Prism★Stars〜女装アイドルは美容男子と恋に落ちる〜

『Prism★Starsルナ、男性としての素顔を公表!』
『朝倉ハヤテ、デビュー!』

アリーナライブの翌日。
SNSには、そんな見出しが次々と躍っていた。

そして迎えた、新しい朝。
俺は少しだけ緊張しながら、学校へ向かった。

教室の扉を開けた、その瞬間。

「……えっ?」
「ねえ、あれ朝倉くん……!?」

すれ違ったクラスメイトたちが、思わず足を止めて振り返る。
それも無理はない。

今日の俺は、もう黒縁メガネも、顔を隠すように垂らした前髪もない。
コンタクトを入れ、髪はきちんと整えたマッシュヘア。
昨日のステージほど派手ではないけれど、素顔のままの朝倉ハヤテで登校していた。

「……朝倉くん、雰囲気違くない?」
「え、めちゃくちゃカッコいい…!」

そんなひそひそ声が、あちこちから聞こえてくる。
少し照れくさかったけれど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
俺はそのまま歩いて、自分の席へ向かう。

「おはよ」

隣に座る律へ声を掛けると、律は目を丸くしたまま俺を見つめた。

「……おはよ」

驚きが隠せないような表情。
ここ最近は俺も仕事で学校を休みがちだったし、律とも以前ほど話せていなかった。

だからこそ、今日はちゃんと声を掛けたかった。

「今日、部活あるからな。忘れんなよ」

そう言って笑うと、律も少しだけ表情を和らげる。

「……ああ。ハヤテもな」

短いやり取り。
それだけなのに、どこか前みたいな空気が戻ってきた気がして、俺は小さく胸を撫で下ろした。

やがてチャイムが鳴り、教室のざわめきも少しずつ落ち着いていく。
そうして、いつものホームルームが始まった。

******

そして部活帰り。
俺は当たり前みたいに口を開いた。

「今日、律の家行きたい。話したいことあるから」

律は少しだけ目を見開き、それから静かに頷いた。

「……わかった」

そうして俺たちは、一緒に律の家へ向かった。
久しぶりに訪れた部屋は、どこか懐かしくて。
少しだけ緊張していた心が、不思議と落ち着いていく。

部屋に入るなり、律がぽつりと言った。

「……めっちゃカッコよくなった、ハヤテ」

その言葉に思わず目を丸くする。
そして自然と笑みがこぼれた。

「ありがと。惚れ直した?」

冗談半分で言ったつもりだった。
だけど律は、迷いなく頷く。

「うん」

あまりにも真っ直ぐ返されて、俺は照れくさくなってしまう。

「えっ……」
「あ、違うな。惚れ〝直した〟は違う」

律は少しだけ笑って、俺を見つめた。

「……惚れてる。前から、ずっと」

その真っ直ぐな瞳に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
小さく笑って、俺も答えた。

「……良かった。俺も、好き」
「……え」

律の目が大きく見開かれる。
まるで信じられないものを見たような顔だった。

「何、その反応」
「いや……本当に?」

言葉を探すように口を開いては閉じる。

「だって……」

その様子がおかしくて、俺は思わず笑ってしまった。

「もしかして俺が、誰か別の人と付き合うと思ってた?」

律は苦い顔のまま、小さく頷いた。

「……最後、俺、自分から帰らせただろ。
あの時、本当は追いかけたかった。
それでもハヤテがいいって思ってた。
でも……ハヤテにその気がないのに追いかけたら、もっと傷つけるかもしれないって思って。
だから最近は、考えないようにしてた」

律は少し間を置いて、また続ける。

「……それでも、ふとした瞬間に思い出してさ。
やっぱりまだ好きなんだなって思ったり。
あのアイドルの先輩と付き合ったのかな、とか考えて、一人で勝手に落ち込んだり」
「……ごめん。いっぱい悩ませちゃった」

