Prism★Stars〜女装アイドルは美容男子と恋に落ちる〜

今日は、Prism★Stars三人揃っての仕事の日だった。
都内にある白を基調とした撮影スタジオ。
朝からヘアメイクを済ませた俺たちは、控室で衣装に着替える。

「今日はこちらでお願いしまーす」

スタッフさんから渡された衣装を見て、思わず固まった。

「……水着?」

用意されていたのは、淡いパステルカラーのワンピースタイプの水着。
胸元には大きなリボン、裾には小さなフリルがあしらわれ、腰には透け感のあるパレオを巻くデザインになっている。

「夏特集だからね~。爽やかでかわいい感じを撮りたいんだって。……ルナ、その顔やめなさい。もう何回も女装してるでしょ」
「いや……水着はまた別だろ」

ミウは慣れた様子で衣装を受け取っている。
俺が思わず頬を引きつらせると、レイがくすっと笑った。

「でも露出はそんなに多くないぞ。パレオもあるし」

言われて改めて鏡を見る。
確かに肩や脚は見えるものの、下半身はパレオでふんわりと隠れ、全体的にはリゾートワンピースのような可愛らしい印象だった。

「じゃあ行きまーす!」

カメラマンさんの声が響く。
背景には白い木製フェンスやビーチチェア、ヤシの葉のセット。
まるで南国のリゾートに遊びに来たような空間だ。

「三人寄ってくださーい!」

ミウが俺の肩に腕を回す。
反対側ではレイが自然に寄り添い、三人で顔を見合わせて笑う。

「いいですねー!」

そして撮影は一時間ほどで終わり、そのままスタジオの一角でインタビューが始まる。

内容は、この夏の特集記事用。
前半は和やかな質問ばかりだったが、後半になると空気が少し変わった。

「ではここからは、恋愛についても聞かせてください」

来た。
この手の質問は珍しくない。
もちろん、事務所からも毎回言われている。

『Prism★Starsのファンは男女どちらもいます。
特定の誰かを思い浮かべるような答えではなく、できるだけ多くの人が「自分にも当てはまるかも」と思える答えをしてください。』

恋愛経験も、基本的には「ない」で通す。
それがPrism★Starsのルールだった。

「ミウさんの好きなタイプは?」
「そうですねぇ」

ミウは少し照れたように頬へ指を添える。

「お互い尊敬できるところがある人、かな。
あとは私、ショッピングが好きなので、一緒に楽しんでくれる人がいいですね。……まあ、そんな経験まだないんですけど」

ミウが頬を染めて笑うと、スタッフさんたちから小さな笑いが起きた。

(白々しい……)

この前、普通に彼女がいるって聞いたばかりなんだけど。
心の中だけでツッコミを入れる。

「なるほど。ではレイさんは?」
「僕は年上の人ですね」

レイは穏やかに微笑んだ。

「芸能活動を理解してくれる人だと嬉しいです」
「おおー!」

インタビュアーさんが嬉しそうに声を上げる。
年上ファンが多いレイらしい、絶妙な答えだった。

「では最後に、ルナさんは?」
「え……?」

突然名前を呼ばれ、一瞬だけ鼓動が速くなる。
好きなタイプ。
その言葉だけで、昨日の帰り道が脳裏によみがえった。

『……好き』

夕闇に染まる夜の駅。
腕を掴まれた感触。
頬に触れた、あの柔らかなキス。

(……ダメだ)

慌てて意識を切り替える。今は仕事だ。
一拍置いて、笑顔を作る。

「……僕は、一緒にいて自然と笑える人がいいなって思います。
あと、お互い無理をしなくていい関係というか……そんな人が理想です」
「素敵ですね!ではルナさん、今まで恋愛経験は?」
「……ありません」

そう答えながらも。
先ほどから頭に浮かんでいたのは、たった一人の顔だった。

「それでは、次の質問です──」

******

「ねえねえ、なんかルナ、ちょっと色っぽくなったんじゃない?」
「え?」

楽屋に入るなり、ニヤニヤしたミウに聞かれた。
すると側で水着を脱いでいたレイも頷いた。

「それは俺も思った。スチール写真もなんか、雰囲気あった」
「ていうか、恋愛の質問も今までテキトーって感じだったのに今日は妙にリアリティあったっていうか…あ、文字に落とせばいつもと変わらないからいいと思うけどぉ!動画だったらちょっとヤバかったかもね〜?」

