Prism★Stars〜女装アイドルは美容男子と恋に落ちる〜

美術部の合宿は、無事に終わった。

芦ノ湖での写生大会を終えたあとは、みんなでバーベキューを楽しみ、汗を流して温泉に入った。
一晩ぐっすり眠り、翌朝は貸し切りバスで高校まで送ってもらう。

そして自宅に帰り、部屋へ入った途端、俺は大きく息を吐いた。
頭に浮かぶのは、合宿最後の一日での出来事。

ハヤテと、芦ノ湖を出てからほとんど話せなかったことだった。

「ありがと、律。
この絵、俺すっげぇ気に入ったからさ。貰ってもいい?」

あの時は、満面の笑みでそう言われた。
もちろん頷いたし、その瞬間までは何もおかしくなかった。

問題は、そのあとだ。

全員で宿へ戻ると、そのままバーベキューが始まった。
先輩も後輩も入り混じる行事だ。話しかけられれば相手をしないわけにもいかず、気づけばハヤテとゆっくり話す時間はほとんどなかった。
風呂も部屋の四人でまとまって入り、そのまま就寝。

そして翌朝。
帰りのバスで、ハヤテは突然「大木、一緒に座ろう」と声をかけ、自分から席替えを提案した。

「……あ」

思わず何か言いかけた頃には、もうバスは発車していた。
結局俺は何もできず、少し離れた席で大木と楽しそうに笑うハヤテを眺めることしかできなかった。

高校に着いてからも「ちょっと用事あるから!」とだけ言い残し、ハヤテは足早に帰ってしまった。

(……あそこで、ようやく気づいたんだよな)

避けられてる。

そんな考えが、頭をよぎった。
けれど、理由がわからない。
初日に何か失言でもしただろうか、と何度も思い返す。
でも、あのあとちゃんと話して、お互い笑っていたはずだ。
写生大会だって、いい雰囲気だった。
思い返せば思い返すほど、答えは見つからず、考えだけが堂々巡りを繰り返す。

(……考えても仕方ないか)

ひとつ息を吐いて気持ちを切り替えようと、俺は手元のリモコンを取り上げる。
ピッ、と電源を入れると、静かだった部屋にテレビの音が流れ始めた。

『この秋スタートの新ドラマをご紹介します!
まずは注目の月9ドラマ〝定時間内にはヤメテ!〜神父は私に恋をした〜〟。
主演は、すっかり日本を代表する俳優となった佐原レイナさんと川俣純平さん。お二人が織りなす新感覚ラブコメディにご期待ください!』

(……もう秋ドラマの時期か)

何気なくテレビを眺める。
合宿のことを忘れたかっただけなのに、気づけば番組をぼんやり見ていた。

『舞台は、とある都会の学習塾。
仕事一筋の女教師・純子を心配した母親が、ある日、一人の神父との縁談を持ち込んだことから物語は始まります。
「こちら、道で私を助けてくださった神父様よ」
「神父!? 絶対イヤ!」』

テンポのいい掛け合いに、思わず小さく笑う。
コミカルなのに続きが気になる。
そんな不思議な引き込まれ方をするドラマだった。

『純子の周りには個性豊かな人物が勢ぞろい。
中には、彼女に想いを寄せる者もいて──』

「先生!」

(……ん?)

その一瞬だった。
画面いっぱいに映し出された女子高生の顔を見て、俺は息をのむ。

『彼女は塾に通う高校生・中山優希。
可憐で人懐っこい彼女には、誰にも言えない秘密があります。
そして同じ塾に通う岩倉康太もまた、物語の鍵を握る重要人物です』

(……ハヤテ?)

思わずテレビへ身を乗り出した。
ぱっちりした目。
柔らかい笑顔。
少し困ったように笑う癖。
女子高生の姿をしているから雰囲気は違う。
メイクも髪型も、女の子そのものだ。

それでも、その面影はあまりにも見覚えがあった。

『優希を演じるのは、人気急上昇中のアイドルグループPrism★Starsのルナさん。
そして康太役は、HYPER-MENの神崎奏さんです。
今日はお二人からコメントをいただいています』

画面が切り替わる。

「初めてのドラマ出演でしたが、いかがでしたか?まずはルナさん」

『はい。こんな素敵な作品に出演させていただけて、本当に嬉しかったです。佐原さんや川俣さんをはじめ、皆さんのお芝居からたくさん勉強させていただきました』

……声が違う。
普段のハヤテより少し高く、柔らかい話し方。

(違う……のか?)

もしかしたら、ハヤテに妹がいるのかもしれない。
それとも、ただよく似ているだけの別人。
そう考えようとしている自分に気づき、胸がざわついた。

『神崎さんはいかがでしたか?』
『僕も本当に楽しかったです。皆さん優しくしてくださいましたし、ルナちゃんとも仲良くなれましたしね』

そう言って隣を向き、親しげに笑う神崎奏。

『はい』

ルナも自然に笑い返す。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥が妙にざわついた。
理由はわからない。
ただ、楽しそうに話す二人を見ていると、なぜだか面白くなかった。

『劇中ではお二人は同じ塾に通う同級生なんですよね』
『そうなんです。康太はすごく頼りになる存在で、現場でも奏さんは本当にそんな感じでした』
『照れるなあ。でもルナちゃんが演じる優希も、本当に可愛くて。ぴったりの役だと思います。……その先は、ぜひドラマで確かめてください!』

『ありがとうございました!
〝定時間内にはヤメテ!〜神父は私に恋をした〜〟は、月曜よる9時スタートです。ぜひご覧ください!』

十五分ほどの番宣は、そこで終わった。
画面はそのままニュースへ切り替わる。
俺は無言でテレビを消し、テーブルの上に置いてあったスマホを手に取った。

深呼吸しながら画面を開き、検索欄にゆっくり文字を打ち込む。

──Prism★Stars ルナ

検索ボタンを押した瞬間、関連ワードがずらりと並ぶ。

その中の一つを見た途端、俺の指は止まった。

『Prism★Stars・ルナ、HYPER-MEN・神崎奏とお泊まり愛!?』