Prism★Stars〜女装アイドルは美容男子と恋に落ちる〜

『Prism★Stars・ルナ、HYPER-MEN・神崎奏とお泊まり愛!?』

人気アイドルグループPrism★Starsのルナ(17)と、HYPER-MENの神崎奏(22)に〝お泊まり〟が発覚した。
本誌は先日深夜、ドラマ撮影を終えた二人が都内の神崎の自宅マンションへ入っていく姿を確認。その後、ルナがマンションから出てきたのは翌朝だった。
二人は現在、秋ドラマ『定時間内にはヤメテ!〜神父は私に恋をした〜』で共演中。
撮影現場でも親しげな様子が度々目撃されており、急接近していたようだ。

翌朝、マンションから出てきた神崎を本誌が直撃。

────ルナさんとはご友人ですか?

神崎は記者の問いかけに一瞬足を止めたものの、その質問には何も答えず、軽く会釈だけをしてその場を後にした。

一方、ルナの所属事務所は交際を否定。「仲のいい友人関係と聞いてます。本人は終電を逃し、保護者の了承を得て宿泊したと説明しました」とコメントしている。
またルナ本人からは「神崎奏さんは頼りになる先輩です。ドラマについて話していたら終電を逃してしまい、保護者にも連絡したうえで泊めていただきました。まさかこのような形で記事になるとは思っていなかったので驚いています」とコメントがあった。

果たして二人の関係は、ドラマ共演をきっかけに親交を深めた友人なのか。それとも────。
今後の動向に注目が集まりそうだ。

「やられたわねえ。まさかうちのスキャンダル第一号がアンタとは…」
「……ごめんなさい」

俺は隣のミウの言葉に、身を小さくしてただ謝った。
小さな事務所の会議室には俺、ミウ、レイ、マネージャー、そして事務所の社長が記事を前に一堂に会していた。

「……時間が遅くなって、神崎奏さんが気を使って泊まらせてくれたのも、事実です。
でもここに書いてあるような、ことではなくって……」

しどろもどろで俺はまた弁解した。

「うちもまさか記事にするって連絡が来た時はどうしようかと思ったよ。でも、差し止めようがないってさ」

マネージャーは焦ったように言う。
それにまた胸が痛んだ。
俺はとんでもない迷惑を、みんなにかけてしまった。

「社長……本当にごめんなさい。
ユニットも人気が出て、これからって時に俺、なんてこと……」

ぽろ、と涙が一粒落ちた。
それは自分の起こしたことの責任の重さから出た涙だった。
それを見て、今まで黙っていた社長が口を開いた。

「……差し止めが出来ない理由。実はテレビ局も噛んでるからなんだ」
「……え?」

思わず顔を上げる。
社長は机の上の記事を指先で軽く叩きながら続けた。

「今回のドラマ、主演に佐原レイナさんを起用した話題作ではあるんだけどね。月9でもドラマの視聴率は今ひとつ伸び悩んでいる。局としては、放送前に少しでも話題を作りたかったんだろう」
「じゃあ……この記事は」
「完全に仕組まれたものとは言わない。でも、局としても〝止める理由がなかった〟ってことさ」

会議室に重たい沈黙が落ちる。
そんな理由で。
俺はなんと言っていいかわからず閉口する。
社長は苦笑しながら肩をすくめた。

「もっとも、今の時代は昔ほど恋愛スキャンダルに世間も騒がないよ」
「え……?」
「芸能人同士が撮られても『そうなんだ』で終わることも多い。恋愛リアリティーショーなんて、カップルを応援する文化が出来上がってるくらいだからね」

確かに、最近はSNSでもそんな話題をよく見かける。
恋愛を隠すより、むしろ公表して人気になる人も少なくない。

「だから今回の記事だけで芸能人生が終わる、なんてことはないよ」

その言葉に少しだけ肩の力が抜けた。
けれど社長は、そこで表情を引き締めた。

「ただ、ルナは少し事情が違う」
「……」
「うちはこれまで〝可愛くて清純なアイドル〟というイメージで売ってきた。ファンもそういうルナを応援してくれていた人が多い」

その言葉に胸が締め付けられる。

「だから事務所としては、『先輩の厚意に甘えてしまっただけで交際の事実はありません』というコメントを出した。あれが現時点で一番、ファンへの誠実な説明だと判断したからだ」

……そうだ。
それは全部、本当のことだった。

「それでも、この件で離れるファンはいるだろう」

その言葉は静かだった。
だからこそ、重かった。

「アイドルは商品だ。応援してくださるお客様がいて初めて成り立つ仕事なんだから」

俯いた俺の膝の上で、拳が震える。
やっぱり俺は。
みんなの足を引っ張ってしまったんだ。

「でもね。ルナだって17歳の、一人の人間だ」

社長の声が少し柔らかくなる。

「……」
「恋愛に悩むこともあるだろう。誰かを好きになることだってある。それを全部否定する時代では、もうなくなってきている。
むしろ、そういう人間らしさも含めて応援してくれる人は、これからもっと増えていくのかもしれないね」