その言葉に、胸が締めつけられた。
俺が答えを出せなかったせいで、律まで苦しませてしまった。
申し訳なさを抱えながら、ゆっくりと言葉を続ける。

「俺さ……今まで、自分で何かを決めてこなかったんだ。
女装アイドルになったのも成り行きだったし、『こうしたい』っていう自分の意思なんて、ほとんどなくて」

少し息を吐く。

「でも……律が変えてくれた」
「……俺?」
「うん」

頷いて、視線を落とす。

「美容のことも、スキンケアも、メイクも。
律は『ありのままのハヤテが魅力的なんだ』って、ずっと伝えてくれてたんだよな。
俺、それが最近になってようやく分かった」

律は何も言わない。
ただ真っ直ぐ俺を見ていた。

「奏さんのことは……本当にいい先輩だった」

俺は正直に話す。

「でも俺が鈍すぎて、家に行くまで全然気持ちに気付けなかった。泊まった夜に……告白されて。その時、キスも……された」
「…………」

律はぐしゃっと髪をかき上げる。
その苦しそうな表情に胸が痛む。

「ごめん。でも、それ以上は本当に何もない。
ちゃんと先輩後輩として終わらせたし……俺も、それ以上の気持ちはなかった」

しばらく黙っていた律は、小さく息を吐いた。

「……それ聞けて安心した。自分で聞いたくせに、何があったのか想像ばっかりしてたから」

ようやく肩の力が抜ける。
だけど次の瞬間、律は眉を寄せた。

「でもキスしたのは許せない」

その低い声に思わず苦笑する。

「俺も油断してたから。……でも、その出来事があったから考えたんだ。俺、自分ってものが全然なかったなって。
芸能界でどう生きたいのかも、何を大切にしたいのかも…」

律は何も言わず、続きを待っている。
俺はゆっくり息を吸った。

「律が、ありのままの俺がいいって言ってくれたから。
だから決められたんだ。
素顔の朝倉ハヤテとしても、芸能界で生きていこうって」
「ハヤテ……」
「もう流されたりしない。芸能界も、学校生活も。ちゃんと自分の意思で選んで、自分らしく生きていく」

そう言って、少しだけ律に近づく。
そっと右手を差し出した。
そして、律の瞳を真っ直ぐ見つめる。

「だから──俺と……付き合ってもらえませんか」
「っ……勿論!」

その手はギュッと握り返された。
そしてその手を強く引かれて───

「わっ……」
「好き。ハヤテ、大好き」

その言葉に胸に熱いものが込み上げる。
律の腕の中、俺は目頭が熱くなった。

「俺も。律が大好き」

そして俺たちは見つめあって。
恋人としての初めてのキスをした。
律の唇は、薄いけど熱くて。
俺たちは何回も唇を重ね合わせた。

そして何回目かの時にボソッと、律が言った。

「……ハヤテだけじゃなくて。ルナちゃんも……好き」
「え?」

思わず聞き返すと、律は少し照れくさそうに視線を逸らした。

「最近さ……Prism★Starsの特集が載ってる雑誌とか、ライブ映像とか見てて……気付いたら、ファンになってた」
「え……えええっ!?」

思わず素っ頓狂な声が出る。
そういえば、律がルナとしての俺を知ったのはつい最近のことだった。

「頑張り屋で、ダンスも上手くて。それに……すごく可愛いし」

照れ笑いを浮かべながら、律は続ける。

「気付いたら、雑誌とかグッズとか、いろいろ集めてた」

その言葉で納得した。
心なしか部屋に雑誌が増えていたのは、そのせいだったんだ。
なんだかくすぐったくて、照れくさい。
でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

「あ、でも女の子の姿だから好きって意味じゃないから!ハヤテだから好きなんだ。どんな姿でも、全部ハヤテだから」

その必死な言葉に、俺は自然と笑みを浮かべた。

「うん、ありがとう。……どっちの俺も、俺だから」

そうして安心したように笑う律と俺は、またキスを交わしたのだった。

END