っている親友の姿があった。

「しずくちゃんは今日どっち行くの?私は1時間ぐらいは文芸部行くね!」

「じゃあ9時に美術部集合ねー!」

「お二人ともの約束も決まったことだし葵ちゃんいこっか」