ニヤニヤと続けるミウに俺は更にドキッとした。
多分、この前のことを思い出したから。
普通に答えてたつもりだったのに、そこまでバレてたなんて想定外で俺は狼狽えた。

「べ、別に、適当に答えてたよ今日も!」
「そ〜う〜?一緒にいて楽しい人って、例の友達?」
「……っ」

違う、とも言えずに俺は口をぱくぱくさせた。
それにレイは驚いたように言う。

「分かりやす。え、付き合ってんの?」
「付き合ってない!」
「じゃあ告白されたとか?」
「え…あ…」

「きゃーーっ!」

俺が口籠ると、ミウが両手を合わせて歓声を上げた。

「青春じゃない!うちのルナにもそんな春が来ちゃったのねぇ!」
「っ……!」

感慨深く言うミウに、俺は耳まで熱くなる。

「でも」

不意にミウは人差し指を立て、少しだけ真面目な表情になる。

「恋愛に夢中になって仕事を疎かにするのだけはナシよ?」
「そ、それを言うなら、お前だっているんだろ。その……恋人」

するとミウは肩をすくめ、あっさり頷いた。

「前にも言ったでしょ?私の場合は理解のある彼女だから。
中学一年生から付き合ってるもの。会えない日が続いたくらいで揺らぐような関係じゃないわ」
「へ、へぇ……」

中学一年生の頃となると、もう5年とかそこらになる筈だ。
それはもう家族とかそういう感じなのかも、と想像したりする。

「仕事のこととか…どこまで話してる?」

それは俺が気になっているところだった。
律と付き合うなら、仕事のことも話さないといけない。

今も芸能活動してるって。
女装アイドルPrism★Starsのルナとして活動してる、って。

その問いに、ミウは拍子抜けするほどあっさり答えた。

「全然」
「……え?」
「アタシ、プライベートと仕事はきっちり分けるタイプなの」

そう言って髪をかき上げる。

「向こうから『雑誌見たよ』とか『ライブお疲れさま』って言われることはあるけど、こっちから仕事の話はほとんどしないわね。……というか、しない」
「話したくならないの?」

俺なら、もし知ってもらったら色々悩みとかも話してしまいたくなるような気がする。
そんな俺に、ミウは肩をすくめて笑った。

「別に?
まあアタシはここで言いたいことは全部言ってるから、愚痴りたいとかはないからかしら」

そりゃそうだよな、と思って見てしまう。
ミウは言い方は棘があって嫌味だが、裏でコソコソ愚痴るような奴ではない。

「それに、仕事のことを一般人に話す事はリスクもあるわ。
それまで付き合っていた恋人が、別れた日に付き合ってた間のことを週刊誌に暴露……なんて事もあるくらいよ」

その言葉に身震いする。
芸能人にとっては恋人がいることすらスキャンダルだというのに、二人の間だけだったことを暴露されるなんて。
そんなリスクもあるのか、と考えて頭を振る。

(律は、そんなことしない)

その思考を読んだかのようにミウは続けた。

「もちろん、『この人だけは大丈夫』って思える相手もいるでしょうね。でも、人って傷つくと何をするか分からないものよ。
だから芸能人にとって、スキャンダルは一番怖い。
そして私たちはまだまだ若輩者よ。仕事も沢山あって、頑張らないといけない時期に色恋にうつつを抜かしている暇なんてない!なんてのが一般的な考えなんじゃないかしら?」
「そうだよな……」

それはそうだ、と思ってがっくりと肩を落とす。

「でも……アタシはそんなの、非人間的だと思う」

その言葉に顔を上げると、ミウは思いのほか優しげに微笑んでいた。

「恋愛って、人間的にも成長できる最高のイベントよ。
芸能活動にもいい影響があるはずと思うわ。
勿論ファンがいるから、それを裏切らない努力はするべきだけど…仕事を頑張る上では妨げになるものではないと、私は思う。だから────」

ニヤリ、とミウは笑った。

「私はアンタの恋、応援するわよ?」
「ミウ………」

その言葉に胸がじんわりと温かくなる。
すると今度はレイが苦笑しながら口を開いた。

「おいおい。そんな自由恋愛、リーダーとしては認められねえって」
「あら、じゃあPrism★Starsは恋愛禁止なの?」
「そうじゃないけどさ。……でも人の気持ちはどうしようもないしな。さっきミウがリスクも色々話してくれたし、それ踏まえた上でルナが決めることだろ」
「リーダー……」

二人が色々考えてくれていたみたいで、俺はなんだかんだ嬉しかった。
そして振り絞るように言う。

「……ありがとう。その……俺もちゃんと考えて、自分で決めるよ」

その言葉に、ミウとレイは顔を見合わせると、力強く頷いた。