俺は何も言えなかった。

「だから今回の件で君を処分するつもりはない」
「……え?」

思わず顔を上げる。

「活動自粛もなし。もちろんPrism★Starsから外す予定もない」
「社長……」
「ただし、歌割りや露出の調整が必要かどうかは別問題だ。ドラマの反響、世間の空気、ファンの反応。それを見ながら慎重に判断する」

現実的な言葉だった。
決して甘やかしているわけではない。

「一つだけ約束してほしい」

社長は真っ直ぐ俺を見る。

「困ったことがあったら、一人で抱え込まずに相談してほしい。君たちは商品である前に、うちの大事な所属タレントなんだから」

その一言で、張り詰めていたものが切れた。

「……はい」

涙を拭いながら、俺は小さく頷いた。
その時だった。

「……社長」

静かに口を開いたのはミウだった。
腕を組んだまま、どこか納得できないような表情を浮かべている。

「少し三人だけで話させてもらってもいいですか?」

すると隣にいたマネージャーも空気を読んだように立ち上がる。

「わかった。社長、少し席を外しましょう」
「ああ。あとは任せるよ」

社長たちが会議室を出ていき、扉が静かに閉まる。
部屋には俺と、ミウと、レイだけが残った。

ミウはさっきまでとは違う、真剣な眼差しで俺を見つめていた。

「アンタの口から、ちゃんと事情を聞いてないと思って」

ミウは椅子の背もたれにゆったりと身体を預け、腕を組んだまま真っ直ぐ俺を見据えた。

「さっきは『本当に何もありませんでした。ただのいい先輩です』って言ってたけど……そんなわけないでしょ」
「……」
「神崎奏は記者に何も答えなかった。本当にただの先輩後輩なら、『友人です』って一言言えば済む話なのよ。同じ業界、しかも共演者なんだから」

鋭い視線に射抜かれ、俺は観念したように口を開く。

「……あの日、告白されちゃって」

その瞬間、ミウとレイは顔を見合わせる。
やっぱり。
そんな表情だった。

「でも、本当にそれまでは優しい先輩って感じだったんだよ。現場でもすごく気にかけてくれて……」

ぽつりぽつりと、あの日のことを話し始める。

「その日もドラマが佳境で、『演技についてゆっくり話そう』って誘われて……。ご飯をご馳走になるのも悪いからって言ったら、『じゃあ家で作るよ』ってなって、それで……」

俺はその後の出来事も、隠さず二人に伝えた。
記事が出ると分かってから奏さんと電話で話したこと。
記者に声を掛けられた時、一瞬だけ立ち止まった理由。

「出てきた時、どうしようか一瞬迷った。
でもただの友達です、ってあの夜の後じゃ言えなかった。
迷惑かけるかもしれないけど…ごめん」

奏さんはそう言っていた。
電話口で俺は「むしろ俺のほうこそ迷惑かけてしまってごめんなさい」と謝った。

話し終える頃には、部屋は静まり返っていた。

「はぁぁぁぁぁ……」

大きなため息をついたミウが、そのまま机へ突っ伏す。

「……私が一番心配してたことが、そのまんま起きちゃったじゃない」

「え……?」

隣のレイを見る。
レイも困ったように眉を寄せ、小さくため息をついていた。
やがてミウは勢いよく顔を上げる。

「アンタねぇ……。清純派にも程があるのよ!」

「は、はいっ!?」

「何回も二人で食事して、その流れで家に誘われて、二人きりで過ごして……それ、どう考えてもデートでしょうが!」

「え……っ」

言われて、思い返す。
何度もご飯に行ったこと。
奏さんの自宅に行った時は、料理を作ってくれたこと。
一緒に仕事や、生活のことまで相談に乗ってくれて、夜遅くまで過ごした時間。
あれは全部────

「……デート、だったの?」

俺のその反応に、ミウは額を押さえた。

「だから心配してたのよ。アンタは、この業界でやっていくには純粋すぎる」

そしてスマホを軽く持ち上げる。

「神崎奏、調べたら今まで何回もスクープ撮られてるじゃない。恋愛経験だってアンタよりずっとあるでしょうね。
……もちろん本気だった可能性もあるわ。でも、アンタにはその見極めができない」

その言葉が胸に刺さる。
奏さんは、自分でも恋愛には慣れていると言っていた。
キスをした時も。
抱き寄せられた時も。
全部、とても自然だった。

「視聴率に苦しんでるテレビ局には話題作りに利用されて、恋愛経験豊富な相手にはペースを握られて……。
その結果、これまで積み上げてきたファンを失うかもしれないリスクを背負ってるのは、アンタなの」

ミウは真っ直ぐ俺を見た。
何も言い返せない。
全部、自分が招いたことだった。

しばらく沈黙が流れたあと、ミウは静かに息を吐く。

「アイドルってね、綺麗事だけじゃやっていけない世界なのよ。周りに使われるんじゃなくて、自分で状況を利用していかなきゃ生き残れない。仕事も、人脈も、話題も、全部」

そして最後に、静かな声で言った。

「……アンタは、まだそこが分かってない」

「…………」

返す言葉は、ひとつもなかった。
結局その日は、それ以上誰も口を開くことはなく。
重苦しい空気だけを残したまま、俺たちはそれぞれ帰路についた。